残された課題
ウェルシーへの帰還後、わたしはまず、領内の騎士を招集した。急な呼び出しだったにもかかわらず、誰一人として招集に応じない者も遅れる者もなかった。
「……というわけで、わたしがウェルシー伯に正式に任命されたわけ。文句があれば名乗り出なさい」
居並ぶ騎士たちを前に、大胆な誇張、削除、脚色等を加えた途中経過を説明した。これで、わたしに対する反逆は原則として非合法だ。でも、心から信服している騎士はいないだろう。用心は必要だけど、そういえば、何か一つ、足りないような気が……
騎士団への訓示が終わり、執務室まで戻る途中、館の壁をぶち抜いて作られた教室で、エレンが子供たちに読み書きを教えているのが見えた。生徒数は今のところ50人くらい。メアリーやマリアも、それぞれの得意分野で講師を勤めているという。
学校を作るという話には、ポット大臣は「お金がない」と反対したそうだが、エレンは「代理者としての権限」を主張して無理矢理ねじ込んだらしい。ポット大臣はぼやく。
「カトリーナ学院初等部が設立されてから、赤字の幅がますます広がりました」
「しばらく我慢よ。人材育成は長期的視野で考えないと……」
学校とは、エレンもなかなか良いところに目をつけたものだ。そのうちどこかに立派な校舎を建てて、生徒数も増やしていこう。猟犬隊の人材供給源としても使えそうだ。ただ、根本的な問題としての財源については……多分、なんとかなるだろう。
夕方、子供たちを帰した後、エレンが執務室までやって来て、
「ねえ、カトリーナさん、猟犬隊のドーンさんは元気かしら……」
「ドーン?」
そういえば、ドーンのことをすっかり忘れていた。ドーンたちには、後方で通商破壊作戦を命じてたっけ……
「そうね、きっと元気だと思うわ。でも、そろそろ頃合ね。迎えにいかないと」
帝国とトカゲ王国の戦争は無期限の休戦だし、わたしもウェルシー伯に任じられたことだ。今や作戦の意味はない。問題は、ドーンたちが今どこにいるのか分からないこと。適当に作戦期間を決めて「期限までに戻って来い」と言っておけばよかったけど、今更後悔しても後の祭り。
というわけで、早速、ドーン捜索隊が編成された。メンバーは、わたしとプチドラのほか、レーダー代わりとしてマリア、マリアとセットのメアリー、メアリー配下の数十人の精鋭となった。
「あの、カトリーナさん、捜索隊には、わたしも是非……」
エレンは目を潤ませてメンバーに加えてほしいと訴えた。
「でも、学校はどうするの。先生がいなくなるのは、いかがなものかと……」
「う~ん、そうね、学校も大事よね」
未練は残っていたようだけど、最終的には「子供たちを放っていくわけにはいかない」ということで、エレンは留守番ということになった。




