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【書籍化、コミカライズ】転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!  作者: 鳥助
第五章 冒険者ランクC

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290.スタンピード(13)

「あれは……初めてみるオーガの特別な個体だ」


 雄たけびを上げる四本腕のオーガを見たヒルデさんはそう言った。


「じゃあ、今までにない例ということなんですね」

「そうだな。だから、どんなことをしてくるかは分からない」

「あれを倒さないといけないんですね」


 何をしてくるか分からないオーガを倒さないといけない、ハードルが高すぎるんじゃないか? そう思っていると、ヒルデさんが薄く笑った。


「なんだ、怖いのか? 勇猛果敢にスタンピードに挑んでいたリルが」

「それとこれとは話が別ですよ」

「ふふっ、そうか」


 これは信じていない顔をしている。私だって怖気づくことがあるんだから。


「おお、もうあのオーガに向かっている冒険者がいるな。あれを倒せば、状況が好転すると思っているんだろう」

「あれと同じ個体は他にはいないようですし、あれがこの群れのボスということになりますからね」

「リルはどうする? ハイオーガを討伐を続けるか、それともあのボスを倒しに行くかだ」


 どれだけ強いか分からないけれど、ここは他の冒険者と協力して倒しに行ったほうがいいだろう。怖いけど、ここは勇気を出す。


「行きましょう。あれを倒せば、きっと状況は良くなります」

「その意気だ」

「ヒルデさんはどうするんですか?」

「リルと一緒に行こう。そのほうが怖くないしな」

「無理してませんか?」

「リルがいるから大丈夫だ」


 私は安定剤か何かなんだろうか? でも、それがヒルデさんにとっていい結果を生むのであれば、私は何も言わない。


「あそこに辿り着くまで、ハイオーガが二体いますね」

「まずはそいつを倒そう」


 そういったヒルデさんは先に動き出した。その後を身体強化をして追う。片足が棒でできているヒルデさんの歩みはそんなに速くない。すぐに追いつき並走した。


「先に行ってもいいぞ」

「なら、一体目は私がいただきます」


 ヒルデさんを追い越して、目の前にいるハイオーガに向かっていく。近づいていくとハイオーガはこちらに気づき、手を前に構えて魔法を放ってくる。尖った石が飛んでくるが、軌道が読みやすいため簡単に避けていく。


 そして、私からも魔法をお見舞いする。手を前に構え、雷魔法を放つ。雷は一瞬でハイオーガに辿り着き、ハイオーガは感電して激しく震え出した。その隙に距離を縮めて、大きくジャンプをする。


「はぁぁっ!」


 感電して体を震わすオーガの首目掛けて剣を振るった。防御もできないオーガは簡単に首を刎ねられ、一瞬で絶命した。そのハイオーガを倒しているウチにヒルデさんが私を追い抜き、その先にいたハイオーガを標的にした。


 そのハイオーガはヒルデさんに向かって尖った石を放つが、最小限の動きで全てを避け切る。それを見たオーガはすぐに武器に持ち替えて、近づくヒルデさんに向かって武器を振り下ろした。


 その瞬間、武器を持っていた腕が切り落とされる。ハイオーガがそれに気づくと同時にヒルデさんはその首を刎ねた。流れるような動きで簡単にハイオーガを仕留める姿を見ると、この人はAランクの特別な冒険者なんだなと改めて思った。


「ほら、置いていくぞ」

「待ってください」


 ヒルデさんを追って走った。そして四本腕のオーガを目前にし、その威圧感を感じた。二本の腕で剣を持ち、二本の腕で魔法を操っている……明らかに異質な雰囲気だ。


 その四本腕のオーガに対して、冒険者たちは苦戦を強いられているみたいだった。


「リル、魔法を放ってみろ」

「はい」


 手を前に構えると、特大の火球を作り放った。真っすぐに飛んでいき直撃する、というところで四本腕のオーガはこちらを見ずに同じ火球を放った。そして、火球同士がぶつかり消滅する。


「しっかりと周りは見えているみたいだな」

「どうします?」

「二人同時に身体強化で攪乱しながら、首を刎ねる」

「分かりました」


 今できる最大の身体強化をして、私たちは四本腕のオーガに向かっていった。素早い速度で距離を詰め、まずは足に向かって剣を振るう。だが、動きを見極められて避けられてしまった。


 避けたと同時にヒルデさんは首を狙う。目にも止まらない速さの一撃だったのに、それは武器によって防がれてしまった。良く見えていて、良く動けるみたいだ。


「リル、止まらず動き続けるんだ!」

「はい!」


 ヒルデさんの言葉通りに私は動き続けた。胴体を狙い、手首を狙い、腕を狙う。だけど、どれも防がれたり、避けられたりして一撃を加えられずにいた。ヒルデさんの攻撃も同じように一撃も加えられない。


 激しい剣戟が繰り返される中、どうにか突破口を見つけようと頭を働かせる。武器がダメなら今度は魔法だ。四本腕のオーガの周囲を動き回り、手を向けて雷魔法を放った。


「グッ!」


 一瞬、体の動きが止まった、チャンスだ。首を狙って剣を振りにいったが、感電しているのにも拘わらず四本腕のオーガはその一撃を武器で受け止めた。同時に一撃を食らわせようとしたヒルデさんの一撃もだ。


 そこで私たちは一旦距離を取った。


「強いな」

「はい」


 同時に身体強化をして攻撃を与えたのに、四本腕のオーガは全てを防いでみせた。まだ、手数が足りないのか? そう思っていると、先に戦っていた冒険者たちが近づいてきた。よく見ると、そこにラミードさんがいた。


「よお、リルか」

「ラミードさんもいたんですね」

「あぁ、奴は強いだろう」

「はい。でも戦えます」

「だな、お前たちの動きを見てそう思った。ということで、ここは協力して戦おう。一斉に攻撃を開始するんだ」


 四本腕のオーガが対応できなくなるくらいの攻撃を繰り出す、それが手っ取り早いだろう。その提案にその場にいた人たちは頷いた。


「よし、ならもう一度行くぞ」

「はい」


 ヒルデさんが再び駆け出していくと、私がそれを追い、その後ろから他の冒険者が行く。再びやってきた私たちを見て四本腕のオーガは雄たけびを上げて、迎え撃つ。


 数人で四本腕のオーガと戦うと、オーガの手数が足りなくなった。一撃、二撃とこちらの攻撃が体に当たるようになる。だが、その傷は負った瞬間からどんどん癒えていく。


「ダメだ、傷が癒えていくぞ!」

「切り落とさないと、攻撃が無駄になる!」

「切り落とし以外は無効だ!」


 体を切り落とすには深く入り込まないと武器が届かない。だが、それを許すほど四本腕のオーガは優しくない。誰もが決め手となる一撃を加えられないまま、時間だけが過ぎていった。


「このままじゃ、埒が明かない! もっと踏み込んで攻撃しろ!」


 ラミードさんが叫んだ。そうだ、そうしないとこの四本腕のオーガは倒せない。みんな覚悟を決めたように、攻撃スタイルを変えていった。


「ぐあっ!」


 深く踏み込むと、四本腕のオーガの一撃が冒険者に入り吹き飛ばされた。


「人数が減るのはまずい!」

「こいつの攻撃を受けるな!」

「くそっ!」


 手数が減るのはまずい。だが、深く入り込まないと体を切り落とせない。この状況を変えるのは、身体超化しかない。


「リル、あれを使え!」

「私もそう思ってました!」

「なら、一撃でこいつの首を刎ねてやれ!」


 私は魔力を高めて膜を二重に作った、身体超化だ。攻撃する隙を窺い、その時を待った。今だ! 私は全力で飛び出していき、四本腕のオーガの首を狙った。


 目にもとまらぬ早業で深く入り込み、剣を振る。そして、振り切った瞬間、四本腕のオーガの首が宙を舞った。取った!


 宙を飛んだ首は地面の上へと転がり、四本腕のオーガの体は後ろ向きに倒れていった。


「倒しました!」


 その瞬間、一緒に戦っていたみんなが一斉に沸いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] リルとヒルデさんの二人で決めちゃってハリスとサラの意見はどうなのでしょう?と言うか二人とも喋っていませんが付いてきているのでしょうか? とりあえず四本腕討伐おめでとうございます。
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