帰ってみてビックリ
「残念じゃな、もっとゆっくりとできれば、いろいろと話もできたろうに」
「ありがとうございます。でも、いつまでも国を空けたままにできませんから」
叙位式の翌日、早々に、わたしはウェルシーに戻ることにした。このまま帝都にいつまでも留まっていても、何もいいことはないだろう。マーチャント商会代表と借金返済交渉が始まって、借金の証文にサインさせられることになってもまずい。帝国宰相とは、いずれまた、話をする機会もあろう。その時こそ……
「マスター、もう、そろそろ、行こうよ」
プチドラは言った。そして、体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。左目が爛々と輝く。わたしは下賜された勲章や褒章や徽章を詰め込んだ風呂敷包みを背負い、隻眼の黒龍の背中によじ登った。今着ているのは、宮殿仕様の群青色のメイド服。動きやすそうなので、一着だけもらってきたものだ。
「帝国宰相、それでは、ごきげんよう」
わたしが宰相に別れを告げると、隻眼の黒龍は翼を羽ばたかせ、宙に舞った。
帝都からミーの町のわたしの館まで、好天には恵まれていたけれど、ゆっくりと空の旅を楽しむ気分ではなかった。帝国宰相に丸め込まれることに依存はないつもりでいたが、実際に丸め込まれてみると、気分的には少々腹立たしい。それに、マーチャント商会への債務の問題もある。
「困った…… 困った…… 困った……」
「どうしたの、マスター、一体、何をぼやいてるの?」
「マーチャント商会への借金をどうしようかと思って。文書みたいに証拠が残る形で返済を確約したわけじゃないけど、まるっきり無視するわけにもいかないでしょう」
「適当に値切ればいいと思うよ。ところで、マスター、大切なことを忘れてない?」
大切なこと? なんだろう。帝都に忘れ物はないし、ツンドラ候にも挨拶してきたし、エルブンボウも風呂敷包みの中だし……などと考えているうちに、ウェルシー領内に。
やがて、さほど大きくはない町が見えてきた。ミーの町だ。隻眼の黒龍は町の上空を2、3回旋回し、高度を下げ、館の中庭に着陸した。別段、変わった様子はないようだ。わたしは隻眼の黒龍の背中から地上に降りた。その地上で待っていたのは……
わぁぁぁーーーい!!!
突然、子供の黄色い声が響き渡った。そして、子供が大勢、舘の玄関から押し寄せ、あっという間にわたしをとり囲んだ。わたしが「何事?」と、まごまごしていると、エレンがニコニコしながら数名の子供と手をつないで現れ、
「お帰りなさい、カトリーナさん。『自分のしたいこと』を考えてみたの。それで、ポット大臣にお金の工面を頼んで、学校を、『カトリーナ学院初等部』を作ったの。で、カトリーナさんが院長先生」
知らない間に学校とは…… エレンの行動力、あなどり難し……




