超人クラブへようこそ その19
やめて、
やめて、ぼくは姉さんじゃない。
火箸でたたかないで、
僕を束縛しないで
お願いだから、
僕では姉さんの代わりにはなれない
どうして、わかってくれないの?
母上……
夢?
ここはどこ?
ハッとして目が覚めた。
眼が覚めると病院の一室で輸血されていた。
視界がぼんやりと暗く脱力感が半端ない。
一滴一滴落ちていく血液を眺めながら
死ねなかった事を自覚する。
点滴の向こう側に、腕組みをし難しい顔して立っている
佐藤先輩と真っ赤に泣きはらした目をしている泉がいた。
「目がさめたか……角田」
「良かった。先輩、意識が戻って」
喜ぶ泉に佐藤先輩が言った。
「泉、安心したらのどが渇いた。ジュース買ってきてくれない」
「言われてみれば私ものどか渇いちゃった。買ってきますね。佐藤先輩何飲みます?」
「なんでもいいよ。あっ、コーヒー以外で」
「了解しました」
泉はいつも以上に元気にそう言うと病室を出ていった。
泉の姿が見えなくなると先輩は不機嫌な顔で下がった眼鏡を中指で直しながら
はあーっとため息をつく。
「……角田、お前ねぇー、いいかげんにしてくれよ」
「2回目だろ」
「先輩……。」
「泉はさぁー、お前に何かあるといち早く俺の所に電話をかけてくるんだぞ。
菊留先生でもなく 智花でもなく俺の所に」
「……すみません」
「恋人でも、友達でもない、ただの先輩の俺にだ」
どんな事態にも対処できるように、おそらくは先輩の超能力を当てにして、
「きっついよなー、これは俺はいつまであいつのガードでいなきゃいけないんだ?」
「……。」
言葉がなく黙っていると先輩は続けた。
「頼むよ~、俺は泉が泣くのは耐えられない。三度目はなしだ」
「……はい」
先輩から視線を外して言う。
「あの、先輩、気にしなくていいと思います」
「何が?」
「僕も泉に恋愛対象だと思われてないから」
先輩はプッと噴出した。
「それは、そうだろう、泉のお前に対する態度ってひなを守る親鳥みたいだぞ、ついでに言うとお前、絶対、男とも年上とも思われてないよな」
「えーっ、そんな……。」
くすくす笑う先輩。
「何、気が付いてなかったの?お前、やっぱかわいいなー」
ひとしきり笑うと先輩は真顔になった。
「……角田」
先輩の口調が改まる。
「はい」
「自分を殺したいほどの現実ってなんだ」
「……。」
踏ん切りがつかない。佐藤先輩には話せない。
「だんまりか……一人で抱えるなよ。お前みたいな奴が一番危ない。二年前の俺みたいだ」
自嘲気味に呟く佐藤先輩。
二年前の先輩って?ハッとして先輩に視線を戻したが先輩はそれ以上しゃべろうとしなかった。
病室に泉が帰ってきた。
「戦艦泉ただいま帰還いたしました。はい、佐藤先輩」
と言って艦コレよろしくおどけて見せ、佐藤先輩に缶ジュースを渡す。
「げっ、100%果汁か、炭酸がよかったな」
「だから、聞いたじゃないですか。何飲みますかって 100%果汁は体にいいはずです。だから、はい」
そういいながら、自分の缶ジュースはしっかり炭酸だった。
「泉、それよこせ、俺が飲むから」
「やです、これは私が飲むんです」
「泉ー」
「だから、やですって」
二人のやり取りを聞きながら自問する。
話せば楽になるのか、今、この二人に?重荷になるのではないのか……。
『耐えられなくなったら言いなさい。それくらいの労力は惜しみません』
菊留先生の顔が浮かんだ。
大人の先生なら解決が出来るんだろうか。
自分を支配しようとする母親に対抗できるというのか?
いや、出来るわけがない。
一年前に姉が亡くなってから、母の支配欲が強くなった。
自分より、ずっと出来の良かった姉と比べられ、姉のやってきたことをすべて押し付けられた。
そして自分が意のままにならないと豹変する。ゾッとする。呪縛のように自分を縛る暗く底知れない不気味さを漂わせた母の声。
その声を聴くと何も考えられなくなり逆らえなくなる。
母に命じられるままに唯々(いい)諾々(だくだく)と従いいい子を演じてしまう自分。
話せない……誰にも。
知らず知らずのうちに瞳がうるんでくる。
角田護はそっと瞼を閉じ手の甲で涙を拭った。




