281.スタンピード(4)
群れを成してオークが迫ってくる。ゴブリンの時とは違い、圧が増していた。それもそうだ、ゴブリンの数倍は大きな巨体をしているのだから。
目に見えるのは普通のオークばかりで、特別な個体はまだ見当たらない。それでも、数の多さで圧倒されそうだ。
地面を埋め尽くすほどのオークを目の当たりにして、緊張感が漂う。ゴブリンの時には余裕の雰囲気だったが、今はその余裕がないように感じる。Cランク以上の魔物だからだろう、気を抜けばこちらがやられてしまう。
魔法使いたちが前に出て、魔法を放つ準備をする。私も前に出て、手を前にかざした。まず、試す魔法は雷だ。感電死させるためには、一体どれくらいの魔力が必要なのか確認しなければ。
どんどん距離を詰めてくるオーク。顔が確認できるほど近づくと、冒険者たちは一斉に魔法を放ち始めた。あちこちで詠唱する声が聞こえ、次々と魔法を放っていく。
私も魔力を高めて、雷魔法を発動させた。
「くらえっ!」
手からほとばしる雷は真っすぐにオークに向かっていった。数秒で雷がオークに触れると、数体が感電した。体を震わせてその場で立ちすくむオーク。しばらく、身動きが取れなかったオークだが、その体がふらつき、地面の上に倒れた。
「動く気配はないな。どうやら、その威力でオークを倒したみたいだ」
「これくらいの威力……これでやってみます」
「頼んだぞ。抜けてきたオークは私たちで倒す。リルは手あたり次第にオークを倒していけ」
ちょっと強めの雷魔法でオークは倒れてくれた。ゴブリンの時よりも少し魔力を使ってしまうけれど、魔物が強くなっているから仕方がない。変に力を弱めて倒せなかった方が大変だ。
「それじゃあ、ガンガン放っていきます。お二人とも、後のことはお願いします」
「任せておけ」
「やってやるぞ」
私は手を前に構え、雷魔法を放つ。ほとばしった雷は数体のオークに当たり、感電する。体を震わせると、フッと体の力が抜けて地面に倒れた。
一瞬で数体を倒しただけでは、まだ足りない。オークたちは無数にいて、徐々に距離が縮まっていく。そうはさせまいと、ハリスさんが矢を番えた。
「俺の矢を喰らえ!」
付与魔法つきの矢が放たれた。前に出てきたオークの頭部が吹き飛ばされて、その場に倒れる。いつもよりも威力が弱いのは、数を倒すために威力を抑えているのだろう。次々と矢を射るとオークの死体が量産されていく。
私の雷魔法とハリスさんの付与魔法つきの矢、それでオークを倒しても抜けてくるオークはいる。それをサラさんが対処する。
「よし、行くぞ!」
前に出てきたオークに向かっていき、剣を振るった。オークの振るった武器とぶつかると、力の差でオークの武器が飛ばされる。
「くらえっ!」
手ぶらになったオークの懐に飛び込んで剣を振るった。その重い一撃でオークは絶命して、地面の上に倒れる。
「二人はこのまま奥にいるオークを討伐してくれ。私が二人を守る、安心してくれ」
サラさんが私たちの前に立ちはだかり、守ってくれる。これで安心して後方から攻撃ができるね。
「任せたぞ、俺たちは奥のオークの数を減らす」
「魔法に集中できます。任せました」
「あぁ、任せろ!」
私は手を構えて魔法を打つ準備をすると、ハリスさんは矢を番える。前ではサラさんが仁王立ちしてくれる、頼もしい後姿を見てやる気が漲ってくる。
オークとの戦いは始まったばかりだ。
◇
オークとの戦いはゴブリンの時より厳しい戦いになった。肉が厚いせいで攻撃が通り辛いのが理由だ。ゴブリンの時よりも戦線が後ろに下がっているような気がする。
ここにきて、場所によって押されているところとそうでないところが出てきた。多分押されているところは強い冒険者じゃないのだろう、そのしわ寄せが両隣の冒険者たちに科せられた。
私のところもそうだ。片方の隣にいた冒険者が押され気味でオークが前に出てきたのだ。そのオークは真っすぐ進まず、こちらにも進み出てくるから対処が厳しくなる。
こちらの前に出てくるオークの数が多くなると、サラさんの仕事が増えた。休むことなく、次々とオークを切り伏せて倒していく。だけど、隣からなだれ込んでくる数が多くキツくなってきていた。
「おい! そっちもしっかりと戦え! このままだと崩れるぞ!」
堪らずにサラさんが隣で戦っている冒険者たちに声をかけた。すると、その冒険者たちは戦いながら言葉を返してくる。
「仕方ないだろう! こんなに数が多くちゃ、手が足りなくなる!」
「すいません、私の魔法があまり通じなくて!」
「いつもなら、こんなに苦戦しないのに!」
隣にいた冒険者たちも精一杯戦っているのは分かるけど、上手く連係が嵌っていないように見える。きっとパーティーを組んでいない冒険者が隣同士になっただけなのだろう。
火と風の魔法を使う魔法使いが一人、剣士が一人、槍使いが一人か。魔法使いは火魔法や風魔法を使ってオークを攻撃しているが、肉の厚いオークにはあまり通じているようには見えない。というか、肉の厚いところばかり狙っているように見える。
「あの、魔法を当てる場所を変えたらどうでしょう。足元を重点的に狙って、立てなくする方法もあります」
「えっ、それでどうするの?」
「立てなくなったところを槍で突き殺すんです。剣士の人は魔法を食らわなかったオークを相手にしてください」
「上手くいくのか?」
「今まで連係らしい連係をとっていなかった、やってみよう」
アドバイスをすると、その三人は分かったように頷いた。そして、早速魔法使いが風魔法でオークたちの足を攻撃する。風の刃がオークたちの足を切り裂くと、オークたちは痛みで立てなくなりその場に倒れ込む。
「行くぞ!」
倒れたオークたちに槍使いが向かう。そして、即行でオークの頭を突き刺して討伐した。倒れたオークを槍使いが倒している一方、剣士は魔法を受けなかったオークを相手にする。
「倒れろ!」
剣士は振った剣はオークの頭をかち割り、その場でオークが倒れた。大勢のオークを魔法使いと槍使いが倒し、漏れたオークを剣士が倒す。そのやり方に変えると、少しずつだが戦線を押し上げられた。
「すごい、オークの数が減っていきます!」
「どんどん、オークに魔法を放ってくれ! 俺がトドメを刺す!」
「これだったら、なんとか対応できる! ありがとな!」
三人の連係が上手く回ると、溢れていたオークの数が目に見えて減ってきた。そのお陰で、私たちのところに来るオークの数が減ってサラさんの負担が減る。
「リル、ありがとう。おかげで戦いやすくなった」
「流石だな、良く見ている」
「これで戦線が維持できますね。さぁ、私たちは目の前のオークに集中しましょう!」
まだ、オークは数えきれないほどいる。このまま戦線を維持して、第二波を打ち破ろう。




