プチドラ大いに酔う
フサイン部隊長の話をきいていると、帝国よりもトカゲ王国の方が組織の在り方としては健全のような気がする。これなら誰もがトカゲ王国に仕官しそうだけど、言葉の問題があったり、訓練がものすごくハードだったり、勤務成績が悪ければ殺されて食料にされちゃったりするので、帝国で傭兵をしていた人がトカゲ王国に再就職することは、それほど多いことではないらしい。なお、フサインという名前は、トカゲ王国に来てから改名したそうだ。
「能力主義と血統主義では、戦う前から結果は明らかなのでは?」
「他が同じ条件ならそうなるが、現実には、いろいろとね……」
トカゲ王国の楽勝かと思ったら、早計だったようだ。まず、兵隊の数、トカゲ王国軍3万弱に対して帝国諸侯連合軍が15万以上(推計)とのことで、さらに、この付近は草原地帯で足場がしっかりしているため、騎乗用動物としては小型二足歩行恐竜よりも軍馬が有利(軍馬の方が足が速い)。現状は、トカゲ王国軍にとって、結構、厳しいらしい。そこで、とりあえず突貫工事で陣地を要塞化し、守りを固めたそうだ。
今のところ、帝国諸侯連合軍はこちらを警戒しているのか、攻撃をかけてきていないが、今後の動向については予断を許さないとか。その割には、歓迎の宴と称して酒盛りを始めるんだから、リザードマンの神経は、よほど楽観的にできているのだろう。
わたしはフサイン部隊長と別れ、プチドラ(隻眼の黒龍モード)のところに戻った。隻眼の黒龍は、ベロンベロンに酔っ払って、だらしなく地面に寝そべっていた。
「マスタ~、飲んでますか~。ボクは記録更新中ですぅ~」
記録? 周囲には空になった甕が何十個か転がっていて、酔いつぶれたリザードマンが幾人も倒れていた。
「いくら飲んでもいいけど、二日酔いはやめてよ。戦闘の最中にオエッて、しかもドラゴン……想像するのもイヤだし」
「大丈夫。アルコール大王に敵はないのよ~ん」
かなり飲んでるようだけど、大丈夫だろうか。一応、敵の諸侯連合軍が目の前でもあるし。
「プチドラ、こんなときに夜襲でもかけられたらどうするの? しっかりしなさいよ」
「大丈夫、大丈夫…… 御曹司が総司令官なら、それ、絶対ない」
「そうなの?」
「あの人、言うことは大きいけど、気は小さいのよ。しかも猜疑心が強いから~、相手が目の前で酒盛り初めても、『何かの罠だ~、ぜぇったい、動くな~』だよ、きっと。ただ、妙にプライドが高くて、怒りっぽかったりもするけど、ああ、怒りっぽいのは、ご隠居様譲りね。とにかく面白い人物だったじょ……」
相当にアルコールが回ってるようだけど、プチドラがそう言うなら、そういうことなんだろう。御曹司は順当に行けばドラゴンマスターの後継者だったから、プチドラも人物評価くらいしていただろう。こっちにとっては好都合だけど、そんな人が総司令官で、諸侯連合軍は大丈夫かしら。
ともあれ、それからしばらくして、わけの分からないカオスな宴会は終わった。




