つかの間の平穏
戦争は勝利に終わったが……、喜びが国内に広がったわけではなかった。メアリーやマリアを得て軍を強化することができた上に武器や糧秣を分捕ることができ、のみならず秘密裏に大量の労働力を確保することができたけれど、そもそも混沌の軍勢との戦争で受けた被害が大きすぎた。
ミーの町から西北方面の宝石産出地帯では、ゴブリン、オーク、マーチャント商会の捕虜など、収容所の囚人たちを使って不眠不休で復旧工事を進めているが、なかなか思うようにいかない。それに、宝石加工技術者の大半が国外に脱出しているので、国内産業の再生にも時間がかかりそうだ。猟犬隊に命じて技術者の捜索と回収(誘拐!?)を進めているが、人数的にはまだまだ足りない。
「はぁ~……」
わたしが執務室の机でため息をつくと、そこにエレンが紅茶を入れて持ってきてくれた。
「ご隠居様のところにいたときもそうだったけど、カトリーナさん、結構ため息が多いね」
「まあ、いろいろとね…… ところで、メアリーとマリアは相変わらず?」
「うん、姉妹で仲良くいつも一緒にいるよ」
戦いが終わったあと、エレン、メアリー、マリアには部屋を与え、館に住まわせていた。わたしも含めた4人は、お茶を飲んだりトランプ遊びをしたり、のほほんとした日常を過ごしていたけど、その中でも特に、メアリーとマリアのエルフ姉妹は、長い別離の時間を埋め合わせるように、寝起きも含め、常に行動を共にしていた。
その時、ドーンがあわただしく執務室に駆け込み、
「カトリーナ様、たった今、帝国から正式な使者が到着いたしました」
「あら、ドーンさん、今起きたばかりですか? 寝癖がついて髪の毛が逆立ってますよ」
「え? ああ、ほんとだ、エレン殿、教えてくれてありがとう」
「意外とおっちょこちょいさんなのね」
「いやあ、面目ない」
どういうわけか、エレンとドーンは波長がうまく合うらしい。最近は、廊下で二人が談笑する光景をよく見るようになった。
その話はさておき、帝国が正式に使者を送ってきたということは、返答次第によっては、今後は帝国と戦争することになるかもしれない。
「エレン、メアリーを呼んできて頂戴。謁見の場で同席させたいの」
「うん、すぐに呼んでくる」
エレンは執務室を出た。
すると、ドーンは「エイヤ」と気合を入れ、胸をポンとたたき、
「今度は帝国軍が相手ですか。ご安心あれ、この前の汚名を挽回してご覧に入れます」
「ドーン、あの…… あっ、いえ、ごめん、なんでもない……」
わざわざ突っ込みを入れるほどでもないだろう。




