280.スタンピード(3)
地面を覆いつくすほどのゴブリンの群れ。それが真っすぐに町に向かって進んでいる。だけど、そうはさせないと冒険者たちが壁となってゴブリンの侵攻を食い止めていた。
周りをみれば冒険者たちが必死になってゴブリンを止めている。魔法で広範囲に攻撃を仕掛けて数を減らし、その魔法を搔い潜ってきたゴブリンを近接攻撃が得意な冒険者が仕留める。上手い具合に連係が取れて、雪崩のように押し寄せるゴブリンを着実に減らしていった。
その中でも特別な個体、ゴブリンライダーとゴブリンチャンピオンの出現で戦線は少し押されていた。それでも、まだ余裕はある。ゴブリンのほとんどはEやDランクなので、魔法で倒せていたからだ。
特別な個体もいるが、凄く数が多いという訳でもないから対処できている。最初の戦いは余裕をもって対処できたのは幸運だろう。初めて参加する冒険者にとってそれは自信にも繋がる。
あちこちで上がる冒険者の声は明るいものばかりで、緊迫した状況なのにも拘わらず動きが鈍くなるものはいない。それどころか、もっと戦えるとばかりにゴブリンたちを屠っていた。
そんな中、私は魔法を連発している。
「いっけぇっ!」
二本の竜巻を起こしながら、その間をすり抜けてやってきたゴブリンたちを氷の刃で突き刺す。もう何百倒したか分からない。それくらいの物量が迫ってきていた。
だけど、そんな中でも抜けてくるゴブリンはいる。ゴブリンライダーとゴブリンチャンピオンだ。速く駆けてくるゴブリンライダーに力押しで進んでくるゴブリンチャンピオン、その体は魔法で傷だらけだが構わず前に進んでくる。
そんな二つの特別な個体をハリスさんとサラさんが討伐してくれた。ハリスさんの正確な矢がゴブリンライダーの頭を貫き、サラさんは剛力でゴブリンチャンピオンを切り伏せる。
三人の連係が上手く行き、ゴブリンの侵攻を止めていた。そんな戦いを休みなく何時間も続けると、ついにゴブリンの最後の列になった。
「見ろ、あのゴブリンたちの後ろには何もいないぞ! これを潜り抜ければ、休める!」
「本当だ! もうひと踏ん張りだ、やるぞ!」
「はい!」
あと目の前の数十体を倒せば、一休憩ができる。私は魔力を振り絞って、氷の刃を作りゴブリンたちを突き刺した。ハリスさんの矢が飛び、近づいてきたゴブリンをサラさんがやっつける。
すると、目の前からゴブリンたちが消えた。もう、立っているゴブリンはいない。私たちは第一波を退けることができたんだ!
「よっしゃ! ゴブリンの群れを倒したぞ!」
「やったわ!」
「よし、よーし!」
あちこちから歓声が聞こえてくる。みんな嬉しそうな声を出して、今を喜んでいた。もちろん、私たちも集まってハイタッチを交わす。
「第一波、お疲れ」
「よく頑張ったな」
「お二人ともお疲れ様です」
「とにかく、一休みしたいな」
「あぁ、ちょっとした傷もできてしまったし、回復もしたい」
「私は魔力が残り少ないので、回復ポーションを飲みたいです」
ようやく一息つける、そう思った時にギルド職員の声が聞こえた。
「冒険者のみなさん、第一波お疲れ様です。第二波も来ることでしょう、そのまえに戦線を下げます。後方に待機しているギルド職員のところまで下がってください」
戦線を下げる? そんなことをしても大丈夫なんだろうか?
「ハリスさん、どういうことでしょうか?」
「周りを見てみろ、ゴブリンの死体が重なり合っているだろう? こんな状態じゃ、次の魔物が来ても死体が邪魔になって十分な力を発揮できないかもしれない。だから、戦いやすいところまで下がるんだろうな」
「なるほど、そういうことか。確かに、このままだったら死体に足をとられかねない」
私たちの目の前には沢山のゴブリンの死体がある。重なり合って山になっているところもあれば、地面を覆いつくすように倒れている死体もある。この状況では、戦いにくいだろう。
納得した私たちはギルド職員がいるところまで下がった。
「第二波がくるまで、休んでください。回復や食事は今の内に済ませてください」
そう言ってギルド職員たちは周りに声をかけた。私たちはその場に座り込み、ポーションを飲んだり軽食を取ったりして体調を整える。そんな風に休んでいる時、誰かが近づいてきた。見上げてみると、それはラミードさんだった。
「よう、調子はどうだ?」
「回復ポーションも飲んだし、大丈夫です」
「ゴブリンくらいなら余裕で倒せたな。だけど、本番はここからだ、気を抜くんじゃないぞ」
「そうですね。次は魔物の配置からみて、オークがきそうですね」
「そうだな。特別な個体がいるって話だが、きっといるのはハイオークやオークジェネラルはいるだろうな。もしかしたら、指揮するオークロードもいるかもしれない」
私の知らない名のオークがいた。今まで戦ってきた普通のオークとは違うみたいだ。
「そのオークの特徴ってなんですか?」
「ハイオークは普通のオークと比べて、力や素早さが上がった個体だな。体も普通のオークよりも大きい特徴を持っている。オークジェネラルは重装備をしたオークだ。重装備のせいで普通の攻撃は中々通らないだろうな」
「スタンピードで魔物たちは普段より冷静さを失っていると思うんです。その中でオークロードは指揮を執れるんですか?」
「執れるだろうな。それくらいの器量はあると思う。まぁ、普通の時と比べれば指揮力は低下しているだろうが」
ラミードさんの情報のお陰で、次にくるオークの群れのイメージがついた。大勢のオークの中に特別な個体のハイオークとオークジェネラルがいる、そしてその指揮を執るオークロードがいる。
ゴブリンの時は指揮を執っている様子はなかったけれど、今度は魔物が統率されてくる可能性もある。気を引き締めてかからないと、戦線を破られてしまいそうだ。
「第二波がきたぞ!」
誰かが声を上げて、私たちは視線を向けた。地面がうごめいているように見えるが、それは第二波の魔物の群れだ。
「よし、次が来たな。じゃあ、俺は元の位置に戻るな。お互い、生き残ろうぜ」
「はい、頑張りましょう」
ラミードさんは自分のいるべき場所へと戻っていった。すると、近くで様子を見ていたハリスさんが口を開く。
「流石はAランクの冒険者だな、こんな状況でも落ち着いている。それに、情報もありがたい」
「私も早くAランクに上がりたいな。そのためにも、このスタンピードで功績を残したい」
「そうですね、私も早くランクを上げたいです」
第二波を迎える準備をする、少しの準備運動をして作戦をたてる。
「次はどうしましょう」
「オークに対抗できる魔法はなんだろうな」
「このパーティーになってからオークはあまり狩らなかったからな、経験が少ない。まずは、ゴブリンと同じように魔法を試すか?」
「オークに通じる魔法は分かるか?」
「オークはゴブリンに比べて肉が厚いので、それを考慮して魔法を使わないといけませんね。弱い魔法だと意味がありません」
こんなことになるんだったら、もっとオークと戦っておけばよかった。オークに通じる魔法はなんだろう?
「竜巻で切り刻むことはできますが、肉が厚いので倒せるか分かりません。氷の刃は肉が厚いから攻撃が通るか……雷の魔法で痺れさせることはできます。どれだけ強くしたら倒せるか、一度試してみないことには」
「じゃあ、今度は雷魔法を使ってみよう。もし、それがダメだった場合はどうする?」
「爆発で手あたり次第に攻撃する手もあります。爆発だったら肉の厚さがあっても、吹き飛ばせそうです」
ゴブリンは貧弱な体型をしていたから、竜巻で切り刻んだり氷の刃で貫いたりしたら簡単に倒せた。だけど、オークは違う。肉の厚さがあるから、その分攻撃が通りにくい。
いや、頭を潰せばどうにかなるかもしれない。とにかく、オークとの戦闘はそれほど経験していないから、戦いながら最善を見つけるしかない。
「さて、来るぞ。用意はいいか?」
ハリスさんの言葉に私たちは頷いた。第二波がやってくる。




