河畔の戦闘
一夜明け、わたしたちは川の南岸に移動し、それぞれの持ち場についた。川岸には葦が生い茂り、身を隠すには格好の障害物となってくれる。
メアリーは、不思議な光沢を放つミスリル製のプレートメールに身を包んで槍を片手に天を仰ぎ、何やらつぶやいていた。思うところがあるのだろう。プチドラは一晩のうちにアルコールが完全に分解されたようで、本来の隻眼の黒龍の姿に戻り、スタンバイ。
やがて、斥候から、「シュヴァルツ将軍の軍団が行軍を再開」との報がもたらされた。予想していたように、前軍、中軍、後軍の順にゆっくりと北に向かっている。後軍の先頭を進む豪奢な馬車にシュヴァルツ将軍が乗っていることはミエミエとのことだ。
午後になって、軍隊は川のほとりに到達した。一時、川を前にして小休止したが、やがて前軍から順番に川を渡り始めた。それほど深い川ではない。ここは気合でということだろう。
「よかった。うまくいきそうね」
「はい。でも、カトリーナ様、本番はこれからです」
メアリーは槍を握り、その時を待っている。
そして、中軍が渡河を始め、最後尾が川の畔にさしかかると……
…… げっ、あれはなんだ! うっ、うわぁ!! ……
中軍最後尾の兵士が悲鳴を上げると、同時に、体は真っ黒焦げにされていた。隻眼の黒龍がはるか上空から急降下、中軍と後軍の間に割って入り、中軍めがけて火を噴いたからだ。さらに、葦の間に潜んでいた猟犬隊がモロトフ・カクテルを投げつけ、たちまちのうちに渡河中の中軍は炎に包まれてしまった。
メアリーと配下の精鋭部隊は、間髪を入れず、一気にシュヴァルツ将軍の本営に攻めかかった。大小さまざまな火の玉がカチューシャ・ロケットのように後軍に降り注ぐ。あれ? この火の玉はシナリオになかったけど……
「姉の魔法です。今日は一段と派手ですね~」
と、マリア。なるほど、本気とはこういうことか。確かにすごい。
勝負は本当にあっけなくついた。メアリーの槍がシュヴァルツ将軍の心臓を貫き、そのまま高々と持ち上げると、マーチャント商会の兵士たちは、われ先にと逃げ出した。「総大将がやられた」との報は伝染病のように軍全体に広まり、燃え盛る炎の恐怖と相まって、兵士たちは恐慌を来した。こうなれば、もはや収拾がつかない。
こうして、マーチャント商会最強部隊はバラバラになり、あっさりと消滅してしまった。




