超人クラブ 桜花恋歌 その20
「一年前、お姉さんを失くして、生きる事に絶望していた君の
唯一の拠り所はあの桜の樹だった」
「はい。そうです。週末はいつも別荘で過ごし、死ぬことを切望しました。
あの桜の樹に願って、でも、そんな時に先生に出会って、僕は死ぬのをやめようと思ったんです」
「ちょうど、その頃、高森君にも出会ったのでしょう?」
「高森が同じ塾に入って来て。僕は嬉しかった」
「同じ学年ではなく、同じ学校でもないのに?」
「あっ、そうだよ。角田先輩。なんで俺、先輩に気に入られてるのか。
ぜんぜん分かんないんだけど」
俺は先生と先輩の会話に割って入った。俺が先輩に気にいられた理由。
それは今でも、俺の中で最大の疑問符だった。
先輩の瞳が瞬いた。
奥二重の双眸がガラスのように煌めいて俺を見る。
「高森……」
「だって、先輩、前から俺の事知ってたみたいな感じで」
「覚えてないのか。……蝉のお墓」
「……せみ?」
「覚えてないならいいんだ」
俺、何か大事な事を忘れてる?何だ、蝉って。
「勿体ぶらないで教えて下さいよ。角田先輩」
「……いや、いい」
先輩は気落ちしたかのように黙りこくった。
「角田君、週末ごとに会いにくる君が、
ある日を境にほとんど桜の樹を訪れなくなり、たまにくれば
一人の男の子の話しかしない。桜の精はどう思うでしょうか」
「だって先生、桜の樹ですよ。……ぜんぜん種が違うじゃないですか」
「妖にそんな言い訳が通用しますか?」
「……わかりません」
「妖となったモノに男女や、種族の差など意味のない物です。
ただ気に入ったら、自分のモノにしようとする純粋な意識」
「先生」
「君はそういうモノに魅入られたのですよ」
先生は深呼吸してから先輩にそう告げた。




