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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第5章 貴族と平民のお見合い

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繋がっていく点と点



 邪悪な、魔力の痕跡……それは、聞いているだけでも悪い想像の膨らむ単語だった。



「じゃあ、学園の先生にそういう魔法を使える人がいるのかしら?」


「騎士を育てる学園だが、騎士以外にもいろんな方面に精通している。魔法のエキスパートがいてもおかしくはないが……」



 考えれば考えるほど、わからない。そもそも痕跡とは言うが、もしやノアリが心を操られている……もしくは、操られそうになったとか? 見た感じわからないが。


 そんな感じでノアリをじろじろ見ていたら、顔を赤くしつつ叩かれた。理不尽だ。



「でも、多分エルフ族によるものじゃない」


「その心は?」


「エルフ族なら、多分私にも感知できます」



 ヤネッサの言葉を補足するような、アンジーの言葉。ふむ、なるほど……


 エルフ族ならエルフ族を感じ取れる……というのはいまいち理屈がわからないが、まあそういう種族なのだろう。となると、残る可能性は……



「魔石……」



 人の心を操る魔石……それを使えるのも恐ろしいが、そんなものがあるというのも恐ろしい。知らず知らずのうちに、それに触れてしまっているのかもしれないのだ。



「ただ、魔石だとしたら……その効果は、ぐんと下がる」


「下がる……効果が薄れるってことか? じゃあ、ノアリにかけられた魔法も効果が弱いから、今普通に見えるとか……」



 つい、魔石の影響を受けているのがノアリだという前提で話してしまった。当人は、「え」と声を漏らして体を抱きしめている。


 ノアリ本人は、その可能性に思い至ってなかったのか。いや、思い至らないからこそ操られている、ということか?



「ううん、ノアリちゃんには別になにもかけられてないよ」


「え、そうなの?」



 帰ってきたヤネッサの言葉に俺もノアリも一安心。



「そもそも魔石っていうのは、魔法の力をため込んでいくもの。使えば使うだけエネルギは減っていくから、その都度魔力を充電しないと、いつかは切れちゃう」


「ふむ」



 そういえば、以前学園内の廊下を照らす魔石の灯りが弱まっていると先生に告げたら、次の日には明るさは元気を取り戻していたな。


 あれは、エルフ族の先生が魔石に魔力を充電していたのか。



「それに、やっぱりエルフ当人が使うのと、充電しているものだとパワーに差が出るんだよ。高等な者ならなおさらね。だから、これは予想だけど……人の心を操るなんて高等な魔法を、魔石なんかで応用しようとしても、大した精神操作はできないと思う」


「精神操作……まあ、そういうことだよな」



 ヤネッサにしては物騒な言葉だが、要はそういうことだ。


 人の心を操る、つまり精神に干渉し、操作する。それは使いようによっては、とんでもない犯罪をすることだってできる。



「にしてヤネッサ……さん。詳しいのね。こど……まだ若そうなのに」


「森にいる間、勉強してたからねー。えっへん。あ、呼び捨てでいいよ~」


「あ、えぇ……」



 今ノアリの奴、子供っぽいって言おうとした。絶対言おうとした。


 ノアリとしては、命を賭けて俺の旅に同行してくれたし、見た目は同じくらいだが長寿のエルフ族ゆえ年上だから距離感が難しいのだろう。ヤネッサは、気にしていないようだが。



「で、ヤネッサ。魔石だと、精神操作の力はどうなるんだ?」


「あ、そうだった。私も実物を見たことはないからなんともだけど……そんなに複雑な効果は受けないと思う。もしエルフ族の手によってかけられたものなら、窃盗や場合によっては殺しなんかもできちゃう。でも、魔石でできることは……せいぜいが、認識をずらすこと、かな」



 ヤネッサの説明に、身震いがする。精神操作なんていうからには予想はしていたが、人殺しまでしてしまう可能性があるなんて。


 まあ、今はその魔法について考えるのはエルフによるものじゃなく、魔石によるものだ。それによって、どういった効果が表れるのか。


 ヤネッサ曰く、認識をずらす、ということだが……



「認識を、ずらす……?」



 ノアリも、首を傾げる。追加の説明を、求める動作だ。



「言い方があってるかはわからないけどね。例えるなら……その人が悪い人なのにいい人だと思い込んじゃう。そこにあるはずのモノ、もしくは人をないものと認識しちゃう、とか」


「いるはずの人を……いないものとして……?」



 ヤネッサの説明は、手探りながらもわかりやすいものだった。特に、例に出してくれるのはわかりやすい。


 そして、その説明を聞いた瞬間……俺の頭の中に、なにかが引っかかった。そう、なにか……違和感だ。


 この、違和感は……



「ヤーク……」



 それはどうやら、ノアリも動揺らしい。感じる違和感、しかし確実ではない。


 このモヤモヤを、感じる違和感を、確かなものにするために、確かめなければいけない。



「それは……じゃあ、そこにいないはずの人間を、いるように認識する……ってうこともできるのか?」


「うん? そりゃ、できると思うけど……なんか、心当たりが、あるの?」



 ヤネッサは答えを知っているわけではない。それでも、彼女の言葉は、違和感をひとつの答えに変えた。


 いないはずの人間を、いるように認識する……それが、可能だとしたら。そんな状況に、心当たりがある。ノアリに魔力の痕跡を感じ、俺だけに感じない理由も説明がつく。


 もしそこにいなかったとしたら、ノアリも操られていたことになる。いやノアリだけじゃない、きっと彼女も……


 認識をずらす、ノアリだけ、女子寮……なにより、いたはずの人間が、いきなり姿を消した。いるはずなのに、その姿を見せない。複雑に散らばっていた、パズルのピースがはまっていくようだ。


 ノアリは彼女に会いに行き、確かに彼女の声を聞いたという。だが、実際に姿は見ていない……いや、見ていたとしても、それも認識がずらされていたのかもしれない。



「まさか……ミライヤ……!?」



 最近、すっかり姿を見せなくなった少女……ミライヤの姿が、真っ先に浮かんだ。

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