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復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~  作者: 白い彗星
第5章 貴族と平民のお見合い

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誘拐の理由



「…………」



 もう、どれくらいの時間が経っただろうか。目隠しをされ、手足を縛られた状態でずっと放置されている。初めの方こそ、助けて等の声を上げていたが、返ってくるのは反響した自分の声だけ。


 ここがどこかはわからない。ただ、狭い部屋の中だということだけわかる程度だ。


 声を張り上げても、誰も反応してくれない。次第に、声を上げるのは無意味であることを理解していったミライヤは、声を上げることもやめていた。



「すっかりおとなしくなったじゃないか」



 ガチャ、と扉の開く音。同時に部屋の中に入ってくる男の声。これは……ガルドロ・ナーヴルズのものだ。


 入学試験日にミライヤを罵り、ヤークワードに敗れた男。もしもミライヤ誘拐の理由が、ヤークワードへの仕返しのつもりならば、こんなことは無意味だと、なんとかわかってもらわなければ。



「……こんな、こと……ぁ……!」


「ほら、飯だ。這いつくばって食うのがお似合いだぜ平民」



 口を開いた瞬間、なにかが頬に当たる感覚があった。これは、ガルドロ・ナーヴルズがなにかを、ミライヤの頬になにかを落としたのだろうか。


 地面に落ちたそれは、鼻の近くで腐ったような異臭を放っている。「飯だ」ということは、もしやこれを食べろというのか……明らかに腐っている、この食べ物を。


 わざわざご飯を持ってきてくれたかと思いきや……こんな誘拐をするような男が、素直にご飯なんて与えてくれるはずがなかった。



「なんで、こんな……」


「お前が気にすることじゃない」



 自分を誘拐した理由、それすらも教えてくれない。この予想が正しければ、今自分が捕まっていること自体、ヤークワードに迷惑をかけてしまう。


 彼らが、なにを企んでいるのかはわからない。だが、ミライヤを誘拐するという行為自体、その計画は破綻している。ミライヤを誘拐しても、外出したミライヤが夜になっても戻ってこなければ、ルームメートが不審に思わないはずがない。


 不審に思ったルームメートであるリィが、教師に連絡するなり、リィのことだからヤークワードに相談する可能性もあるが……いずれにせよ、ミライヤを誘拐してもすぐにバレるのだ。


 もしも、誘拐したこと自体を知らせることが目的なら、不思議はないのだが……



「へっ、どうせすぐに助けが来る……そう思ってんだろ?」


「!」



 心を読まれた……そう思えるほどの指摘に、ミライヤは思わず肩を震わせる。



「わかりやすいな平民。悪いが、その期待は外れになる。少なくとも、すぐにお前が消えたことを不審に思う奴はいねえよ」


「え……?」



 ミライヤがいなくなっても、それを不思議に思う者はいない……それは、いったいどういうことだろうか。


 もしや、平民ひとりが消えたところで貴族が気にかけることはない、ということか。いや、貴族が平民を見下す傾向はあるとしても、騎士学園の教師までそのような傾向にはないと、思いたい。


 もしもそうだとしても、少なくともミライヤにはリィがいる。同じ平民同士ということですぐに気が合った。会って日は経っていないが、間違いなく友達だ。そんな彼女が、ミライヤがいなくなってもなにも不審に思わないなんてこと……



「! もしかして、リィになにかしたん、ですか……!?」



 考え付いたのは、恐ろしいものだった。ミライヤがいなくなったことを不審に思われない、いや思わせないよう、リィになにかをしたという可能性だ。


 例えば、先ほどのミライヤと同じように、リィが脅されていたとしたら。ミライヤがいなくなって授業に顔を出さなくなっても、ただ「風邪だ」とか「具合が悪い」と言うように脅されていたら。


 それでもいつまでも隠し通せはしないだろうが……そうなれば、ミライヤがいなくなってから、それが公になるまでに時間が稼げる。……なんの?



「へはは、意外と頭は使えるみたいじゃねえか」


「! じゃあ……」


「だが、別にお前のお友達になにを無理強いしたわけでもない。そこんとこは、あいつがうまくやってるだろうからな」


「……?」



 リィに、なにかをした……それに肯定にも近い返事を聞いた時、ミライヤはもがいた。だが動けない。情けない、情けない。


 そんなミライヤを見て、ガルドロ・ナーヴルズは愉快そうに笑っている。そして、リィになにかをしたことはほのめかしながらも、リィの意思を曲げるような行為はしていないという。


 意味がわからない。リィが自分の意思で、ミライヤが消えたことを隠している、とでもいうのか。まさかリイもこの誘拐に関わって……いや、それはガルドロ・ナーヴルズの台詞からも、可能性はないだろう。


 気になるのは、台詞の中に出てきた『あいつ』なる人物。それはこの場にいないギライ・ロロリアのものなのか、それとも……



(もうひとり、いる……?)



 ガルドロ・ナーヴルズ、ギライ・ロロリア、それ以外にもうひとり、今回の誘拐に関わっている者がいるというのだろうか。その人物が、ミライヤがいなくなっても不審がられないなにかを、リィに行った……


 そうまでして、ミライヤを誘拐した理由は? ただの怨恨……でここまでやるだろうか? それとも、それほどにミライヤかヤークワードに恨みを持った者の犯行なのか……?



「ひひ、まあそうやって、せいぜい頭使っておとなしくしてな。飯は食えよ、餓死でもされたら後片付けが面倒だ」



 あははは……と、高らかにガルドロ・ナーヴルズは笑っている。そして、動けないミライヤと先ほどの腐った食べ物をその場に残し……部屋を、出て行った。



「……なにが、起こってるの……」



 もしかしたら、想像しているよりも大きなことが起こっているのではないか……ひとり残された部屋で、不安げにミライヤはポツリと、言葉を漏らした。

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