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【書籍化、コミカライズ】転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!  作者: 鳥助
第五章 冒険者ランクC

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289.スタンピード(12)

「くそっ、ハイオーガだ!」

「こんな時に!」

「対応できるわけないだろう!」


 冒険者たちから悲鳴のような声が上がった。大量のオーガに加えて、特別な個体であるハイオーガが現れたせいだ。オーガで手一杯だったのに、ハイオーガの登場は望んでいない展開だ。


 その現れたハイオーガたちは手を前に構え、魔力を高めだした。まずい、魔法が来る。


「魔法が来ます、後ろに下がってください!」


 声を張り上げて注意を促すと、急いで魔法の壁を作り出した。すると、ハイオーガから魔法が放たれた。尖った石を何個も射出して攻撃を始めた。冒険者たちはその石から逃れようと必死に走っている。


 私はその攻撃を魔法の壁で防いでみせた。今の魔法攻撃で最前線にいた冒険者たちは後ろに下がるしかなく、オーガによって戦線が押し上げられてしまう。


 ハイオーガは休むことなく、次の魔法を準備した。空中に浮かぶ尖った尖った石、それを見ていた冒険者たちは戦慄する。そして、再び射出されると冒険者たちは逃げ惑った。


 中には魔法で対抗しようとしている冒険者もいて、あちこちから魔法を唱える声が聞こえた。私はもっぱら魔法の壁でハイオーガの魔法を弾き飛ばしている。


 その魔法の壁の後ろにはハリスさん、サラさん、隣の冒険者たちがいた。


「ハイオーガの魔法が厄介だな。このまま防いでいても状況は好転しない」

「なら、前に出て倒すか? この魔法の中、それも危ないんじゃないか?」

「私たちにはハイオーガは無理だわ。後ろに下がって、ハイオーガが倒れるのを待つしかない」

「それしか、俺たちの道はないな」

「オーガで手一杯だったのに、ハイオーガなんて……」


 色々と話はしているが、分かるのはこのままではいけないことだ。この状況を好転させるには、ハイオーガを倒して魔法の連射を止めさせること。でも、それをするにはこの魔法の雨の中を出ていかないといけない。


 私たちは魔法の壁にこもっている時、ヒルデさんは一人で魔法の雨を掻い潜っていた。まるでハイオーガを目指しているかのような歩みを見て驚いた。あんなにスタンピードが怖いと言っていたのに、ヒルデさんは危険を冒している。


 本当に大丈夫なのか? と心配しながら見守っていると、とうとうヒルデさんはハイオーガの前に辿り着いた。そのハイオーガと武器で打ち合いを始めた。ハイオーガが優勢のように見えたが、ヒルデさんの素早い剣裁きにハイオーガが押される。


 そして、一瞬の隙を付き、ハイオーガの頭を切り落とした。


「すごい、あのハイオーガを簡単に倒したぞ」

「あの人は何者なんだ」


 ハリスさんとサラさんは驚いて目を丸くした。そう、あのハイオーガは倒せる。ヒルデさんみたいに簡単には倒せないとは思うけれど、倒せないということはない。


「私たちもハイオーガを倒しましょう」

「それしかないか」

「覚悟を決めないとな」


 このままここにいたんじゃ、状況は好転しない。


「申し訳ないけど、私たちは下がるわ」

「ハイオーガと戦える力はない」

「あとは頼んだぞ」


 隣にいた冒険者たちは後ろに下がることを決めた。無理に戦って大けがを負うよりはいいと思う、私たちは頷いた。


「私たちはハイオーガを目指しましょう」

「なら、その間にいるオーガはとりあえずは放置だな」

「私は一直線にハイオーガとの距離を詰める」

「じゃあ、魔法の壁を解きますので、すぐに動いてください。三、二、一……」


 パッと魔法の壁を消すと、それぞれが動き出す。隣にいた冒険者たちは後ろへと下がり、残った私たちはハイオーガを目指して駆け出した。私は身体強化をしてハイオーガを目指す。


 オーガとハイオーガはこの機を逃すまいと、魔法を連射してきた。火の魔法と土の魔法の乱れうちが冒険者を襲う。その中を進むのはとても怖いが、そうでもしなきゃ距離は縮まらない。


 オーガがいる場所を越え、後方にいるハイオーガを目指す。するとハイオーガがこちらの存在に気づき、手をかざしてきた。いくつかの尖った石を生成すると、それを放ってくる。


 一直線に飛んでくる魔法の軌道は読みやすい。飛んでくる尖った石を避けつつハイオーガとの距離を詰めた。すると、ハイオーガは武器の剣を片手に襲い掛かってくる。


 素早い身のこなしで剣を振るってきた。その剣裁きは乱暴で複雑な動きをしている。その攻撃を剣で受け流し、避け、攻撃するチャンスを伺う。


 その時、弓矢が飛んできてハイオーガの顔面でつけていた袋が破裂した。破裂した中から出てきたのはトリモチ、ハイオーガの顔面がトリモチで埋め尽くされた。


「ガァッ!? グギャァッ!」


 目の前が見えなくなったハイオーガは乱暴に剣を振った。視界が奪われた今がチャンス。私は高くジャンプをすると、宙がえりをしてハイオーガの背後に回る。そして、落ちる瞬間にハイオーガの首を切り落とした。


「よし、まずは一体!」


 ハリスさんの援護のお陰でなんとか無傷でハイオーガを倒すことができた。だけど、これで止まるわけにはいかない。すぐに顔をあげて、次のハイオーガを探す。


 すると五十メートル先に魔法を放っているハイオーガを見つけることができた。身体強化をしたまま猛ダッシュをして、距離を詰める。だが、すぐに気づかれてしまった。ハイオーガがこちらに向けて魔法を放ってくる。


 真っすぐ飛んでくる尖った石を避けつつ、距離を詰めた。前に向けて伸ばしていた手に渾身の一撃を叩きこみ、腕を切り落とす。


「グギャァッ!」


 一瞬で腕を切り落とされたハイオーガは怒りの形相で、ハンマーを振り下ろしてきた。それを後ろにジャンプして避ける。だが、ハイオーガはそれだけでは止まらない。ハンマーを乱暴に振ってきた。


 掠っただけでも重傷になる一撃をなんとかかわす。どうやって、首を落とそうか……そう思っていると付与魔法つきの弓矢が飛んできた。威力のある弓矢はハンマーを持つ腕に大きな穴を開ける。その衝撃でハイオーガはハンマーを落とした。


 今がチャンスだ。高くジャンプをして、ハイオーガの首を刎ねる。スパッと切れたハイオーガの頭は地面に転がり、そのハイオーガは絶命した。これで二体目だ。


 次のハイオーガを探していると、見つけたハイオーガの首が何者かに刎ねられた光景を見た。他にも一緒に戦ってくれる人がいる。心強く思っていると、その人が倒れたハイオーガの向こう側に見えた、ヒルデさんだ。


「ヒルデさん!」


 嬉しくなった私は駆けつけた。


「リルもハイオーガ狩りに加わったか、心強いぞ」

「怖くないんですか?」

「リルが近くにいてくれると落ち着いてくれる。一人で戦っている訳じゃない、ということを知っているのが大きいと思う」


 私がいるお陰でスタンピードの恐怖を乗り越えたということ? 以前は一人で戦って負傷したから、誰かが一緒に戦うことで孤独の恐怖が消えたのかもしれない。ヒルデさんの恐怖がなくなるんなら、傍で戦うのもいいかも。


「思う通りに体が動くんだ。不思議だな、誰かと一緒に戦うことがこんなにも力をくれるなんてな」

「そうですよ、一人で戦うよりも誰かと一緒に戦うと凄い力が発揮できるんです」

「一人で戦っていた時とは大違いだ。初めからこうすれば良かったんだな」


 良かった、一緒に戦うことで恐怖が消えたんだ。もう怯えたヒルデさんはいない、ここにいるのは前向きにスタンピードに立ち向かう冒険者だ。


「よし、私たちはハイオーガを討伐していくぞ。そうすれば、ハイオーガと戦えない冒険者は普通のオーガと存分に戦うことができるだろう」

「はい。他の人もハイオーガと戦っているみたいですし、なんとか討伐できそうですね」


 手ごわいハイオーガを倒していけば、力の足りない冒険者はオーガとの戦いに集中できる。今はできることをしよう、そう思った時。


「グギャーーッ!」


 ひときわ大きな雄たけびが聞こえて、その方向を見た。すると、そこにいたのはあの時みた四本腕の特殊なオーガだった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  マズイマズイマズイマズイ……!! >「思う通りに体が動くんだ。不思議だな、誰かと一緒に戦うことがこんなにも力をくれるなんてな」  こんなの超強い先輩が言うなんて、盛大なフラグじゃないで…
[一言] 最初は魔法の壁に籠もっていたと思ったらヒルデさんの活躍を見て一緒にハイオーガを倒そうとするとかリルの判断が揺れに揺れて行き当たりばったりすぎて不安になりますね。
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