大勝利
ツンドラ候は周囲が諌止するのもきかず、ただ一騎、槍を振り回して斬り込んできた。リザードマンたちはクモの子を散らしたかのように、方々の方向にパッと逃げ散っていく。まともに戦う気はまったくない。ツンドラ侯はますますいきりたち、愚かにも、陣中深く誘い込まれていった。
騎士たちはツンドラ侯に遅れまいとしたが、その前にリザードマンが壁となって立ち塞がった。隻眼の黒龍とわたしも応援に駆けつけ、隻眼の黒龍は火炎を浴びせ、わたしは矢を射かけた。
こうして、フサイン部隊長の目論見のように、「単細胞」のツンドラ候は、リザードマンの陣中奥深くで孤立してしまった。
「今だ、掛かれ!」
フサイン部隊長の合図で、リザードマンたちはツンドラ侯を取り囲んだ。そして、分銅付きチェーンを絡めたり、熊手で引っ掛けたりして、ツンドラ侯を馬から引き摺り下ろした。こうなるとあっけないもので、無敵を誇ったはずのツンドラ侯は鎖や縄で体をぐるぐる巻きにされてしまった。
陣地の前面では、騎士団が何度も突入を試みたがそのたびに撃退され、結局、大将を残したまま後退するよりなかった。
この日の戦闘は、敵将を生け捕るという大戦果を上げ、幕を閉じた。陣地では、このたびの大勝利を記念し、酒宴が開かれた。本当に酒好きな連中だ。
ツンドラ候は縛られたままリザードマンの本営にひきたてられた。そして、わたしたちの前で口惜しそうに、
「蛮族どもに囚われるとは、無念だ」
「『無敵の』ではなかったのですか」
「俺は『無敵の』エドワードだ。今日はたまたま不調だっただけだ。本調子なら、こんなことはない。絶対に!」
「この人の縄を解いてあげてください。それと、この人にもお酒を」
わたしが言うと、フサイン部隊長がリザードマンに指示を出した。盃に酒が注がれると、ツンドラ侯は、それを一気に飲み干した。用心深い人なら、毒が入っていないか気になりそうなものだが、そんなそぶりは微塵もなかった。豪胆というよりも、やはり「単細胞」なのだろう。
「まあまあ、もう一杯どうぞ。酒は百薬の長などと……」
わたしはツンドラ侯にどんどんと酒を注いだ。こういう単純バカなら、酔わせれば、調子に乗って機密事項を喋りだすかもしれない。拷問するより手っ取り早い。
予想通り、ツンドラ候はアルコールが体に満ちるにつれ舌が滑らかになり、
「がはははは、今日は負け……ではなく、引き分けということにしておいてやろう。しかし次は本気でいくぞ。覚悟しておくことだな。俺様が本気を出せば、おまえたちなど、ものの数ではないわ!」




