帝都の風景
「見えてきたよ。あれが帝都」
プチドラが言った。諸侯連合軍の陣地を出発して10日余り、そろそろ空の旅にも飽きてきた頃だ。
「それって、だいぶ向こうに見えるモヤっとした小さいの?」
はるか先に人工的構造物みたいな白っぽい棒のようなものが見える。
「まだ遠いからね。でも、近くで見れば、多分、びっくりするよ」
「ふーん、そうなの」
帝国の首都なのだから、それなりに大きくて立派な町だろうと思うけど、びっくりするほどのものだろうか。なんとなく、半信半疑……
しかしプチドラの言葉は間違いではなかった。わたしたちが帝都に近づくにつれ、その白っぽい棒の正体がハッキリとしてきた。それは地面からニョキッと突き出した巨大な塔あるいは尖塔だった。
「プチドラ、あれは?」
「皇帝の宮殿の周囲に建てられた尖塔が四本と、魔法アカデミーの塔が一つさ」
帝都まで、まだかなりの距離があるはずだ。ということは、近くで見ればプチドラの言うとおりかもしれない。
そして……
「わぉ!」
帝都の上空で、わたしは驚きの声を上げた。宮殿の尖塔と魔法アカデミーの塔は高さが300メートル以上(ベタな表現では東京タワー程度)。なんだか物理法則を無視しているような気もするけど、プチドラ曰く。
「魔法の力が働いているんだ。帝国成立時に初代皇帝の命令で建てられたの。実は、とってもえげつない話があるんだけど、聞く?」
「えげつないなら…… いい、遠慮しとく」
なんだか気になるけど、プチドラでさえ「えげつない」と言うくらいだから、聞けば後悔しそうな気がする。とりあえず、今はやめておこう。そのうち、気が向けば聞いてみよう。
帝都は大陸を流れる大河のほとりにあり、濠に囲まれた巨大な宮殿を中心として、非常な広範囲にわたって町並みが広がっていた。宮殿の隣には魔法アカデミー(の塔)があり、町には住宅や商店のほか、寺院、文化ホール、劇場、闘技場などの公共施設も整備されている。大河に面して港が設けられ、大河では多数の船が行き来していた。港の市場は大盛況だろう。
「ところで、あそこ、町の外れの、なんというか、みすぼらしいというか…… あれは何?」
「あの辺りはスラム街。ものすご~く、帝国では一番危ないところだから、行っちゃダメだよ。特にマスターは……」
スラム街なら、危ないのもさもありなん。自分で言うのもなんだが、わたしの方向音痴は名人級でもあるし……




