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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第5章 貴族と平民のお見合い

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幕間 転生者



(ぬし)、転生者じゃな?」


「……!」



 その言葉に、俺は足を止めた。転生者……その単語を誰かから聞いたのは、初めてだったから。


 そして、俺が転生者(そう)であることを一瞬で見破られたのも、初めてだったからだ。



「……誰だ、あんた」



 振り返る。そこには、俺に背を向けた状態でひとりの人物が立っていた。声の感じからして、老人……か?


 俺は、町中を歩いていた。ひとりでだ。いつもはノアリかミライヤ、たまにヤネッサがいるのだが、今日はみんな用事があるとのことだった。


 人が多いわけではないが、それでもそれなりの人通り。そんな中で、わざわざ、俺に……転生者か、などと聞いてきた。当てずっぽうで、できるようなことじゃない。


 そう、今の言い方は、疑問ではあるが確信に近いものだ。



「カカッ、そう怖い顔をするでない」



 ……なんだ? こいつ……違和感が、ある。


 振り向いたその老人の顔は……若い、エルフであった。尖った耳を持ち、さらさらの金髪。瞳は緑で、青年のエルフのはずだ。であるのに、その声は年寄りのそれだ。若々しい顔から発せられるしわがれた声が、違和感の正体だ。


 いや、それ以上に……若いエルフであるはずなのに、どうしてか、その本質はもっと歳を食っているかのように思える。



「ふむ、どうやら、己が転生者であると、誰にも打ち明けられてはいないのか。ま、このような荒唐無稽な話、体験でもしなければ信ずるには値せんわな」


「……場所を、変えないか」



 転生者……そう見抜かれたのは、2度目だ。1度目は、エルフの森で、エーネに。


 エーネ曰く、エルフには魔術の痕跡を見抜く力があるらしい。それはアンジーやヤネッサも同じだが、転生前の(ライヤ)を知っているのはエーネだけだから、彼女に見抜かれた。正確には、転生って部分は当てずっぽうだったみたいだが。


 この男も、エルフであるならば、エルフの力で見抜いたのか? ……いや、魔術の痕跡ってやつは、魔術だとはわかってもなんの魔術かまではわからないって話だし。


 とにかく、誰に聞かれるかわからないこの場所で、踏み込んだ話はできない。


 ……そういや、あの頃はなんとも思わなかったが、魔術ってなんだろうか。



「ふむ、そうじゃな。なら、ついてくるが良い」


「……」



 若々しい見た目で老人の言葉遣いってのも、違和感がすごいな。


 エルフ族は長寿の種族だ。だから、外見と中身が合わなくても不思議ではない……が、この男はそういう問題ではない気がする。


 ジャネビアさんのように、外面も歳を取ってないからか? それとも、見た目は若くし続ける方法でもあるのか? ……わからない。



「そう殺気を散らすでないぞ。ここは町中、儂とて下手なことをするつもりはないのでな」


「!」



 自分でも知らないうちに、殺気を……落ち着け、抑えろ。


 場所を変えようと提案したのは俺だ。それに、町中で暴れられでもしたら、困るのは俺だ。



「ふむ、この辺りでいいじゃろう。人払いはしておいたでな、安心するが良いぞ」



 そこは、公園だった。しかし、こんな真っ昼間なのに人っ子ひとりいない。どういう、ことだ?


 男と、距離を取って向き合う。こいつが何者なのか、なんで俺に声をかけてきたのか……



「さて……先ほどの主の質問、答えるにしても儂にメリットがない……と言いたいところじゃが。どうやら、主には面白いものが混じっているようじゃ。ちょうど退屈していたところ、儂の方こそ、主を暇つぶしに利用させてもらうぞ」


「まじっ……」


「さて、確か……『誰だ、あんた』じゃったか。聞いて驚くでないぞ、儂こそ、転生魔術の創造者じゃ」


「……は?」



 先ほど、なにやら気になることを言われた……が、その後の言葉で吹き飛んでしまった。


 転生魔術の、創造者……つまり、造ったってことだよな? この男が、本当に?



「信じておらん……わけではないの。大方、理解が追いついていないといったところか」


「そりゃ……いきなり、そんなこと、言われても」


「しかし、創造者だからこそ、主が転生者だと見抜けた。そう考えられんか?」



 ん……創造者だから、か。それなりの説得力だが、転生魔術のことを知ってる古株のエルフなら、エーネが知らないだけで転生魔術を見分けられるかもしれないし。


 見るからに怪しげな男の言葉、素直に信じるかどうか。



「カカッ、よいよい。先、この時間は儂にとって暇つぶしと言った。それゆえの戯言と捉えるなら、それでも構わぬよ」


「……」


「じゃが……主の様子から察するに、己の意思で転生したわけではないように見える」


「!」



 なんなんだ、この……自分の中を、見透かされているような感覚は。あまりいい気分では、ない。


 だが……もし、俺の中を見抜いているというのなら。俺も知らない、俺がなんのために転生したのか、誰が転生させたのか、それがわかるかもしれない。



「そうだ……俺は、本当は死んでいたはずだった。だが、次に目が覚めたら……」


「転生していた……なるほどの。カカッ、面白い! 己が意思とは関係なく、その命を弄ばれたか! クカカカ、なんともはやおかしき(かな)!」



 命を弄ばれた……そういう見方も、できるのか。あんまり、そういう風には考えたことがなかったな。どんな理由にせよ、2度目の命を授かったんだ。


 それはそれとして、こうも笑われるとムカつく。



「おいあんた……」


「まあ怒るな。主が聞きたいのは、誰がどのような目的で、主を転生させたのかであろう」


「……あぁ」



 しかし、どうしてだろう……胡散臭いはずなのに、この男の話すことには、真実しかない。そんな気がする。



「年甲斐もなく大笑いしてしもうたの。その詫びと言ってはなんじゃが、教えてやろう転生魔術について。そも、転生魔術には2種類3パターンのものがある。

 ひとつ、己を転生させるか、他者を転生させるか。

 ひとつ、同じ世界に転生するか、異世界に転生するか。

 ひとつ、一個の命を新たに創造し転生するか、すでにある命を乗っ取り転生するか」



 ひとつ、またひとつと指を立てていく。転生魔術とひとえにいっても、そこには複雑なパターンが存在しているようだ。


 だが……



「なに、異世界……? 乗っ取り……?」


「まあ待て待て。順を追って説明してやろうではないか」



 気のせいだろうか、やけに上機嫌に見える。まさか、教えるのが楽しいとか言わないだろうな。


 どこかで、教師でもしているのだろうか。それとも……発明家は、自身の発明品を自慢したがるという。それか?



「まず、己の意志による転生か、他者の目論見による転生か。これは特に説明はいるまい。自身を転生する者には己になんらかの思惑があり、他者を転生させる者には他者になんらかの思惑がある」


「じゃあ、誰が俺を……」


「知らん」



 ……は?



「おいおい、創造者なんだろ? なのに……」


「創造者とて、なんでもわかるわけでもない。特に、誰がなんのために……そんな個人の感情によるものなど、他人には計り知れんわ」



 そりゃ、そうかもしれないが……せっかくわかるかもと思っていた期待を、返してほしい気分だ。



「次に、同じこの世界に転生するか、異世界に転生するか。まあこれはいいな」


「いやいや、なんだその異世界ってのは」


「あん? この世界とは異なる世界のことじゃよ。ま、実際に儂は行ったことはないし、行った者の言葉を聞いたわけでもない。ま、ひとつの可能性じゃな」



 ……それだとしたら、3パターンじゃなくほぼ2パターンなのではないのだろうか。



「最後に、新たな命を創造したか、それとも魂の宿っておった体を乗っ取ったか……じゃ」



 その話題になった途端、男はニヤリと笑った。邪悪な……というよりは、まるで子供が、新しいおもちゃを見つけたときのような……



「新たな命、って……」


「そのままの意味じゃよ。転生し、別の命として生まれ変わる……それは、この世界に新たな一個の命を作り出すということ。本来存在しないはずの、な」



 ……本来、存在しないはずの命。それは、果たして良いもの、なのだろうか。


 しかし、もうひとつの、乗っ取りという単語を聞いた後では、これがマシではないかと思えてくる。



「その、乗っ取り、ってのは」


「すでにある命……いや魂と言おうか。それを追い出し、追い出した器に入ることで、新たなる生を得る。それまで生きてきた者のこれまでの、そしてこれから歩むはずだった人生を奪う……まさに、乗っ取りと言えるじゃろ?」


「……その、追い出された魂ってのは?」


「さあ。追い出された瞬間消えてしまうかもしれんし、その辺を彷徨いておるかもしれん。わからぬ、その魂の行方など……ゆえに、まっこと面白い!」



 天を仰ぎ、その場で手を広げ、男は叫んだ。喜びに満ちた表情を、浮かべながら。



「追い出された魂はどこへ行くのか? それを確認する為に、儂も何度も試した! しかしわからぬ! 転生魔術を創造した、この儂がわからぬのだ! カカカッ、だからこそ魔術というものは、面白い!!」



 ……創造した者すら、全容のわからない転生魔術。それを聞くと、寒気がする。


 魂を追い出すか……恐ろしいことだ。俺は、今の説明を聞くなら……どっちだ? もしかしたら、赤子の状態の、元々の『ヤークワード』の人生を奪ってしまったんじゃ……



「じゃあ、俺は……」


「主は見たところ、新たに創造した命のようじゃな。他人の人生を奪ってなくて、安心したか?」



 新たな、命……この体は、誰かの人生を乗っ取ったものじゃない。


 それを聞き、俺はホッとした。が……



「カカッ、早計早計、そのように安心するにはまだ早いぞ」


「どういう……?」


「新たな命……と言えば聞こえは良いがな。先ほども言った、新たに生まれるのは、本来存在するはずのなかった命じゃ。本来存在しえない命……それが生まれたことが、『歪み』となり、少なからず世界に影響を与えることになる」


「歪み……?」



 本来存在しないはずのこの命が、存在したことで……歪みが、発生する? 歪みとは、いったいなんのことだ。


 自然と、胸元を、押さえた。



「そうとも。主、周りでなにか……異常なことはなかったか? なにか、大きな事件とか」


「異常?」


「不可解な出来事、と言ってもいい。それが、主が転生したことにより発生した歪みじゃ」



 不可解な出来事……そんなの、ここ最近なら特に、『魔導書』を巡る事件で起こっているが……


 大きな事件……『魔導書』を除けば、『呪病』だよな。あの事件での、不可解なこと……



「あ……」



 そうだ、あの事件……10年前、『呪病』事件を引き起こしたのは、セクニア・ヤロという"魔族"だった。しかし、その人物が魔族だとなぜか誰も知らなかったし、そもそも魔族がどうやって城に入ることができたのか、ずっとわからなかった。


 まるで、いきなりそこに現れた、とでもしないと、説明がつかないというのだ。


 まさか……そのことが、歪みなのか? 城に入れないはずの魔族が、誰にも気づかれないうちに城に入っていた。そして、あたかもずっとそこで人間として暮らしていたように、みんなが思わされている。


 ……前提として、魔族が存在していること自体がおかしいのだが。



「思い当たることがあるようじゃの。歪みはひとつや2つではない……今後、主の周りで不可解なことが起これば、それは主の転生がもたらした産物かもしれん」


「俺が……」


「そして……主、よくよく、都合のいい展開に見舞われることはないか?」



 都合のいい展開? そんなこと……思い返せば、それも、ある。


 『呪病』事件では、タイムリミットがある中で……移動用のモンスターを手に入れ、エルフの森では『転移石』を手に入れた。運良く結界の中に入り竜族の村に行き、たまたますぐに『竜王』の孫であるクルドに出会い、なにより、術者を倒し呪いは解けたが、ノアリだけは悪化した症状を、ひとり分しかなかった『竜王』の血で救えたこと。


 『魔導書』事件でも、たまたまヤネッサがこの国に来てくれなかったら、ミライヤを助けることはできなかった。あのタイミングでなければ、手遅れになっていたかもしれない。


 ……俺にとって、都合のいい展開。これも、転生による影響だってのか?



「カカカッ。ちなみに、儂が主の前に現れたのも、主という存在に引かれてこの時代に降り立ってしまったからかもしれん……これも、歪みと言えような」


「え……」



 この時代、って……この男、いったい……?



「なぁ、あんたまさか……」


「アーッ」


「んん、おぉ、もうこんな時間か。楽しい時間はすぐ過ぎる……すまぬな、この後用事があるゆえ」



 男は、空を見上げる。謎の鳴き声を発したそれが……黒い鳥が、男の肩に乗った。そして、時間だと。


 まだ聞きたいことはあるが、用事があるのなら仕方ない……か。俺の都合で、無理に引き止めることはできないしな。



「その、いろいろ教えてもらって……」


「カカッ、構わぬよ。言うたであろう、これは儂にとって暇つぶしじゃと。それに主の中身、なかなかに興味深い……退屈な時間も、それを慰みとして尚余りあるというものよ」



 ……俺の、中身。さっき言っていた、俺には面白いものが混じっていると。


 それに……思い出した。クルドにも、似たようなことを言われたんだ。



『我が感じたのは、そうだな……なんて言えばいいか……例えるなら、ヤークの中に、もうひとつ生命体がある、みたいな……』



 俺の中に、なにかあるのか? 転生の、痕跡だけじゃないのか?



「なあ、最後に教えてくれ。俺の中に、なにが混じってるって言うんだ」


「カカッ、言うたであろう。儂にもわからぬものはある。それに、少しは己が頭で考えてみるといい。聞けばなんでも答えが返ってくる……それに甘えてはいかんぞ」



 まるで、俺を諭すような、言い方。聞いてばかりじゃいけない、か……それは、そうだ。それに、自分の中になにかあるらしいとわかっただけでも、進歩だ。


 不気味ではある。が……これまで、特になにもなかったんだし。



「では、儂は行くぞ」


「あぁ……あ、あんたの名前……」



 男が、俺の横を過ぎ去る……しかし、俺は男の名前を聞いていないことを、思い出した。俺の名前も、教えていない。


 名前も知らない相手と、こんなに話していたのか。



「良い良い、主とは近いうちにまた会えるじゃろうて。その時にでも、話の続きをしようではないか」


「あ……」


「では、また会おうぞ……転生者(どうほう)よ」



 その言葉に、咄嗟に振り返る……が、すでにあの男はいなかった。


 俺を、同胞と言った……やはり、あの男も、転生者。それも、先ほどの会話を思い返せば……どうやら、実験のようなもので、転生を繰り返しているようだ。


 そのせいで、歪みとやらも多く発生しているのではないだろうか。



「……俺も」



 俺が転生したことで、発生した歪み。それが、あの魔族を生み出し、その魔族が『呪病』事件を引き起こした。結果、大勢死んだ。


 ……俺のせい、か? しかも、歪みというのはひとつや2つではないようだ。またあの時のような、災害とも呼べる事件が、起こったりするのだろうか?

いつも読んでくださり、ありがとうございます!


面白いと思っていただけたら、下の星に評価ポイントを入れてくだされば、ありがたく! 創作意欲が捗ります!

感想なども、募集しておりますよ!

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