明かされる真実
……キャーシュとの一件があった、翌日。昨日は情けない姿を晒してしまったが、あのことは一旦忘れるとしよう。
昼休みの時間、俺とノアリとミライヤは、中庭で昼食を取っていた。ノアリとミライヤは、クラスの女子と食べることもあるし、俺も男子と食べることはあるが……今日は、この3人だ。
最近、教室内の雰囲気はいい。俺やミライヤに積極的に話しかけてくれる人も増えたし、こちらから話しかけてもわりとフレンドリーに返してくれるようになった。
今日は購買で買ったパンを食べつつ、他愛ない会話をしていた。
「……あ、ヤーク様。それにカタピル様に、ミライヤさん」
「ここにいらしたんですね」
ふと、俺たちに話しかけてくる声が。声の方向に顔を向けると、2人の人影が立っていた。この1年、同じ組の中で、特に仲良くなった2人だ。
男子の方は、タルロー・ピラカ。背が高く、スキンヘッドな上にガタイもいいため威圧感があるが、裏腹に性格はおとなしく、物腰柔らかい感じだ。ぶっちゃけ、初めて会ったときは殺されるんじゃないかと思った。
女子の方は、ナーヴ・エリナテッゼ。腰まで伸びた赤みがかった茶髪を、なぜか後ろで4本にまとめている。タルローとは逆に背は低く、ミライヤとはまた違った小動物感がある。距離の詰め方がうまい。
この2人は幼なじみのようで、よく一緒にいる。そんな2人と話すようになったきっかけは、購買だ。俺が、なんのパンにしようか悩んでいたところ、タルローがオススメのものを教えてくれた、というもの。
「ナーヴにタルローじゃない。どうかしたの? なにか用?」
「いえ、用というわけでは……ただ、今日はいい天気なので、昼食にいい場所を探していたところです」
「そうしたら、3人を見つけたというわけで」
ナーヴは距離の詰め方がうまく、ノアリとミライヤもあっという間に仲良くなった。友達も多いようで、ナーヴの友達からさらに友達を……と、人の輪が広がっていく。
人脈が多いのだ、この子は。
「じゃあ、2人もここで食べたらいいよ」
「! よろしいのですか?」
「私たちもう食べちゃったし、それでもいいならだけどね』
人数が増え、3人から5人の空間に。人数が増えれば、それだけ話の種も増えるというもの。食事をしながらも、話に花を咲かせていく。
なんとも平和な、1日……そう思うには、充分な空間であった。そう……昨日の忠告にも似たクロード先生の言葉など、まったく頭から抜け落ちてしまっていた。
もっとも、覚えていたところでどう対処もできなかっただろうが……その時は、突然、訪れた。
『……あー、あー。聞こえているかな』
それは、どこからともなく聞こえてきた声だった。それは、聞き覚えのある声……しかし、どこかノイズの入ったような、声だった。
どこから聞こえるのか……声に反応したのは、俺だけではない。ノアリもミライヤもタルローもナーヴも。それぞれキョロキョロしている。だが、やがてミライヤが「あ」と声を漏らし、ある場所を指差す。
その先にあったのは、なんてことはない……校舎の、壁だ。しかし、おかしい……少し薄汚れた、それでも白くきれいな壁には、なにやら映像のようなものが、表示されている。
「なにあれ……」
「スクリーン……みたいですね」
ノアリの呟きに答えるように、タルローが言う……それは、なんとも的を得た答えのように思えた。スクリーン……校舎の壁を、幕として映像が映し出されている。
しかも、映像があるのはそこだけではない。声はあちこちから聞こえる。よくよく辺りを見渡すと、木に、ベンチに、窓に、別の壁に、さらにはなにもない空に……あらゆるところに、映像が映し出されているのだ。
そして、そこで喋っている人物こそ……
『えぇと、声だけじゃなく映像も、流れているんだよね。……こほん。どうも、皆さん。はじめましての人も多いと思います、なので簡単に自己紹介を。僕は、ゲルド王国第二王子、リーダ・フラ・ゲルドです』
……本人が名乗った通り、このゲルド王国の第二王子である、リーダ・フラ・ゲルド様であった。彼が、どこかにいて、それを映像としてなんらかの手段で、あらゆる箇所にスクリーンのように、映し出しているってことか?
その光景に、周囲の生徒もざわついている。いったい、なにが始まったのか……そもそも、これはどんな方法で行っているのか。みんな、わからない。
っそして、そんな時間の中でも、スクリーンの中のリーダ様は言葉を続けていく。
『挨拶は、あまり長くない方がいいかな。僕は、皆さんご存じの通り、王族ではありますが、優先的な王位継承権は別の人が持っています。そう、王位継承権は我が兄、ゲルド王国第一王子であるシュベルト・フラ・ゲルドが持ってます!』
誰もが周知している事実を、リーダ様は言う。そんなこと、なぜわざわざ、今更、こんな方法を使ってまで宣言するのか。
……俺の中に、言い知れぬ不安が沸き上がる。
『しかし、我が兄シュベルトは、この国の次期国王には、ふさわしくない!』
「……ねえ、ヤーク、これって……」
「あ、あぁ……」
『なぜならば!』
言葉は、だんだんと熱を帯びていく。このままでは、このまま喋らせていては、まずい……そう、わかっているのに、止める手段がない。リーダ様がどこにいるかも、わからないのに。
そしてついに、リーダ様は、決定的な言葉を口にした。
『シュベルト・フラ・ゲルドは、国王と正妃の息子ではないからだ! シュベルトは、国王である我が父、アルベーラ・フラ・ゲルドが、側室に産ませた子供だ! ゆえに、シュベルトに王位継承権などありはしない!』
……そう、決定的な、言葉が、語られた。シュベルトが、国王の子ではあっても正妃の子ではないと。
リーダ様には、注意が必要だと、クロード先生は言っていた。それ以前に、俺もそう思っていた。しかしまさか、このような事態に、なるなんて。俺は……いやきっと、誰にも、予想なんてできなかった。
だってそうだろう。確かにシュベルトの出自を明かせば、王位からはかなりぐらつく。それほどの真実なのだ。だが、シュベルトの出自を明かすということは、国王の……ひいては国の、恥を明かすも同じこと。普通に考えれば、そんなこと、なんの利にもならない、明かすはずがない。
それを、まさか同じ王族の……よりにもよって、国王の息子から、暴露されるなんて。
「……!」
「ヤーク!?」
「ヤーク様!」
次の瞬間、俺は走り出していた。
その場にいたノアリとミライヤは、シュベルトの事情を知っているが、タルローとナーヴは、そうではない。いきなり明かされた真実に、混乱している。いや、これが真実だということすらわかっていないだろう。
だが、人の心理とは怖いものだ。シュベルトの出自が明かされれば、遅かれ早かれ、彼になんらかの……それこそ、罵倒や危害が加えられるかもしれない。
シュベルトは国王と女王の子として、次期国王として国民に発表していた……言ってしまえば、それは国民すべてを騙していたということなのだから。
「シュベルト……!」
俺は、リーダ様と同じくどこにいるかもわからない、シュベルトを探すために走っていた。どこにいるかはわからない、だがおおよその見当は、ついている……!




