293.スタンピード(16)
空から数体のドラゴンが降りてきた。ズシン、と重い振動が辺りに伝わる。そして、その巨体から雄たけびが上がった。
「グオォォォッ!!」
誰もがその姿を見て固まった。波のように押し寄せてきたラプトルすらもその姿に釘付けだ。その大きすぎる存在は、誰にでも平等に威圧した。
今まで山場は何度もあったけれど、今回の山場はとびきり大きい。これを越えなければスタンピードは終わらないだろう。終わらせるためにも、この山と戦わないといけない。
ドラゴンを見つめていると、離れて戦っていたサラさんとヒルデさんが駆け寄ってきた。一番に声をかけてきたのはヒルデさんだ。
「とうとう現れたな」
「はい、予想通りでしたね」
「あれを倒さないとスタンピードは終わらない。他の奴らに任せるか、それとも自分の力を試すのか……どっちにするんだ?」
改めて確認をされた。ここで戦わない選択をしても責められない、というか大半はその選択をするだろう。きっと、他の高ランク冒険者が倒してくれるに違いない、そう思った方が気楽でいい。
ここで自分が出しゃばらなくても大丈夫なら、その選択をしたと思う。だけど、戦う選択をした人が少なかったら、このドラゴンは野放しになってしまう。そうなると、町を襲いに飛びたってしまう、それだけは避けたい。
「私はスタンピードを食い止めるために来ました。だから、ドラゴンを倒して、スタンピードを終わらせます。今、自分にできる精一杯のことをやり遂げようと思います」
町を守るため、私は戦うことを選択した。強いまなざしをヒルデさんに向けると、ヒルデさんは不敵に笑う。
「流石はリルだな。お前たちはどうする?」
「私はどれだけのことができるか分からないが、挑戦してみようと思う」
「俺もだ。どれだけ俺の弓矢が効くか分からないが、戦おう」
「よし、なら行くぞ」
先頭をヒルデさんが行くと、その後を私たちが追う。この頃になると、冒険者側もラプトル側も動き出して、戦いが再開された。その間を縫っていき、ドラゴンへと近づいていく。
そして、ドラゴンの前へと飛び出すと、他にも冒険者たちがいた。よく見ると、それはラミードさんだった。ドラゴンと戦う冒険者が他にもいて、私はホッと安心する。
すると、向こうもこちらに気づき、手を振ってくれた。流石に喋る余裕はないのか、すぐにラミードさんはドラゴンと向き合う。
「一塊になると、狙われる。散らばってドラゴンと戦うぞ」
ヒルデさんの案で私たちは散らばった。私はドラゴンの側面に移動すると、その巨大さが良く分かった。大きな胴体に長い尻尾、間近で見るとどれも大迫力だ。
「グオォォォッ!!」
冒険者たちが集まるとドラゴンは反応した。頭を高く持ち上げると、口を開く。そして、火の息を吐く。正面にいた冒険者たちに火の息が襲い掛かった。こちらには向かない、ということは攻撃のチャンス?
私は身体強化をして駆け出した。狙うのはドラゴンの後ろ足、体を支える大事なところだ。臆せずに飛び掛かり、後ろ足に向かって剣を目一杯突き刺した。
固い鱗を貫通し剣は後ろ足に深く突き刺さった。それをすぐに抜き取らず、剣を倒してドラゴンの肉を裂く。
「ギャァッ!」
火を吹いていたドラゴンが悲鳴を上げた。すぐに後ろ足が乱雑に動き出すと、私は剣を抜いて距離を取る。その私の姿を見たドラゴンが今度は私に向かって火を吹いた。
まずい。私は手を前に構えると魔法の壁を出現させ、火の息を止めた。ゴォォッ、という音と共に火が襲い掛かる。どちらが持つのが長いか勝負だ、そう思っていたのだが他の冒険者が動くのが早かった。
私に集中していたドラゴンの隙を突き、他の冒険者がドラゴンを襲った。武器で攻撃して、巨大な体に傷をつける。サラさんとハリスさんもその攻撃に加わって、なんとか一撃を与えようと頑張っていた。
「グオォォォッ!!」
大勢の冒険者に攻撃を入れられたドラゴンは怒った。私に火を吹くのをやめ、尻尾を振り回して周辺にいた冒険者を攻撃をする。だけど、それを予測していた冒険者は尻尾の攻撃が来る前にドラゴンの近くから退避した。
私たちの攻撃が通用する、今の攻撃でみんながそう思った。一つの攻撃は弱いかもしれないけれど、その攻撃を重ねたら大きな攻撃になる。
「攻撃できるヤツはどんどん攻撃していけ!」
「倒せない相手じゃないぞ!」
「俺たちの力を見せつけてやれ!」
声を上げてやる気を漲らせる。やれないことはない、だったらやるしかない。そう思っていると、ヒルデさんが駆け寄ってきた。
「リル、戦えるか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか、良かった。なら、一緒に戦うぞ。身体超化を使って、ドラゴンをやっつけるぞ」
「はい」
力の出し惜しみはしない。二人で身体超化をして、体の機能を極限にまで引き上げた。
「私はそんなに激しい身動きはできない。だから、リルが動きで攪乱してやれ」
「はい、やってみます」
ドラゴンは違う方を向いて火を吹いている、今なら不意をつけそうだ。剣を固く握ると、ドラゴンに向かっていった。一瞬で距離を詰め、ドラゴンの背に乗ると剣を突き立てる。
「グアァァッ!!」
ドラゴンが悲鳴を上げている内に突き立てた剣を走らせ、ドラゴンの体を引き裂く。堪らずにドラゴンは私に向かって尻尾を振り上げた。だが、身体超化をしている私にとってその動きは遅い、すぐに剣を抜いて背から飛び出す。
一度距離を取り、ドラゴンの様子を窺う。ドラゴンはこちらを向いて攻撃する隙を見定めているようだ。だったら、攻撃できないようにすればいい。私は身体超化で目に留まらぬ速さで移動をした。
「ギャァッ!?」
その速さにドラゴンはついてこれない。どこに攻撃をしたらいいか分からないのか、混乱しているようだった。だけど、しびれを切らし誰もいないところに火を吹き始める。
その隙を他の冒険者が見逃すわけがない。一斉にドラゴンへと向かっていき、その体に剣を突き立て魔法を放った。その一撃が終わるとすぐに冒険者は距離を取る。
隙を突かれて攻撃されるドラゴンはたまったものじゃない。フツフツと怒りを込み上がらせ、咆哮をする。
「グオォォォォッ!!」
ドラゴンが怒った。みさかいなく暴れまわり始め、簡単には近寄れなくなってしまう。冒険者たちは距離を取り、攻撃する隙を見つけようとするが中々見つからない。
どうやって攻撃しようか、そう思っているとヒルデさんが飛び出していった。片足がなく激しい動きができないのに、大丈夫なんだろうか? 心配して見ていると、ヒルデさんは軽快に暴れるドラゴンを掻い潜っていった。
そして、大きくジャンプをするとドラゴンの首を深く切りつける。
「ギャアァァァッ!!」
その一撃で乱暴に暴れまわっていたドラゴンの動きが鈍くなった。今がチャンスだ。身体超化の力で一瞬でドラゴンとの距離を詰め、その体の上に飛び乗る。体を駆け上がり、高くジャンプをすると、眼前にはドラゴンの頭があった。
「はぁぁっ!!」
渾身の一振り。脳天を深く傷つける一撃を食らわせた。これでどうだ!? そう思っていると、ドラゴンと目があった。しまった、まだ生きている。
ドラゴンは大きな口を開け、落ちていく私を食べようとした。まずい、食べられる!
「リル!」
その時、ヒルデさんの声が聞こえ体に衝撃が走った。ドラゴンに噛まれるはずの私の代わりに、なぜかヒルデさんが横腹を噛まれていた。
第四巻の予約開始と合わせまして、カバーイラストが見れるリンクを活動報告に載せさせていただきました。
とても可愛いイラストになってますので、見て頂けると幸いです。




