錬金術師の道(1)
全六話です!毎日投稿します!
薬草の汚れを水で洗い流し、乾いた布で拭く。そしたら、薬草をまな板の上に置いてナイフで切る。薬草の筋を切るようにナイフを入れると良いと聞いたのでその通りに処理する。
次にビーカーに水を入れて専用の発火コンロの上に置いてお湯を沸かす。この時注意しなければいけないことは、沸騰寸前を維持する事。そうじゃないと、薬草を入れた時に余分な物も溶けだしてしまうようだ。
注意深く温度を確認すると、湯気が立ってきた。そこで発火コンロの火を最少にする。そこでようやく薬草を入れた。
今度は薬草の成分を抽出する。魔力伝達をしてくれる錬金棒を入れて、魔力を流しつつゆっくりとかき混ぜた。すると、次第にお湯が緑色に染まって来る。薬草の成分が抽出された証拠だ。
そのまま抽出を進めていく。この時気を付ける事は、効果的な成分の抽出を見極める事。成分抽出には波があって、有効的な成分は抽出するには開始直前から中盤の終わりくらいまで魔力を籠めなければいけない。その判断はお湯の色によって決める。
だから、じっとお湯を観察して、最高の色になる瞬間を待つ。もう少し、もう少し……だんだんと目標の色に近づいてくるとすくい網を持って待機する。
そして、目標の色に達成した。
「今だ」
すぐに薬草を網ですくい、薬草を取り出す。残ったのは薬草の成分が最高に抽出されたポーションだ。だけど、これで終わりじゃない。これからオリジナルの調合が始まる。
普通なら今の作業で終わりだけど、オルトーさんから教えてもらったレシピには続きがある。このままだと味が薬草の味になってしまうから、美味しくない。だから、ここから味を加える作業に入る。
すり鉢に一センチの赤い実を五つ入れて、すりこ木で丁寧に潰す。すると、フルーティーな匂いが充満してきた。これは味に期待が出来る。
すり潰した赤い実を小さなガーゼに包むと、それをビーカーの中に入れた。それから錬金棒で魔力を通しながらかき回す。すると、ポーションの色が少し赤みを帯び、フルーティーな匂いが立ち込めた。
十分に成分を抽出したら、ガーゼを取り出して発火コンロの火を止める。それから湯冷ましをしながら、辺りを片づける。その片づけが終わる頃にはポーションの温度は触れるほどに下がっていた。
最後に出来上がったポーションを専用の瓶に移し替えると……回復ポーションの出来上がりだ!
「オルトーさん、確認してください!」
出来上がったポーションを机に向かって研究をしていたオルトーさんに見せる。
「ほう、出来たか。どれどれ……色は……いいね。匂いは……うん、いい匂いだ。ここまでは合格点だな。最後にこのポーションを鑑定してみるね。さて、結果は?」
一つずつ確認していくと、最後の関門がやってきた。オルトーさんは鑑定スキルを使って、私が作ったポーションを鑑定する。どうか、いい結果でありますように! 手を組んで祈った。
「……なるほど、なるほど、そんな結果だったか」
「あの、私が作ったポーションはどんな感じだったんですか!?」
「あぁ、それはね」
オルトーさんがにやりと笑う。あー、こういう時にじれったくするのは止めて欲しい!
「……私が作るものと遜色ない、最高品質の回復ポーションだ」
「ということは……」
「この回復ポーションは成功した」
「やった!」
とうとうポーションを完璧に作る事が出来た!
「ふふ、まさかこんなに早く私の領域の調合まで出来るとは思ってもみなかったよ。リルは魔法操作がとても上手だから、錬金術と相性がピッタリだったみたいだ。これも、私がリルを見初めたからだな。うん、うん。リルには才能があると思っていたよ」
「そんなに褒められると照れちゃいます」
「いやいや、これは誇ってもいい結果だ。リルには錬金術をやる上で基礎がすでに出来上がっていたんだ。だから、こんなに早く最高品質の回復ポーションが出来たんだ」
「基礎、ですか?」
私は冒険者として魔物と戦ってきた。その中に錬金術に通じるものがあったの?
不思議に思っているとオルトーさんが教えてくれる。
「向上心と諦めない心さ。よりよい物を作ろうという思いと絶対に完成させようとする思い、その思いが錬金術の基礎なんだ。リルは今までの人生でそれを学んできたのだろう。だから、調合が成功するのさ」
その思いは確かに私の中にあった。今までの冒険者生活の中で培われたものだ。冒険者として鍛えた日々が今になって役に立つことになろうとは、とても意外だった。
「それにリルは色々と考えるのが癖なんだろう? それも錬金術とは相性がいい癖だ。どうしてこの素材であんな物が出来るのか、そういうことを考えていく事で錬金術の深みを知る事も出来る。こうして考えると、リルには錬金術がピッタリだと思うな」
「私も……錬金術を学んでいく時に違和感を覚える事はなかったです。自然と錬金術の知識が頭の中に流れ込んできて、自然と錬金術を使うことが出来ます」
「それはいいね! だから、私の説明を一度で理解して実行出来るという訳か! これは、リルには天性の才能があるかもしれない! これは楽しい事になりそうだ!」
わぁ、オルトーさんのテンションが高い。そ、そんなに凄い事なのかな? 今まで学んだことは自然と頭に入ってきていたから、特別な事じゃないと思うんだけど。
「よし、このまま基礎の調合を極めてから、中級の調合に移るとしよう。そしたら、きっと中級の調合もスムーズに出来るはずだ」
「えっ、まだ錬金術を始めてから三か月しか経ってませんよ? まだ、中級は早いんじゃないでしょうか……」
そう、私はまだ錬金術を始めてから三か月しか経っていない。初心者の中の初心者なのに、中級はまだ早いんじゃないだろうか? 不安に思っていると、オルトーさんに両肩をがっしり掴まれた。
「いいや、リルなら出来る! その力はあるんだ! 後は数をこなすだけで、どんどん錬金術が上達する! こうしちゃいられない、調合の為の素材を集めなければ。ちょっと、素材を買いに行ってくる! 明日、またここに来てくれ!」
「えっ……買い物なら私も一緒に行きますよ!」
声を掛けたのだが、オルトーさんは気にせずに出かけてしまった。私も一緒に行って素材の見分け方とか教えて欲しかったのに……行ってしまったのは仕方がない。
残された私は使った道具を片づけると、オルトーさんの家を出て行く。外から内鍵を締めると、暇になった私はヒルデさんの家に向かった。
◇
私は今、オルトーさんの所で錬金術を学んでいる。色んな仕事を一通りやった後、私は錬金術に興味が引かれた。その気持ちをオルトーさんに伝えると、すぐに弟子にしてくれた。
それから新しい仕事を請け負う事は止め、錬金術の時間に当てた。錬金術はとても面白い仕事で、魔力を使って物を生み出す仕事だ。私は黙々と作る作業も好きだし、あれこれと考える事も好きなので、錬金術をやっていると時間を忘れるほどに楽しい。
新しいお仕事はとても充実していた。錬金術に出会えて良かった。そうじゃなかったら、この楽しさを味わうことが出来なかっただろう。色んな仕事を請け負って良かったな。
だけど、冒険者を辞めたつもりはない。錬金術には素材が必要で、その素材を入手するためには外の冒険に出て行った方がいいらしい。さっきのオルトーさんは買いに行ったけれど、素材採取も自分でやりたいとは思っている。
今は家に籠って調合の日々だけど、その内みんなで素材採取の冒険にも行ってみたい。その為にも、仲間との繋がりは必要だ。なので、今日はヒルデさんの所に顔を出すことにした。
「リルか、良く来たな」
ヒルデさんの家を訪れると、快く家に招き入れてもらった。ソファーに座って待っていたら、お茶を持ってヒルデさんがやってきた。
「錬金術の仕事はどうだ?」
「はい、とても順調です。調合がこんなにも楽しいものだったとは知りませんでした」
「そうか、楽しいか。自分にあったものが見つかって良かったな」
「はい。今は調合で忙しいですが、今度は一緒に素材採取に行ってくださいね」
「ふっ、このAランクの冒険者に冒険の予約か? 高くつくぞ」
「そんな事言わないで下さいよ。冒険者も辞めたつもりはありませんからね。まだ、色々と教えてもらいます」
「やる気があるのは良いことだな」
足や目が戻ったヒルデさんは積極的に冒険に出始めた。こちらも充実した日々を送っているのか、前よりも表情が明るくなっているような気がする。
「今度は少し遠出をしようと思っている」
「あっ、いいですね! 私もヒルデさんと遠出したいです」
「なら、錬金術を学び終えたら一緒に行こうか」
「はい! って、いつ学び終えるか分かりませんが……」
「リルならすぐにでも終わるんじゃないか? だって、天性の才能があるんだろう?」
「もう、ヒルデさんまでそんな事言わないでください! 私は普通です、普通!」
「まったく、リルの普通は普通じゃないっていつ気が付いてくれるんだか」
肩をすくめてそんな事を言われた。
「そんな事より、どこに行くか教えてください」
「なんだ? 冒険に興味がなくて、錬金術に夢中だったんじゃないのか?」
「もう、意地悪しないでください」
「ふふっ、悪い……ついな。今度行くところは……」
ヒルデさんから冒険の話を聞くと、心がワクワクする。やっぱり、私は冒険者も辞められない。その内、冒険しながら錬金術を使えるようになったらいいな。そんな希望を抱くようになった。
その為には、今は錬金術を頑張らなくては。オルトーさんが素材を買ってきてくれたら、調合を頑張ろう。どんどん調合を成功させて、早く一人前の錬金術師になろう!
コミカライズ一巻が明日発売になります!
お手元にお迎えしていただけると嬉しいです!
また、ニコニコ静止画にもコミカライズが掲載されるようになりました!
ぜひ、コメント付きで楽しんでください!(コメントも残してね)
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