超人クラブ 菊留先生の憂鬱 その十九
「佐藤君、見ましたか?」
「えっ?」
「彼女が体から抜ける瞬間を」
意味深に尋ねる菊留先生の言葉の意味が解らない。
「今の彼女は抜け殻です」
先生は口元に右手人差し指と中指の二本指を立てて何事か唱える。
「天地開闢の理によりて居並ぶ精霊に申し作る。
見えざるモノを現に示せ、顕現」
先生は唱えた呪ごと指先から肩まで腕を回して一気にドアの方に払った。
「……!」
ドアの前に立つ智花の姿。
そしてその姿は机の上に突っ伏している智花と寸分違わない。
「先生、アレは?」
「おそらくは幽体…魂でしょうね」
ドアの前に立つ智花は俺たちの会話を聞いて
驚愕の表情でこっちを見ている。
本来見えるはずのない幽体、その姿を他者に見せる事の出来る人間がいるとは
夢にも思っていなかった彼女には、その事実だけで充分脅威だった。
彼女は驚きのあまりドアをすり抜けて廊下の方に逃げて行った。
幽体になれば壁やドアなど造作もなく抜けられるようだ。
先生も慌てて後を追おうとして危うくドアにぶつかりかけた。
「つまり……どういう」
振り返って先生は神妙な顔で言う。
「つまり超人は私達だけではないという事ですね。道理で魂が抜けた体ならぴくりとも動かないはずですよ」
抜け殻だけの智花を見下ろして先生は言った。
「一つ提案があるのですが聞いてもらえますか?」
「何?先生」
部屋に誰もいないにも関わらず先生は俺に耳打ちした。
「えっ?……えーっ!」
先生の提案に驚愕する俺
これは役得か?それとも災厄か?
「じゃ、頼みましたよ。私は智花さんをこの部屋に追い込みますから
後はよろしくお願いします。」
「先生、その提案、本当にやるの?」
「はい、頼みます」
先生はそう言うと軽く手を振って部屋から出て行った。
担任の意図はわからない。
俺は一見眠っているようにしか見えない智花を見下ろして
ため息をついた。




