アルセイン子爵(6)
それから町の様子を確認する作業が続いた。町の全貌を確認すると、全壊と半壊が一割だと言うことが分かった。
その結果は思ったよりも修繕が必要な建物が少ない事を示していた。これは、いい報告だ。だったら、他の九割は綺麗にすればそのまま使える事になる。
あとは門周辺の修繕だ。この町の門は東西南北に設置してあり。その内、壊されていたのは東と西の門だけだった。なので、修繕はその二門だけで済むという話だ。
修繕する建物の選別も終わり、あとはどれくらいの職人を入れて修繕に当たるか、という話になった。一緒に連れて来ていた職人の見立てを参考に地方官吏との話し合いの結果、町に派遣する第一陣の職人の選定が終わった。
あとは、その職人が一時的に寝泊りする場所、食事の用意をしなくてはならない。それに修繕に使う資材の手配もしなくてはならない。凡その数を職人に試算して貰った。
修繕に必要な人員、滞在に必要な物資、資材が出揃った。あとは、これらをどこの誰に頼むのかだ。
ジルゼム様やトリスタン様に頼めば、すぐに手配してくれるだろう。だけど、他領に依頼したほうが今後のためになる。これからは貴族の繋がりも考えながら、領地運営をしていかなければいけない。
そろそろ、手紙がこの地に届くはず。それを待ってからでも遅くはない。焦らずじっくりと地盤固めをしながら復興を成し遂げなければならない。
町の事を考えた後は、町の外の事も考えなければいけない。そう……この町はしばらく機能していなかった。だから、周辺にはおびただしい数の魔物が生息している可能性がある。
「冒険者を募集して、周辺の魔物を間引く必要があります。そうしないと、街道が使えません。街道の整備も必要ですが、まず冒険者で魔物を間引かないとその整備も出来ないでしょう」
「他領と取引を始める前にどうにかしないといけませんね」
「そして、冒険者には冒険者ギルドも必要です。冒険者ギルドの誘致も必要になります」
冒険者の募集と冒険者ギルドの誘致……やる事が山積みだ。まずは冒険者ギルドの本部に掛け合って、この町に冒険者ギルドを作ってもらわないと。
でも、それが終わってから冒険者を募集していたんじゃ、他領との取引に集まらない。まずは、私が直接冒険者を雇用するようにして、冒険者の募集をかけて……。
地方官吏と一緒に今後の予定を立てていた時、馬の嘶きが聞こえた。振り向いてみると、そこには騎乗した地方官吏と冒険者たちがいた。
「アルセイン子爵はどちらでしょうか?」
「それは私です」
「私はコーバスからルーベック伯爵の使者として来た者です。急ぎの連絡があります。こちらを受け取ってください」
トリスタン様のところから? 一体、なんだろう?
不思議に思いつつも、一通の封筒を受け取った。封を切り、中に入っている手紙を見て見る。
そこに書かれていたことは――冒険者ギルドの職員とコーバスとホルトから冒険者の派遣をした、という内容だった。
凄い! トリスタン様は私の心が読めているみたいだ!
冒険者ギルドと冒険者が来てくれれば、初めの段階は突破できる。まずは町周辺の魔物を間引きしてもらって、街道の安全を確保。他領との取引を開始して……うん、最初の動きを止めずに済む。
トリスタン様の気遣いに心から感謝をすると、早速返信の手紙を書き始めた。
◇
トリスタン様の領と私の領は一領を挟んだ場所にある。そこから派遣となると、辿り着くまでに一週間はかかるみたい。それまでの間、町を見回って必要な物を見繕っていった。
そうして仕事をしているとあっという間に日数は過ぎていく。私が町を見回っていた時、駆け足で地方官吏が近づいてきた。
「リル様! 冒険者ギルドの関係者と冒険者たちが到着しました!」
来た! 町を見回るのを切り上げ、急いで協力者たちの下へと向かった。天幕を張っている場所に案内されると、そこには沢山の馬車と大勢の人でごった返していた。
こ、こんなに来てくれたの? 私はその人数の多さに目を丸くした。でも、こんなに来てくれて心強い。
「今、代表者を連れてきます」
そう言って地方官吏は離れていった。代表者、一体どんな人だろう? どんな人であれ、失礼のないようにしないと。でも、自分が貴族だっていう威厳も保ちつつ……。うぅ、その辺が慣れてないから難しいんだよなぁ。
自分の事でいっぱいいっぱいになっていると、地方官吏が代表者たちを連れてやってきた。
「お連れしました」
「この度は……」
口を開き、代表者を見て――息が止まった。
そこにいたのは、冒険者ギルドで働いていたアーシアさんと、私の師匠でもあるヒルデさんだったのだ。
「……どうして?」
「お初にお目にかかります。冒険者ギルドの代表者、アーシアと申します」
「私は冒険者代表のヒルデと申します。以後、お見知りおきを」
二人がうやうやしく頭を下げた。その態度が気になるけれど、それよりももっと気になる事がある。どうして、二人がこんな場所に?
呆気に取られていると、アーシアさんとヒルデさんはお互いの顔を見合わせて笑った。
「ヒルデはその態度は似合わないわね」
「そういう、アーシアこそ」
「あ、あのっ!」
「あぁ、ごめんなさいね。つい、おかしくて」
「リル、久しぶりだな。元気そうで良かった」
二人は気兼ねなく話しかけてくれるが、私が知りたいのはそれじゃない。
「どうして、二人はここに?」
「もちろん、リルちゃんを支えに来たのよ」
「リルが領地を貰うって聞いたから、手伝いにきた」
「私のため?」
その二人の言葉にじんわりとした温かい気持ちが広がった。二人はわざわざ住み慣れたコーバスを離れて、スタンピードで滅んだ町に来てくれたのだ。
「それに私たちだけじゃないの。ほら、よく見て。見知った顔がいるでしょ?」
「見知った顔? ……あっ」
後ろの方を見て見ると、そこにはかつて一緒に働いたギルド職員や一緒にクエストをした冒険者たちがいた。よく見ると、ハリスさんとサラさんまでいる!
「どうして、みんなが集まってくれたんですか?」
「それは、リルちゃんが困っているって領主様から聞いたのよ。親しい人が困っているなら、手助けをしたくなっちゃうでしょ?」
「話を聞いた時は驚いたが、リルらしいと思った。これからは領主として頑張っていくつもりなのだろう? 師匠として、見過ごせない」
みんなの親切心が心に沁みる。私にはこんなに頼りになる人たちがいる。それだけで、私はどんなことがあってもめげずに頑張っていけそうだ。
「それに……離れたところにいた知り合いも来ているみたいよ」
「離れたところ?」
そういって、アーシアさんが呼び寄せた人たちに私は目を丸くした。だって、その人たちは――。
「リル!」
「久しぶりだな!」
「カルー! ロイさん!」
ホルトで仲良くしていたカルーと一緒に冒険したロイがそこにいた。二人とは手紙でやり取りしていたのだが、こうして会うのはとても久しぶりだった。
「どうして、二人がここに?」
「募集の紙を見たからよ。リルが町を復興させるって聞いたら、いてもたってもいられなくなっちゃった」
「めちゃくちゃ大変そうだから、力になりにきたぜ!」
「二人とも……ありがとう!」
見知った人の助力に涙が出そうだった。こんなに私を慕って、協力してくれる人たちがいる。それが何よりも嬉しかった。
……うん。私、頑張る。どんなことがあってもめげない。絶対にこの町を復興させてみせるんだから!
ここまでお読みいただきありがとうございます。
思ったよりも長くなりそうだったので、続きは来月七月にしようと思います。
今しばらくお待ちくださいませ。
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