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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第6章 王位継承の行方

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その尋ね人の名は



「もしかして、ヤークワード・フォン・ライオス様ですか?」


「!」



 それは、唐突だった。学園内の中庭を歩いていたところ、ふと後ろから声をかけられたのだ。聞き覚えのある、どこか色気さえも感じさせる声。


 俺は振り向き、声の主を確認する。そこにいたのは、予想通り……



「リーダ……様」


「あはは、リーダでいいですよ。あなたが先輩なんですから」



 ゲルド王国第二王子にして、騎士学園にした俺の後輩に当たる人物……リーダ・フラ・ゲルドだった。その後ろには、4、5人の男女がいた。



「いえ、そういうわけには……」



 そう、後輩だからって、いきなり無礼な口を聞くわけにはいかない。相手は王族なのだ。そりゃ、シュベルトのときはちょっと、世間知らずなところはあったかもしれないけど……あの時とは、違うんだ。


 しかし、なぜいきなり話しかけてきたんだろう。シュベルトとは友達だけど、それは個人的な付き合い。王族から俺に話しかけてくる理由なんて……



「お噂はかねがね聞いてますよ。なんでも、1年前の貴族による平民の夫妻殺し、あれを解決したのは先輩なんですよね?」


「解決ってほどのものじゃ……」


「それに、10年前のじゅ……」


「あーっ、その話はここではちょっと!」



 『魔導書』事件、あの事件の詳細は公には伏せられている。が、俺やノアリがその場に居合わせたことなどは、もうみんな知っていることだ。詳細までは、関係者くらいしか知らないが。そして、王族も一応は知ってるわけだ。


 まあ、あの件に俺や当事者のミライヤがいて、事件が終わった後、男が苦手になったミライヤが、俺にだけ懐いていれば……隠していても察しは、つくだろう。


 それは、まだいい。俺も、それなりに大きくなったことだし。だが、『呪病』事件のことは、本当に父上だけが解決したことになっているのだ。



「おっと、これは失礼」



 王族であるシュベルトやリーダ様に詳細は伝わっていても、一般の生徒がいるこの場で、その話をされたくはない。それを、察してくれたようだ。


 さすがに、当時7歳そこらの子供が、王都を騒がせた事件を解決したなんて知られたら……面倒なことに、なるしな。


 それから、リーダ様は俺の両隣へと視線を移す。



「そちらは、ノアリ・カタピルさん」


「え、あ、はい!」


「そちらは、ミライヤさん」


「ふぇ! あ、はい!」



 交互に、名前を確かめるように口を開く。2人とも、王族に話しかけられてわかりやすく緊張している。シュベルトに会ったばかりの頃も、こんな感じだったかなぁ。


 しかし、俺だけでなく、ノアリとミライヤのことも知っているのか。



「フォン・ライオス先輩は、いつも傍らに美しい女性を2人はべ……こほん。隣に置いていると、噂で耳にしたもので」



 おい、今侍らせてるって言おうとしなかった? 俺、そんな風に見られてるの?


 2人は2人で、美しい女性扱いされたことに照れている。なんか変な悪評とか流れてないだろうな。



「ところで、俺になにか?」


「えぇ、まぁ。学園での有名人に、挨拶をしておこうと。それに、兄も仲良くさせてもらっているみたいですし」



 ……その答えに、裏はなさそうだ。有名人、というのは俺のことか。あまり自覚はないが……とはいえ、最近はよく人に話しかけられる気がする。


 クラスでも、以前は勇者の家系ということもありあまり話しかけられなかったが、今では普通に話しかけられる。それに、ノアリやミライヤ以外にも、仲の良くなった者もいる。


 どうやら、貴族よりも位の高い家系でありながら、みんなに分け隔てなく接していること……特に、ミライヤやリィ、平民と仲良くしている姿が、良く映ったらしい。もちろん、そういう下心あって仲良くしているわけではないが。


 それに、実技などの成績も悪い方ではないので、まあ注目は、浴びる。



「シュベルト……様とは、俺が仲良くしてもらってるんですよ」


「そうですか? 兄上の方から、よく話しかけていると聞きますよ」



 ……確かに、シュベルトはよく話しかけてくる。話しかけられるのを待つタイプじゃなく、積極的に話しかけるタイプなのだ。


 なので、あまり俺から話しかけることはない。



「それに、聞きたいこともありましてね」


「聞きたいこと?」



 そこでふと、話題が変わる。俺に話しかけてきた理由、おそらくこれが本当の理由だろう。なんとなく、雰囲気が変わった気がする。


 俺に聞かれても、答えられるかはわからないが。さっき察してくれたから、『呪病』事件のこととかでは、ないとは思うが。



「えぇ。ある、エルフを探しているのです」


「……エルフ?」



 誰を、探しているのか……それは、エルフだという。エルフ、エルフか……この国にも、1年前に比べてエルフの数は増えた。ルオールの森林以外にもエルフはいるようで、そこにいた者が来ているらしい。


 だが、この国にいるエルフならば、わざわざ俺に言わずとも、家の力とかで探せるのではないだろうか。



「その、探しているエルフというのは? 特徴とか」


「それが、わからなくて」


「……?」



 探しているのなら、当然相手の特徴とかわかっているはずだろう。だが、それはわからないという。そんな相手を、どうして探しているのか。


 ノアリとミライヤを見ても、2人共首を傾げている。



「実は、そのエルフは1年ほど前にこの国に現れた……という情報は得たのですが。その後の消息が、つかめなくて」


「1年前、ですか」



 エルフ、1年前……その2つの単語を聞いて、俺の中に、ふとある言葉がよみがえった。



『主、転生者じゃな?』



 あの、謎のエルフの言葉だ。あれ以降、会ってはいないが、まさか……いや、気のせいだろう。1年前現れたって言ったって、ただ俺が思い出すのがそいつなだけだ。


 俺の知らないエルフなんて、たくさんいるのだから。



「なにか、ご存知ありませんか?」


「……すみません、特には、ないですね」


「私もないわ」


「同じく、です」



 心当たりは、あるが……それを伝えて、どうなるわけでもない。行方も知らなければ、関係性だってないのだ。ただ話しかけられただけで、しかもその内容は話せるものではない。


 エルフのことなら、アンジーやヤネッサに聞いておくのも、ありかもしれない。



「そうですか。やはり、そう簡単には見つかりませんね」



 残念そうに肩を落とす、リーダ様。これまでも探して、その度に見つからなかったのだろう。残念そうだが、落胆はしていないように見える。


 それにしても……ある、エルフか。なんのために、そのエルフを探しているのだろうか。



「でも、大変じゃない……ですか。なにもわからない相手を、探すなんて」



 と、ノアリ。ノアリの言う通りだ。それに、それは大変なんてものじゃないだろう。そもそも、そんな相手をどうやって探そうとも思ったのか。



「えぇ、ですが、わかっていることがひとつだけ、あります」


「わかっていること?」


「えぇ、名前です」



 どうやら、まったくの手がかりなし、というわけではないらしい。名前だけわかっている、というのも妙な話だが。


 ……そういえば、あのエルフ……俺と同じく、転生者だって言ってたな。それも、新しい命として転生したり他の器を乗っ取って転生したり、といったやり方で。それはつまり、特定の肉体がない……特徴がないというわけでもある。


 ……いやいや、まさかな。



「そのエルフの名は、セイメイ……シン・セイメイ」


「シン・セイメイ……」



 名前を聞いても、聞き覚えはない。身近にはいないし、エルフの森に行ったときもそんな名前のエルフとは会っていない。ひとりひとり自己紹介したわけじゃないけど。


 ……あのエルフの名前、そういや聞いてなかったな。



「もし、この名を聞いたら……その者を見つけたら、知らせてくれるとありがたいです」



 そのエルフを見つけてどうしたいのかは、わからない。悪いことをしようというのでは、ないと思うが。


 とはいえ、この広い国の中だ。王族の力で見つけられてないのに、俺たちに見つけられるはずもない。リーダ様にはうなずいて「知らせる」と言ったが、まあ関係のない話だろうしな。

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