283.スタンピード(6)
オークジェネラルの列が乱れたところにやってきたのは二体のハイオーク。普通のオークの倍はある身長をしており、巨体だ。そのハイオークの目がギョロギョロと動き、私たちを捉えた。
「ブモォォッ!」
まるで標的を見つけたとばかりにいきり立つ。棍棒を構えると、こちらに向かって駆け出してきた。
「危ない、避けろ!」
ハリスさんの声が上がった。真っすぐ突進してくるハイオークの軌道は読みやすい。引き付けてから、横にジャンプして突進をかわした。
「相手は巨漢だ、どう対応する?」
「並の攻撃じゃきかないだろう。倒すには強い一撃が必要だ」
「その前に動きを止めたいです。あの巨体で動かれると、かなり危ないです」
ハイオークが現れ、周りの冒険者たちが騒ぎ始める。だけど、他のところはオークジェネラルの対応で手一杯なので、ハイオークとは向き合えない。
「こっちにきた!」
「なんで、私たちを狙うのっ!?」
「いいから、避けろ!」
もう一体のハイオークはアドバイスをした冒険者たちのところへと向かっていった。なんとか攻撃を避けたみたいだけど、場は混乱した。
「ブモォォッ!」
私たちに突進をしかけたハイオークがまたこっちを目掛けて駆け出してくる。今度は足が遅いが、棍棒を振りかざしていた。私たち目掛けて棍棒を振る、その攻撃を受けまいと再度私たちは避ける。
それなりに素早い攻撃をしてきて、一撃はとても重い。体は肉厚で並の攻撃なら急所に届かなさそうだ。さて、これをどう倒したらいいか考えないと。
「まずはみんなで一か所に集中攻撃をしましょう」
「どこに攻撃をする?」
「足がいいです。右足にしましょう」
「分かった右足だな」
「足を攻撃して、相手の動きを封じるんです」
「了解した!」
狙うのはハイオークの右足。私たちはバラバラに別れて、ハイオークを取り囲む。
「ブモォッ!?」
取り囲まれたハイオークは誰に攻撃していいか悩んだ。その隙に攻撃を開始する。
「まずは目くらましだ!」
ハリスさんが煙幕の小道具がついた矢を放った。矢はハイオークの顔面付近で爆発し、白い煙がハイオークの視界を遮る。いきなり視界を遮られたハイオークは戸惑い、棍棒を乱暴に振るった。
「今です!」
次に私が手を構える。太い氷の刃を二本作ると、暴れるハイオークの右足に向けて放った。勢いよく飛び出していった氷の刃に気づかないハイオーク、氷の刃は右足を貫いた。
「ここだぁ!」
その瞬間、サラさんが飛び出していく。煙幕で視界を奪われたハイオークはサラさんの存在に気づかず、乱暴に棍棒を振るだけ。その棍棒を掻い潜って、右足に飛び掛かった。
「うりゃぁっ!」
サラさんの剣が右足を縦に切り裂いた。右足に深い傷を負ったハイオークは巨体を支え切れず、その場に倒れ込んでしまう。今がチャンスだ!
「トドメだ!」
倒れたハイオークの隙をつくように頭を狙う。剣を振り下ろした時、それに気づいたハイオークがサラさんの剣を棍棒で受け止めた。
「任せろ!」
すぐにハリスさんが行動をした。風の付与魔法がついた矢を放ち、その矢はハイオークの右目を深く貫く。その一撃は頭の後ろまで届き、脳をやられたハイオークはその一撃で倒れた。
上手く連係が取れてハイオークを倒すことができた。離れていた私たちは一か所に集まる。
「ハリス、助かった」
「付与魔法が通って良かった。リルの作戦が上手くいったな」
「お二人の連係のお陰ですよ」
難敵を倒してホッとしていたが、隣の冒険者たちを襲っていたハイオークはまだ倒されていない。ここは助太刀をしたほうが良さそうだ。顔を見合わせた私たちは頷き合い、隣で暴れているハイオークに向かっていった。
◇
オークロードに指揮されたオークジェネラルとハイオークの集団。突如として現れたその集団にはじめは押されていたが、少しずつ戦い慣れてくると押し返しはじめた。
指揮を執れると言っても戦術めいたことはなく、ごり押しばかりだった。知恵は人間側にあるようで、例え相手が物量で押してきても、機転のお陰でなんとか戦線を守ることができた。
少しずつ数を減らしていくオークジェネラル。その隙間に入り込んでくるハイオーク。確実に数を減らしていくと、終わりが見えてきた。終わりが見え始めると、冒険者は功績をあげるためにオークロードを狙いに行く。
今、オークロードを守るように取り囲むハイオークとオークジェネラルの包囲網を突破しようとしていた。
「オークジェネラルは任せてください!」
前に出て、オークロードを守る壁となっているオークジェネラル。その壁に広範囲の火魔法をぶつけた。全身を燃やす炎を出すと、はじめは反応がなかった。だが、金属の鎧が熱せられると異変が現れる。
熱くなった金属の鎧の熱にオークジェネラルが悶え苦しみ始めた。炎から飛び出して地面の上で転がるが熱せられた金属の鎧の熱はそう簡単には無くならない。
そんな苦しみ悶えるオークジェネラルに向かってハリスさんやサラさん、近くで隙を窺っていた冒険者たちがトドメを刺しに飛び出す。鎧の隙間から剣を刺し入れると抵抗できないオークジェネラルは絶命して動かなくなった。
オークロードを守るオークジェネラルを倒すと、今度はハイオークが前に出てきた。数は五体、私たち三人だったら無理かもしれないけれど、今は他の冒険者たちも加勢してくれている。
一斉にハイオークとの戦いが始まった。
「私がハイオークを引き付ける!」
サラさんが突進してくるハイオークの前に仁王立ちする。そのサラさんにハイオークは向かっていき、棍棒を振り下ろした。サラさんはその棍棒を受け流すと、棍棒を持つ腕を切りつけた。
だが、その攻撃ではハイオークは棍棒を手放さなかった。すぐに体勢を整え、サラさんに向かって棍棒を振り回す。サラさんはその攻撃を何度も受け止めていた。
「右膝を狙うぞ!」
「はい!」
ハリスさんが付与魔法付きの矢を番え、放った。飛んでいった矢はハイオークの右膝を貫く。だけど、それだけでは不十分だ。なので、私が追撃をする。
太い氷の刃を生成すると、それを右膝に向けて放った。サラさんに夢中のハイオークはその攻撃を避けることができず、氷の刃は右膝に深く突き刺さる。
「ブモォォッ!」
堪らずにハイオークがしゃがみ込んだ。
「ここだ!」
ハイオークの正面にいたサラさんが飛び上がり、頭を狙う。しかし、ハイオークはその攻撃を棍棒で受け止めた。そして、しゃがみながらサラさんを棍棒で叩き出す。
「俺が煙幕をはる、リルはサラが引き付けている間にトドメを刺してくれ」
「分かりました」
ハリスさんは煙幕がついた矢を番えると、ハイオークの顔面に向かって放つ。顔面の前で煙幕は爆発し、白い煙が周囲を覆った。視界を奪われたハイオークは棍棒を乱暴に振り回し始める。
その隙に私は身体強化をしてハイオークとの距離を詰める。煙幕が少しずつ晴れてきて、ハイオークの頭が良く見えた。その頭を目掛けて、剣を振り下ろす。
「はあぁっ!」
無防備のハイオークの頭がかち割れた。短い悲鳴を上げて、ハイオークはその場に倒れた。
「ナイスだ、リル!」
サラさんの声が聞こえた。すぐに周囲を見渡し、状況を確認する。他のハイオークは冒険者たちが相手をしてくれている。オークロードを叩くなら今がチャンスだ。
「オークロードを狙いましょう!」
「もちろんだ!」
「分かった!」
私たちは奥にいるオークロードの下へと向かった。




