アルセイン子爵(1)
難民施策は順調に進み、ルーベック伯爵領の難民の数は激減した。しかも、難民の数が減っただけでなく、微々たるものだが税収が上がった。これは難民を町民に戻すという形が上手く機能したせいだ。
この成果は、トリスタン様が入っている派閥内で共有された。だけど、話はそれだけでは留まらなかった。
この施策が国政の場に披露されることになったのだ。どうやら、トリスタン様よりも上の貴族、派閥の長にこの施策は国を上げて実行するべきだ、という考えに至ったらしい。
その結果、国政の場で施策が共有される事になった。
私が考えた施策が凄いところまでいくことになったんだな。と、他人事のように思う。話が大きすぎてこの話を聞いた時、まるで自分が関わっていなかったような錯覚に陥っていた。
だけど、話はそれで終わりではなかった。
その国政の場に参考人として私を連れて行こうという話になった。
「わ、私が国政の場にですか?」
「あぁ。派閥の長である、フェルザリア公爵が参考人としてリルを国政の場に連れてきたほうが説得力があると言ってな」
「そんな……私は一介の冒険者です。そんな冒険者が国政の場にだなんて……非常識ではないですか?」
「施策を考えただけでなく、実行して成功させた立役者がいるんだ。その立役者からの話の方が国政に有益だという判断みたいだ」
「……でも、トリスタン様はこの施策の事を一番に理解していらっしゃいますから、トリスタン様が国政の場に立てばいいと思います。そもそも、この施策はトリスタン様の発起人で……」
そうだ、この施策はトリスタン様がいたからこそ出来たものだ。だから、その手伝いをしたに過ぎない私が国政の場に出て説明をするなんて事は非常識だ。
トリスタン様も冒険者が国政の場に立つことの異常性には気づいているはず。なのに、その話を受けるなんて……何を考えているんだろう?
「ここだけの話にして欲しいんだけど……フェルザリア公爵は頭の固い国政の人間に一泡吹かせたいって思っているらしんだよ」
「ひ、一泡ですか?」
「この施策を考え、実行し、成功に導いたのが冒険者だって知れば、貴族の血を重んじる国政の人間たちに一石を投じるようなことになると考えたんだよ」
「貴族の血を重んじる?」
「この国の中心の人間たちは貴族が庶民を統治するのが当たり前だという考えなんだよ。政治や統治は貴族の血を引き継ぐ者が相応しいっていう考えに染まっているんだ」
国の中心の人達はそんな考えだったなんて知らなかった。今まで貴族とは無縁の生活をしていたから、上がそういう考えなんて知る機会は無かったからなぁ。
「だけどフェルザリア公爵は……いいや、この派閥は有能な人が積極的に国政に出てきて、国を統治するのがいいという考えをしているんだ」
「じゃあ、国政の人達とは相反してますね」
「そう。だから、王宮に上がった時は壮絶な戦があるんだけど……脱線したね。というわけで、庶民から出てきた有能な人は逃したくないんだよ」
そう言うトリスタン様の視線が強くなったような気がした。これは、私……逃げられない?
「でも、私なんかが国政の場に出ても大丈夫でしょうか?」
「きっと、発言権はないと思う。だから、大まかの説明はこちらで行うし、質疑応答だって私たちがやる。ただ、リルにはその場に立っていて欲しいだけなんだよ」
立つだけか……参考人っていうから何かを説明させるのかと思ったけど、そうじゃないみたい。それだったら、私でも出来るかな?
「やってくれるかい」
「はい。やらせてください」
「よし。王宮に乗り込むぞ」
◇
こうして、私は王宮で行われている国政会議に参加することになった。この日のために見栄えのいい服を用意して、礼儀作法を学んだ。
いつもとは違う学びにとても大変だったけど、なんとかトリスタン様の合格が貰えた。それが終わると、私はトリスタン様と一緒に王宮へと向かった。
王宮へ向かったと言っても、まずはトリスタン様の私邸に赴いた。それから国政会議に……ということにはならず、まずは今回の事を計画したフェルザリア公爵に会うことになった。
数日間、トリスタン様の私邸で過ごすと、フェルザリア公爵から封書が届いた。その封書の中身は顔合わせの日時が書かれており、それは明後日になっていた。
封書が来てから二日、私は緊張した面持ちでトリスタン様とフェルザリア公爵の私邸へと赴いた。その私邸はとても広く、トリスタン様の私邸の三倍はある大きさだった。
馬車から降りた私たちは盛大な出迎えを受け、私邸の中に入っていった。そして、待つ部屋も広く豪華でとても居心地が悪かった。本当に場違いなような気がして少し萎縮してしまう。
それに、これから貴族の頂点とも言える人に会う。普通なら会う事すら叶わない相手との面会にとても緊張していた。そんな私の心を見透かしてか、トリスタン様は私の緊張を解きほぐそうとしてくれていた。
お陰で私の緊張が大分解れたところで――扉が開いた。
「待たせたな」
扉から現れたのは、見るからに大柄な男性だった。銀髪の一つに束ね、公爵にしては装飾が少ない落ち着いた服装をしている。
その公爵が目の前のソファーに座った。
「久しいな、トリスタン」
「はい。ジルゼム様もお変わりなく」
「あぁ、忙しくやらしてもらっているよ。して、早速だが……その子が例の?」
「えぇ、リルと言います。年は十四」
「へぇ……十四ねぇ」
二人は軽く言葉を交わすと、視線をこちらに向けてきた。ジルゼム様と言われた公爵がニヤついた顔で私を見てくる。や、やっぱり若すぎるよね?
ドキドキしながら待っていると、ジルゼム様がニカッと笑った。
「若いのはいいな! これで国政の奴らも驚くに違いない。施策を考えて実行したのが、庶民の十四歳。……これは面白い事になりそうだ!」
ど、どうやら大丈夫だったみたい。よ、良かった……悪いように思われなくて。
「リル、俺たちと一緒に国政会議に立ってくれるか?」
「は、はい。微力ですが……」
「微力どころか、大きな爆弾になる! これで爵位で物を言わせる奴らに一泡吹かせられる。リル、お前が宮中のあり方を変えるきっかけになるんだ」
は、話が大きすぎる。庶民の出の私が宮中のあり方を変えるきっかけになるなんて……本当に可能なのかな? でもジルゼム様は信じているみたいだし……私は私の出来ることをするだけだよね。
「月に一回の国政会議は明後日だ。それまで、話を合わせておくぞ」
ジルゼム様のその一声で、私たちはしばらく部屋に滞在に国政会議で話す内容をまとめ合った。明後日には国政会議か……来る所まで来ちゃったなぁ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
予定より早いですが、時間が出来たので執筆してみました。
今回も頼んで頂けたら幸いです。
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