アルセイン子爵(8)
以前、この町には一万千人ほどの人が暮していた。今回、新たに受け入れる人の数は七千人ほど。
一度にこれだけの人を町に入れるのは難しいと思った。だけど、少しずつ入れたら、復興には時間がかかってしまう。人数がいるだけ大変だけど、受け入れると決めたのなら頑張るしかない。
私は早速、他領の領主に手紙を書いた。まずは人を全て受け入れる事。次に必要な物資の事。
七千人も受け入れるのだから、必要な物資は沢山ある。まずは食料。七千人分の食料となると、その数は膨大だ。一か所でそれを集めるのは無理がある。だから、今回繋がりを持った領地にお願いするつもりだ。
食料を分散させて買い入れれば、それぞれの領地の負担は重くはならない。適度な量が売れるとなれば、その領も喜ぶだろう。あまり無理をさせて、印象を悪くするのは避けたい。
今回の事で伝手が出来て、関係を深めていけたら、今後の領地運営のためにもなる。だから、この辺は慎重に考えて実行するしかない。考えることが山積みでそこが大変だ。
領外の事も考えつつ、領内の事も考えなくてはいけない。この町に移住する人はお金を持っていないだろうから、食事を無償で提供する事になるだろう。それは、移住する人達にちゃんと働く場所を与えて、お金を稼げるようになるまで続く。
復興費用を貰ったが、それには限界がある。それが尽きる前に、どうにか領民の生活基盤を整えなくてはいけない。その為に、領民の仕事を考える必要がある。
どんな仕事を与えるか……。私は思いつく限りの仕事を紙に書き記した。
集中して書いていると、テントの中に誰かが入ってきた。ふと、気になって顔を上げて見ると、そこにはカルーがいた。
「リル、忙しそうね」
「ごめんなさい。あまり、話が出来なくて」
「いいのよ、それだけ大変だっていうことでしょう? それで、私はそのリルの力になりに来たんだから」
その言葉だけで、疲れが癒えていくみたいだ。
「それでね、どんなことをしたらリルの力になれるか考えたの。そしたら、良いことを思いついたの」
「どんなことですか?」
「この町にも冒険者は必要でしょ? 今後も冒険者の力を借りないとやっていけない。違う?」
「その通りです。町の外には魔物が沢山いて、町の安全を守るためには冒険者の力が必要です」
「そうよね。だから、その冒険者を支える役目をやろうと思っているの」
冒険者を支える役目……。確かにそれは必要だ。今、冒険者たちは自分で物を持ち寄って、なんとかこの地に留まってくれている。だけど、必要な物がなくなれば途端に生活が出来なくなる。
「町を復興することばかり考えて、大切な冒険者の事を考えていませんでした」
「なら、私が力になるわ。冒険者に必要な物資を集める役目を私に背負わせてくれない?」
「カルーが冒険者の必要な物資を?」
「ほら、今まで冒険者に向けて商売していたじゃない。その延長線の仕事だったら自分にも出来ると思ったのよ」
確かに、カルーは冒険者向けのお店で働いていた。となると、冒険者に必要な物は頭の中に入っている。カルーに任せれば、冒険者たちの生活が安定出来る。
今、私に欲しい人手だ。私は領主だから物を売るような事は出来ないし、細かく冒険者の事を気遣う余裕もない。だったら、他の人手を使った方がいいに決まっている。
「私が冒険者を支える。そうすると、間接的にリルが助かると思うの」
「ぜひ、お願いします。冒険者たちを支えてもらえると、町の復興が捗ります」
「なら、決まりね! 実は、もう目ぼしい建物を見繕ってあるの。それを私に貸し与えてくれない?」
「もちろんです。商売をするための資金も援助します。と、言っても借金になると思いますが……大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、そのつもりでいたし。そんな事よりも、リルがちゃんと町を復興するのが先決だわ」
これは心強い味方がいてくれた。これなら、冒険者の生活の事を一任しても大丈夫そうだ。
私は地方官吏を呼んで、カルーに渡すお金をまとめてもらった。金銭貸借契約書を作成し、カルーに一千万ルタを託した。これで、なんとか冒険者たちの生活を安定させて欲しい。
「さぁ、これから忙しくなるわよ! リルは自分の事だけを考えて。冒険者の事は私が考えるから」
「はい、お願いします」
冒険者たちの生活はカルーにかかっている。これで、私も自分の仕事に集中出来そうだ。
◇
冒険者たちが街道の安全の確保と整備をしてくれた。これで、他領から人と物資を移動することが出来る。早速、私は他領の領主に手紙を送った。
その前に必要な物資をまとめた用紙も送っていたので、準備は完了しているはずだ。これで、新しい手紙が到着すれば、すぐに動いてくれるはず。
それを待つ間、私は先の事を地方官吏たちと一緒に考える。移民が来たらやるべき事をまとめて、スムーズに事が進むように手順を考える。
移民を受け入れる態勢を整え、残った時間で移民の仕事の事も考える。地方官吏たちと様々な意見を交わし、移民が携わる仕事を出来るだけ上げてもらった。
まず、必要なのは農業者。この領にはこの町しかないため、農作物を作ってくれる村がない。他領から買うと割高になってしまうため、やっぱり自領で農作物を育てたほうがいいことになった。
その農業者はどれくらいの人数必要なのか、ジルゼム様から貰った資料を見て相談しあった。結果、農業者一人が養える人は五人ほどという結果に辿り着いた。
七千人ほどいる領民を食べさせていくのに必要な人数は千四百人ほどの農業が必要になってくる。こう見ると、結構な数が必要になってくることが分かった。
不測の事態があった場合の事を考えて、農業者は千五百人ほど従事させようということになった。これで七千人の内、千五百人の仕事が決まったことになる。
でも、あと五千五百人ほどの仕事を決めなくてはいけない。細々とした仕事は色々あるから、それで全ての人が埋まれば良いのだけれど……少し不安だ。
そんな時、ふと思いついたことがある。町を代表する特産を作れば、仕事が埋まるんじゃないか、と。でも、特産を作るのは大変な事だ。何か、この土地に特徴となる物があればいいんだけど……。
地方官吏との会議は特産の事で白熱し、様々な意見が出た。その話で日にちを費やしていると、この町にとうとう物資と人が到着した。




