無期限休戦
わたしは隻眼の黒龍に乗って、トカゲ王国軍の陣地に戻った。御曹司にエルブンボウと隻眼の黒龍を見せることはできたけど、何やら妙な雲行きになってきた。ツンドラ候は裁判と言ってたけど、
「ねえ、プチドラ、もしもツンドラ候が訴えた場合、どうなるの?」
「諸侯同士で訴えたり訴えられたりする場合は、帝国法務院の管轄だよ。皇帝の大権の一つとして、皇帝の名前で判決が出る」
「証人になってくれとか言ってたけど、面倒なのかな」
「その場合、都まで出向いて証言しなければならないから、ちょっと面倒だね」
「この戦争はどうなるの?」
「御曹司が父親殺しの罪で告発されたとすると、とりあえず御曹司は更迭されて、誰かが代わりの総司令官に任命されるだろうね。でも、次の総司令官を誰にするかでもめそうだし、今頃、諸侯連合軍は戦争どころではないかもしれないよ」
「ややこしい話ね」
その後、プチドラの予想通り、諸侯連合軍はまったく動かなくなった。ということは、御曹司にエルブンボウと隻眼の黒龍を見せたことが裏目に出てしまったわけだ。もし、何もしないで待っていれば、ゆっくりではあっても、諸侯連合軍をリザードマンの領域に引きずり込むことができただろう。
「敵さん、一体、どうなっちまったんだろうな。まあ、このまま引き返してくれるなら、それもいいけどね」
フサイン部隊長はあくびをしながら言った。諸侯連合軍の本営でのやり取りは、フサイン部隊長にも、また、彼を通して、トカゲ王国軍の上層部にも伝えてある。トカゲ王国にとっては、もともと戦争をする気がなかっただけに、諸侯連合軍が予定を変更して引き揚げてくれるなら、それはそれでラッキーということだろう。わたしとしては、それでは困るのだが……
諸侯連合軍は、1週間たっても、2週間たっても、動かなかった。
そして、1ヶ月ほどたったある日、ツンドラ候が使者として、副官らしき小男を伴ってトカゲ王国軍の本営にやってきた。
「このたびは、2点、お願いしたいことがあり、参った。まず、無期限の休戦を申し入れたいこと、次に、そちらにおられるカトリーナ殿をしばらくお借りしたいということだが、いかがか?」
ツンドラ候自らが使者になるとは、随分と気合が入っている。そして、帝国の法務院から届いたというわたしへの召喚状を見せた。
もともとあまり戦う気がなかったトカゲ王国軍はその提案に同意し、その夜、お約束のように、わたしとプチドラの送別会が盛大に催された。




