超人クラブ アナザー その266
「シエルの限定スイーツ買って欲しい!」
「はぁ。なんで、俺が?」
響は甘いものは好きじゃない。
「あの有名パティシエの店の限定ケーキ。一個五百円もすんだぞ。しかもこーんなちっこくて」
裕也はパンと両手を合わせ拝むように俺を見た。
「響、お願い。僕、食べてみたい!」
「ぜいたくは敵だ。今は逃亡中の身の上なんだぞ。浪費はつつしむべきだ」
裕也はアーモンド形の瞳をうるませて、じっと俺を見つめた。
「そんな目で見てもだめだ。絶対買わないからな」
「響……僕の為にっていう気にはならないの?」
裕也は微笑をうかべて俺の顏を覗き込んだ。
くらっと目まいがした。でも、それはほんの一瞬の事だった。
「ならん!」
言い切った俺の言葉に裕也は眼を見開かせたが、さっきとは違う満足げな笑みを浮かべた。
「……へぇ、すごいね。大抵、皆、ここで堕ちるんだけど」
あの時、裕也は確かに「堕ちる」と言った。
通常なら「根負けする」とか「折れる」とか。もっと妥当な言葉を言うだろう。
堕ちるという言葉は意図的に何か仕掛けた時、使う言葉だ。
ヒロトはまんまと一ノ宮の術にはまって忠誠心を植え付けられたらしい。
「裕也も罪作りだなぁ」
一人ごちたその言葉をヒロトは聞き逃さなかった。
響の頬にパンと平手が飛んだ。
ガシッと右手で顎を掴まれ無理やり上に向けされられた。
ヒロトは顔を覗き込むと
「一ノ宮様を呼び捨てにするな!」
と憤怒の形相で言い放った。




