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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第6章 王位継承の行方

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雷っぽい剣技



「はい、始め!」


「では、いきます!」


「おう、来い!」



 学園の敷地内、その訓練場。そこは、生徒が自由に剣の鍛錬に使っていい場所だ。もちろん、真剣ではなく木刀ではあるが。そういう場所なので、俺たち以外の使用者もいるが……すでに、俺は目の前の人物以外は意識に入っていない。


 その場所で、俺とミライヤは互いに木刀を構え、向き合っている。これは、ミライヤの訓練……も含まれているが、それ以上に俺の訓練の意味合いが大きい。


 ミライヤは、腰を落とし、木刀を構えている。それは、居合いの構え……ミライヤの得意技にして唯一と言える、必殺の剣だ。


 俺たちを見守るように経つノアリは、審判のよう。立ち合いを見届ける意味で、付き添ってもらっている。



「すぅ……」



 ミライヤが、軽く深呼吸をしている。俺も、両手で木刀を握り締め、ミライヤの一挙手一投足を見逃さないように、全神経を集中する。


 ……どれほどの時間が経っただろう、とても長く感じられた。だが、実際にはほんの数秒であったはずだ。


 その時は、突然訪れる。



「……!」


「っ……は!」



 バシュッ……!



 ミライヤの身体が、少しだけ動いた……その、直後。まばたきをする程度の時間。一瞬の後、ミライヤの姿がその場から消える。


 いや……消えてはいない。正確には、消えるほどの超速度で、移動しているだけだ。その狙いは、俺の心臓部分……!



「づ……っ!」



 ガッ……コォン……!



 俺は咄嗟に、木刀で胸元を防ぐように横向きに、構える。直後、その場所に別の……ミライヤの木刀が触れる。互いの得物がぶつかり合った音が響き、少しの間力が拮抗する。ミライヤの細腕から、出ているとは思えない力だ。


 そして僅かな拮抗の後、俺の持っていた木刀は弾き飛ばされる。その直後に、わき腹にミライヤの木刀が打ち込まれた。



「ぐぁ……!」


「そこまで!」



 木刀を弾き飛ばされ、致命傷とはいかずとも一撃をもらってしまった……それを見届けたノアリの声が、響き渡った。勝負は、一瞬の出来事だっただろう。



「ふぅ……や、ヤーク様、大丈夫ですか?」



 尻餅をつき、わき腹を押さえている俺に、心配そうにしてミライヤが駆け寄ってくる。まったく、今自分でやったんだろうに。


 俺は、ミライヤを安心させるためにも、ミライヤの頭を撫でてやる。



「あぁ、心配ない。はぁ、今回もダメだったかぁ」


「ふん、ざまぁないわね」


「お前も人のこと言えるのかよ」



 俺の有様を見て、近づいてきながら鼻で笑っているノアリだが……ノアリだって、似たようなものではないか。


 ……これが、俺の、俺とノアリの訓練。ミライヤの居合いを受ける……というものだ。もちろん、ただ受けるだけではなく、最終的にはミライヤの居合いを防ぎきることを出来るようにする、これが最終的な目標だ。


 ミライヤは、技術的な面では他の生徒より一歩も二歩も劣る。それは、この1年で多少なり改善はされたものの……はっきり言って、まだまだだ。


 だが、そんなミライヤの得意とする剣技が、居合いだ。これは、入学試験の時に見せた、目に見えないほどの速度を持った一太刀だ。



「全然見切れないや、やっぱすげえな、ミライヤは」


「そ、そんなことはっ。それに、上達してますよ間違いなく!」



 いつからだったか、ミライヤの居合いを見るだけでなく、受けてみようという話になった。そして、実際に受けてみてわかった……俺もノアリも、ミライヤの剣を見切ることすら出来なかったのだ。


 初めのうちは、そりゃひどいものだった。剣を構えても、次の瞬間には腹に、肩に、足に、痛みが叩きつけられていた。それに、気絶してしまうことなんかもあった。


 なんとか剣を受けることが出来るようになったのは、随分と回数をこなしてからだ。それでも、打ち所が悪かったからか、受けた木刀が砕けてしまうことも少なくなった。


 木刀を砕くことなく受けることが出来るようになったのも、ミライヤがどこを狙ってきているのかを見ることが出来るようになったのも……ようやく最近になって、といったところだ。



「あ、すみません、上達なんて偉そうに……」


「いや、本当のことだしな」



 子供の頃から先生の鍛錬を受けたり、この学園に入学してからそれなりに剣が上達していたと思っていたが……まだまだだ。剣の腕も、動体視力も。


 これは、誇っていい技だ。見切ることすら困難な、剣なんて。だが、誇らしげどころか対してミライヤは眉を下げてしまっている。



「でも、やっぱりこれだけじゃ、通用しませんよね」



 そう、ミライヤの剣技は、居合いしかない。剣の腕は上達してはいるが、それでも打ち合いに関してなら、入学してきたばかりの後輩にだって手も足も出ないだろう。それでもミライヤが学園に残れているのは、ひとえにその努力と、唯一無二の剣を持っているからだ。


 だが居合いというものは、簡単に扱えるものじゃない。いくら目に見えないほどの速度で動けても、相手に狙いが付けられなければ意味がない。構えてから狙いを定めるため、僅かでも隙ができる。


 それに、複数人に囲まれてしまえば、それこそ為す術がない。一直線にしか狙いが付けられない居合いでは、複数人相手の戦いに向いていない。まあ、そんな事態はそうそうないだろうが。



「けど、以前よりは構えてから斬るまでの速度も、上がってるんじゃない?」



 と、ノアリがミライヤの肩を叩く。そう、ミライヤの居合いは、構えてから斬るまでの速さが、上昇している。


 今回はミライヤの居合いを受ける、という訓練であったため、ミライヤにたっぷりと時間をかけてもらった。だが、剣を抜くまでの仕草を計った時、以前よりも速くなっているのが分かった。


 これならば、居合いの構えの隙、というデメリットはほとんど克服したも同然だろう。



「そう、でしょうか」


「そうよ、もっと自信持ちなさい。私やヤークで見切れないなんて、そんじょそこらの奴なら、瞬殺よ」


「殺しちゃダメだろ」



 そう、ミライヤはもっと自信を持つべきだ。俺が居合いの真似事をしてみた時、ミライヤのようにうまくなんていかなかった。


 いや、そもそも居合いの技術自体、ほとんどが"待ち"の剣だ。相手が、剣の届く範囲に踏み込んできたら、すかさず剣で薙ぎ払う……だが、ミライヤのそれは待ちどころか自分から突撃していくのだ。


 剣を振る動作どころか、相手の懐に踏み込む速度が異常に速い。……ミライヤは運動神経がいい方ではないが、居合いの速度だけ、爆発的に上昇するのだ。



「ミライヤ、どうやってそんな速度出してるんだ?」


「どう、と言われましても……ただ、斬ることに集中してる、だけなので」


「結構怖いこと言うのな」



 本人に聞いても、わかっていないようだ。もしくは、説明するのが難しいのか……



「でもあれよね、ミライヤの脚力は、すごいもんよね。なんて言うのかしら、光……瞬間移動……?」


「そ、そんな大袈裟ですよぉ」


「! そう、雷みたいな! こう、バリバリぃって感じで! バリッ、ヒュンッ、って!」


「説明下手か!」


「どう? 雷足(らいそく)のミライヤって!」


「どうと言われましても」



 雷ね……お前、雷が鳴ったら腹隠してプルプル震えているくせに、なにを得意げに言っているんだ。こんなことを言ったら殴られるので、黙っておくが。


 さて、いつまでも座り込んでいるわけにもいくまい……そろそろ、周りの視線が痛い。



「やっぱすげーなあの子」


「でも平民だって話よ?」


「平民でも、あの技を見たろ?」


「まったく見えなかったもんな」



 いつの間にか、周囲にはそれなりに人が集まっている。みんな、ミライヤの剣技に注目していた。当然、俺のやられっぷりも。


 俺たちは毎回、この訓練場を使っている。なので、知っている人は知っているし、人がいる時でも遠慮なく使っているのだ。いつしか、平民(ミライヤ)の件がすごい、と有名になった。


 俺とノアリは、訓練の度ミライヤに倒されている場面を見られているわけだが……まあ、そんなことでミライヤの評判が挙がってくれるなら、安いものだ。


 ちなみに、たまに俺やノアリのように打ち合いを申し出てくる者もいる。大抵は、反応することも出来ずに気絶させられてしまうが。



「さ、ミライヤ、次は私よ!」


「わわ、はいっ」



 ノアリがミライヤを引っ張り、先ほどの俺と同じように訓練へと向かう。ちなみに、これは俺とノアリにとって、俺とノアリの訓練であるが、ミライヤにとってはミライヤの訓練の認識だ。


 居合いの速度が上がったのも、何十何百と打ち込んでいくうちに、上達したと思っているのだろう。実際、そうなのかもしれないが……俺たちのための訓練でもあると、思ってもみないんだろうな。


 ノアリとミライヤの打ち合い、となれば今度は俺が立ち会いだ。それぞれの位置へと移動していく二人を見つめながら、俺も移動していく。


 ……その後、ノアリからカエルのような悲痛な声が漏れたのだが、そこは本人の名誉のために詳細は割愛しておくとする。

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