282.スタンピード(5)
オークとの戦いは長く続いた。戦線を維持できているところがほとんどで、なんとかオークとの戦いをこなせそうだった。でも、不思議なことに特別な個体はまだ出てきていない。
ビスモーク山では特別な個体がいることが確認されたからいるはずなのに。ゴブリンとは違う様子を受けて、なんか不気味な感じだった。もしそれが意図的にまだ出していないとしたら、そう考えると悪い方に考えが傾いてしまう。
「恐ろしいほど、特別な個体が出ませんね」
「あぁ、そうだな。もしかしたら、これからキツくなる可能性があるな」
魔法と矢を放ちながら、この不可解な状況について話した。もし、このまま出てこないで最後の方にまとめて出てくるのであれば、戦況は一変するだろう。オークとの戦いで疲れた後の特別な個体との戦闘はきっと苦戦するに違いない。
そう思っていた時、突如としてオークの波がなくなった。
「えっ、オークがいなくなりました」
「どういうことだ?」
サラさんが目の前で残ったオークを叩き切ると、私たちの前にはオークはいなくなった。これで第二波が終わったというのだろうか? そう思っていた時、奥の方から金属音が聞こえてきた。
大きな影が揺らめく、何かが近づいてきているように見えた。目を凝らして見てみると、それは鎧だった。
「あれは……オークジェネラルだ。どうやら、予感は当たったみたいだな」
「あれがオークの特別な個体……」
規則正しく進んでくるのはオークの特別な個体、オークジェネラルだ。全身を金属の鎧で包み込み、手には金属の武器を持っている。まるで人間の騎士のような恰好をしていた。
すると、前で戦っていたサラさんが後ろへと下がってくる。
「あれはオークジェネラルか?」
「そうだ、特別な個体だ」
「姿を見なかったからどうしたのかと思ったら、オークの後ろにいたとは」
「ゴブリンの時とは違いますね。もしかして、指揮を執っているオークロードがいるんじゃないですか?」
「その可能性はあるな。気を付けろ、今まで通りとはいかないぞ」
全身を金属の鎧で覆われているオーク、今までの攻撃は通じないかもしれない。試しに一体に向けて、雷を放ってみた。すると、感電して震えた。効いている? と思っていたら、そのオークは倒れなかった。
「オークジェネラルを倒すのであれば、もっと強い雷魔法が必要そうですね。でも、それだと魔力切れを起こしてしまいそうです」
「何か他に手はないか考えよう」
「なら、リルも近接に変えるか?」
近接攻撃に切り替えることもできるだろう。でも、それだとせん滅力が落ちてしまう。だから、まだ魔法を使っておきたい。何か良い手はあるだろうか?
金属に包まれているから、風魔法や爆発はあまり攻撃が通らない。大きな氷で突き刺す、という手もあるけれどそれだと使用する魔力が高くなってしまう。金属だからこそ通る魔法は……そうだ、火だ!
金属を火で炙ってしまえば、熱くなって悶えるはずだ。その悶えたところにトドメを刺して貰えば……うん、いける。
「いい案が思いつきました。隣にいる冒険者さん、ちょっとお話があります」
先ほどの冒険者に声をかけると、その冒険者たちは駆け寄ってくれた。
「なんだ、どうした?」
「沢山のオークジェネラルを倒す、いい案があります。そちらの魔法使いさんは火魔法が使えるんですよね」
「はい、得意の魔法です」
「良かったです。あの金属の鎧は攻撃はあまり通しませんが、熱は通してくれます。だから、火で炙って金属の温度を上げるんです。そしたら、中にいるオークも堪ったもんじゃないでしょう……きっと身悶えするはずです」
「そうか、その隙にトドメを刺せばいいんだな」
「はい。この方法を試してみませんか?」
みんなの顔を見ると、頷いてくれる。
「いい案だ、それでいこう!」
「私、頑張ります!」
「じゃあ、お互いに健闘を祈る!」
私たちは散り散りになると、オークジェネラルと向き合った。こうして見ると驚異的だが、対策方法が見つかるとそうではなくなる。
「では、いきます!」
手を前に構えると、魔力を高めて火魔法を発動させた。辺り一面に炎を撒き散らかすと、オークジェネラルがあっという間に炎に包まれる。はじめは何も反応を示さなかったが、数分した後に態度が一変する。
苦しそうに身悶えを始め、暴れ始めたのだ。暴れたオークジェネラルは苦しそうに身悶えると、炎から逃げるように前へと走ってくる。だが、思ったように走れなかったのか地面の上に倒れた。
倒れたオークジェネラルはそのまま身悶えをする。ここがチャンスだ!
「よし、行くぞ!」
「これなら、俺でも近接で倒せる!」
サラさんとハリスさんが飛び出した。地面の上でジタバタと身悶えるオークジェネラルは突然来た二人に対処できない。その隙を狙い、二人は兜の隙間から剣を刺し入れた。
急所に一撃を貰ったオークジェネラルは断末魔を上げ、絶命した。うん、これなら簡単に特別な個体を倒すことができる。この調子でオークジェネラルを炙って、身悶えをさせよう。
複雑な魔法ではなく単純な魔法だから、魔力消費は抑えられている。辺りを炎で包んだとしても、魔力はそれほど消費していない。この調子なら、魔力切れを起こさずに済むかもしれない。
隣を見てみると、先ほどの冒険者たちも順調にオークジェネラルを倒しているみたいだった。魔法使いの人がオークジェネラルを炎で炙り、熱さで身悶えしているところを剣士と槍使いがトドメを刺す。
いい感じに連係をとれていて、戦線も維持できている。この調子でオークジェネラルを駆逐できれば……そう思っていた。だから、オークジェネラルの奥から、ひときわ大きな魔物が来た時は驚いた。
「気を付けてください! オークジェネラルの奥から何か来ます!」
声をかけると、二人は顔を上げた。
「あれは……ハイオークだ!」
「あれが、ハイオーク……!」
オークの二倍近い身長をした巨大なハイオークが姿を現した。普通のオークよりも凶悪な顔をして、手には大きな棍棒を持っている。体の肉も厚く、生半可な攻撃は効かなそうだ。
そのハイオークたちはオークジェネラルの層が薄くなった私たちのところへなだれ込んでくる。まるで、誰かの指示を受けているかのようだ。
そのハイオークの後ろにオークより大きく、ハイオークよりも小さい存在がいた。立派な牙と角を生やし、鎧とマントを着た他には見ないオークの姿だ。
「オークロードもいるな。どうやら、奴が指示を出しているみたいだ」
「だから、特別な個体が固まって動いていたんですね」
「やっかいな指揮をするな。後半に強い奴らが固まったお陰で、疲れた体で戦わないといけない」
オークロードがいたから、後方に特別な個体が配置されていたみたいだ。お陰でオークとの戦いで疲れた私たちは、その状態でオークよりも強い特別な個体と戦わなくてはいけなくなる。
二体のハイオークが私たちの前に出てきた。相手はオークの倍はある身長をしていて、肉厚だ。どんな攻撃が通じるのだろうか?




