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【書籍化、コミカライズ】転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!  作者: 鳥助
第五章 冒険者ランクC

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291.スタンピード(14)

 四本腕のオーガを倒すと、周りにいた冒険者が沸き立った。


「よくやったぞ、嬢ちゃん!」

「よし、よーし!」

「やりやがったな!」


 わっ、と集まってくると揉みくちゃにされた。そんなに頭を強く撫でないで……


「よくやったぞ、リル! お前は領主クエストの時から本当に持っているな!」


 ラミードさんもその輪に加わって、ぐわんぐわんと頭が揺れるほどに撫でられる。しばらく揉みくちゃにされると、ようやく解放してくれた。


「一瞬の身体超化に奴はついてこれなかったみたいだ。いいタイミングで身体超化をしたな、リル」


 ヒルデさんは頭をポンポンと軽く叩いて褒めてくれた。なんだかホッとするやりとりで癒されてしまった。すると、ラミードさんがこの場を取り仕切る。


「よし、ボスも倒したことだし、次は残ったオーガたちを倒すぞ。俺たちはまずはハイオーガの討伐をして、その後に普通のオーガを討伐だ」

「そうだな、ハイオーガと戦えない奴らもいるからそれがいい」

「じゃあ、ハイオーガを討伐しますか」


 ラミードさんの言葉を受けて、冒険者たちがそれぞれ動き出す。バラバラに動き出してハイオーガに向かっていくと、この場に残ったのはラミードさんとヒルデさんと私だけになった。


 すると、ラミードさんがヒルデさんに話しかけた。


「あんた、強いんだな。そんなに強けりゃ顔を知っているはずなんだが……」

「普段は大人しく暮しているだけだからな」

「そうなのか。そんだけ強ければ、名を上げることだってできるのにな。まぁ、ここで言っても仕方ないか。じゃあ、お前らももうひと踏ん張り頑張れよ」


 そう言ってラミードさんはハイオーガに向かっていった。


「なんだかヒルデさんが認められたみたいで嬉しいです」

「これでも王都では有名だったんだがな。ここじゃあ、無名同然なのは仕方がないことだ」


 ヒルデさんはコーバスでは日銭を稼ぐくらいしか動いていなかったので、実力を知る人はほとんどいない。だから、今回のスタンピードで大々的にその実力を示すことができたみたい。もっと、ヒルデさんの実力を知って欲しいと思う。


「よし、私たちもハイオーガの討伐に行くぞ。私は足が疲れたから、ここはリルが頑張ってくれ」

「そんなこと言ってもダメですよ。しっかり働いてください」

「動くようになったらこれだ。弟子は厳しいな」


 そう言いながらもヒルデさんは進んでくれた。私はヒルデさんと一緒にハイオーガの討伐を再開する。まだオーガたちは沢山いる、これを終わらせないといけない。気合を入れ直した私はヒルデさんと駆け出していった。


 ◇


 四本腕のオーガを倒すと、オーガたちは統率が取れなくなった。その隙を突き、冒険者たちはオーガに攻勢を仕掛ける。そのお陰で押され気味だった戦線を維持することができ、オーガをせん滅することができた。


 第五波のオーガの群れのせん滅、これを成し遂げた時冒険者たちから歓声が上がった。厳しい戦いを勝ち抜いた喜びが爆発して、誰もが声を上げて喜んだ。


 だが、これは最後の戦いではない。喜ぶ冒険者に対して、ギルド職員は厳しい現実を突きつける。


「山頂付近の魔物がこれからくるでしょう。みなさん、次がまだあります。準備をしてください」


 その言葉を聞き、冒険者たちは喜ぶのを止めた。そして、黙って戦線を下げて戦場を整えると、つかの間の休息を取る。次で最後だと誰もが期待をしていた。


「山頂付近にはどんな魔物がいるんですか?」

「色んな魔物がいるが、今回の目玉は新しく出現したトカゲ系の魔物だろう」


 休みながら魔物のことを聞くと、ハリスさんが答えてくれる。


「体長二メートルの二足歩行で走るトカゲらしい。名前は……確かラプトルと言ったかな。鋭い牙と爪、強靭な尻尾で攻撃してくるタイプらしい。ランクはBランクだ」


 その話を聞いて一番に思い浮かんだのは恐竜だ。私たちよりも大きな体をした恐竜と戦うことになる、そう考えるとしっくりきた。


「次の相手はラプトルというトカゲの魔物なんですね」

「……いや、もう一つ山頂にいる存在がいるだろう」


 サラさんが神妙な顔をしていった。もう一つ、山頂に絶対的な存在がいる。その存在を思い出して、みなが神妙な顔をした。すると、ヒルデさんがそれを口にする。


「ドラゴンか……」


 その名を聞くだけで場が重苦しくなる。


「ドラゴンなんて、私たちには無理だわ。それにラプトルとかいった魔物と戦うのも……」

「俺もだ、とてもじゃないが相手にできない」

「今回も後方にいることしかできないだろうな」


 隣の冒険者たちが口を揃えて戦えないと言った。無理に戦って命を落とすよりはいいが、スタンピードに参加したのだから勝手な逃亡は許されない。だから、後方で漏れ出た魔物と戦う程度しかできないのだろう。


「俺たちはどうする? ラプトルとは戦えるが、ドラゴンとなると……」

「先ほどのハイオーガでなんとかギリギリ戦えたが、ドラゴンはAランクだ。とてもじゃないが、戦える相手ではない」


 ハリスさんとサラさんは口を揃えて戦えないと言った。それだけ、Aランクの魔物は強いということだ。一人では簡単には倒せないから、他の冒険者と協力して倒すことになるだろう。そうなったとしても、戦いたいと思える相手じゃない。


「ハイオーガと戦えるのなら、ドラゴンとも戦えると思うぞ。一人で戦う訳じゃない、ここにいる冒険者たちが協力して戦えばなんとかなるもんだ」


 そんな中、ヒルデさんはドラゴンと積極的に戦うべきだと言った。


「それに、リルはAランクのゴーレムと戦って勝ったことがある。Aランクの魔物だとしても、やりようはある。だから、戦うことに前向きになってもいいんじゃないか?」

「やりようか……俺の弓矢がどこまで通じるか分からんが」

「私の剣は通じるのだろうか」


 ハリスさんとサラさんはヒルデさんの言葉を受けても、戦えるイメージが沸かなかったみたいだ。いきなりAランクの魔物と戦うこと考えるなんて無理な話だろう。私の場合は必要に迫られて、そうなってしまったけれど。


「リルはどう思う? 自分はドラゴンと戦えるか?」

「私は……」


 巨大なドラゴンと戦える? そう思った時、身震いがした。どれだけ巨大か分からない、どんな攻撃を仕掛けてくるのか分からない。分からないだらけのAランクの魔物のことを考えると恐怖した。


 だけど、ゴーレムの時はそんなことを考えている暇はなかった。やるかやられるか、その選択肢を迫られてやる選択をしただけだ。初めて戦うAランクの魔物だったけど、なんとか倒すことができた。それを思い出すと、やれるような気がしてくる。


「現れたら戦うと思います。逃げないで立ち向かって、ドラゴンを倒します。そうじゃなきゃ、このスタンピードは終わりません」


 このスタンピードが終わらなければ、平和は訪れない。町には大勢の人がいて、スタンピードが終わることを祈っているはずだ。その人たちのためにも、ここで逃げるのはかっこわるい。


「私はスタンピードを止めるために来ました。だから、その為の努力は惜しみません」


 どれだけのことができるか分からないけれど、諦めたら何も解決しない。だったら、私は戦うことを選択する。


 真剣な表情でいうと、ヒルデさんが笑った。


「いい覚悟だ、流石はリルだな。そんなリルだから、私はここまでくることができた。リルが引っ張ってくれたお陰だ」


 私の言葉にそんな力があるなんて思わなかったけど、それがヒルデさんのためになってよかった。すると、他の人たちも笑顔になる。


「リルにそんなことを言われたら、熱くなるじゃないか」

「そうだよな、俺たちはスタンピードを止めに来たんだ」


 サラさんとハリスさんの目に力が籠った気がした。


「そんなこと言われちゃったら、引き下がれないじゃないの……バカ」

「俺たちもできることをしよう」

「あぁ、スタンピードを止めるんだ!」


 隣にいた冒険者たちは力強い言葉を口にした。私の言葉でこんなにも前向きになってくれる人がいる、本当に驚きだ。でも、一緒に戦うことを決めてくれて本当に良かったと思う。


 その時、声が聞こえた。


「第六波が来たぞ!」


 最後の戦いが始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴーレム相手に戦えたのならドラゴンとも戦えるって言っていますが、それは単体での事でドラゴンがダースとかグロス単位で同時に出てきた場合ってどうするか考えているのでしょうか?それともAランクはス…
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