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超人クラブ アナザー その227
深夜、高森要は自室で電気を消してベッドの上でじっとしていた。
枕元に置いた目覚まし時計の時を刻む音がやけに大きく耳朶に響く。
眠れない。
寝床に入ってから一時間くらいは立っているはずだ。
完璧に眼が冴えてしまった。
そろそろまじめに羊でも数えた方がいいのだろうか。
あれから要は佐藤先輩に言われた言葉をずっと考えていた。
『向こうに帰る必要はない』
……ショックだった。
なんとなくそう考え始めていたもう一人の自分の姿を暴かれたようで。
最近、向こうの世界が幻のように思えてくる。
だってあの空間はここに存在しないのだ。
こちらの日常の生活に追い立てられて「二千円札が存在するあの世界」は、
夢のようにぼんやりと思考の隅っこに追いやられていく。
もっとこの世界に馴染んでしまったら。
俺はもう向こうの世界に帰ろうと思わなくなるのだろうか。
そもそも帰るってなんだ。
もともと俺は銀行員の菊留さんがいる世界と教員の菊留先生がいる世界を行き来してたのだ。
違いに気が付かなかっただけで、今までだってさんざん複数の世界を渡り歩いていたのかもしれない。
俺自身は浮草のようにふらふらと時空を超えて……。
今回は否が応でも気がついてしまう環境と俺自身の変化だったから帰る方法を模索してる。
それはもう、動物の帰巣本能のようなもので。




