258.魔物討伐~ビスモーク山~(13)
元パーティーメンバーを追い払った後、すぐに夕食の準備をして食べた。その後の寝るまでの休憩時間、明日以降の打ち合わせをする。
「明日はどうしましょう。オーガにしますか、それともワイバーンにしますか?」
話を聞こうとすると、ハリスさんが別の話題を出してくる。
「その前にマジックバッグの容量を確認しよう」
「マジックバッグですか?」
「Bランクの魔物の素材はそのまま提出したほうが金になる。だから、素体のままマジックバッグに入れているな」
「そうですね……あっ」
マジックバッグには容量制限があることを思い出した。どれだけ敵を倒そうとも、マジックバッグに入らなければお金にはならない。ということは無駄働きになってしまう。
私はマジックバッグに入っている物と魔物の素材を計算した。
「私のマジックバッグに入るのはあと、三体くらいですね」
「私のマジックバッグも三体くらいだな」
「俺のマジックバッグは四体くらい入る」
ということは、全部で十体くらいしか討伐できなくなる。
「ということは、明日一日戦えばマジックバッグは一杯になりますね」
「そうか……」
「折角これからだというのに、一日しか戦えないのか」
まだまだ、戦える余力は残っているのにあと一日だけしか戦えないのか。でも、マジックバッグの容量を確認して良かった。もう少しで余分な戦いをするところだったよ。
「ということは、明日戦ったら町に戻りましょうか」
「そうだな、そのほうがいいと思う」
「悔しいな、まだ私は戦えるというのに。でも、お金は大事だ。一度帰ろう」
明日一日戦ったら、町に戻ることが決まった。お金のために戦っているから、今回のことは仕方がないだろう。ということは、このパーティーはどうなるんだろう?
「あの、今更なんですが……町に戻った後もこのパーティーで一緒に戦うことができますか?」
思っていた疑問を口に出してみた。すると二人はキョトンとした顔をした後に笑って答えた。
「俺はそのつもりでいた。ぜひ、このパーティーでまだ討伐をしたいと思っている」
「私もだ。私の力がいかんなく発揮できるこのパーティーが好きだ。だから、まだ一緒に戦いと思っている」
「私もです。こんなに上手く連携を取れると思ってもみなかったので、このパーティーで討伐を続けたいです」
三人とも同じ気持ちで嬉しかった。良かった、このパーティーでしばらく討伐ができそうだ。
「じゃあ、しばらくこのパーティーでよろしく頼む」
「私の方こそよろしく頼む」
「私もよろしくお願いします」
意思を確認し合うと気持ちが一つになったような気がした。これなら、明日はもっと頑張れそうだ。
◇
翌日、山の中腹に行ってオーガ討伐をした。討伐は順調に進み、良い感じに連携を取ってオーガを討伐できたと思う。マジックバッグにギリギリ入る十体を討伐し終えると、山を下りて一晩を過ごした。
その翌日、馬車に乗り込んで町へと帰っていった。二日かけてビスモーク山に来て、三日滞在、また二日かけて町へと戻っていく。ちょっと効率が悪いけれど、マジックバッグの容量にも限界があるから仕方がない。
そして、夕方に町へと辿り着くと真っすぐに冒険者ギルドに行った。丁度混みあう時間だったので、冒険者ギルドの中は人でごった返している。列に並び、自分たちの順番が来るのを待っていた。
もう少しで自分たちの番、その時声をかけられる。
「よぉ、ハリス」
隣の列から声をかけられて振り向く。そこには鎧を着こんだ戦士風の男の人が二人と魔法使いの服を来た女の人がいた。その三人はハリスを見て、ニヤニヤと笑っていた。
「一人で討伐をしてきたのか?」
「俺らに追放されて可哀そうに」
「Cランク以下なら相手にできるんじゃない?」
どうやら、この人たちはハリスさんの元パーティーメンバーらしい。この人たちがハリスさんを追放したんだ、そう思うと対抗心みたいな感情が溢れだす。
「Cランクを相手にしても、壁役がいないんじゃ弓は扱えないよなぁ」
「じゃあ、Dランクでも狩っているのか? ははっ、お似合いだぜ」
「私たちのお陰でBランクに上がれたのに、実力がないんじゃねぇ」
どうやら、この人たちもハリスさんの実力を下に見ているらしい。ハリスさんの弓は強いし利便性が高いのに、どうしてこの人たちはそれが分からないんだろう?
好き勝手に話し出すハリスさんの元パーティーメンバー。ハリスさんは表情を変えずに無視をしているみたいだが、元パーティーメンバーの人たちがやたらと絡んでくる。
「俺たちはお前を追放して身軽になったお陰で討伐は順調だったぞ」
「後ろからちまちまと矢を射るしかできないお前がいないだけで、俺たちの力がいかんなく発揮されたんだ」
「やっぱり、あなたはお荷物だったのよ」
好き勝手に言っているが、ハリスさんは無視をしている。そんな時、元パーティーメンバーが受付のお姉さんに呼ばれた。
「ハリス、俺たちの討伐した魔物をよく見ろ」
元パーティーメンバーの人たちはマジックバッグから魔物を取り出す。ワイルドウルフにリザードマン、それに一体のズールベアを出した。
「どうだ、俺たちでズールベアを倒したんだぞ」
「ハリスがいた頃にはあまり倒せなかったBランクの魔物も簡単に倒すことが出来たんだぜ」
「どれだけハリスがお荷物だったのか、分かる結果よねー」
ズールベアを倒したことを自慢げに語る、元パーティーメンバー。だけど、それを見ても私たちは驚かない。だって、Bランクの魔物がたった一体しかないんだから。
「次の方、どうぞ」
と、今度は私たちが呼ばれた。
「どんな魔物を倒したのか、見るのが楽しみだぜ」
「Cランクか? それともDランクか?」
「Dランクだったら、ウケるわー」
私たちは黙ってカウンターに行くと、自分たちのマジックバッグの中身を取り出していく。まずはオークにジャイアントスパイダーを出すと、元パーティーメンバーの人たちが口笛を吹いた。
「なんだ、Cランクの魔物を倒せたのか?」
「それに、仲間がいるんだな。良かったな、壁役がいて」
「男のハリスが離れたところにいて、女が壁役だなんて最低ー」
私たちが無視しているのに、好き勝手に言ってくれる。だから、この後に出す魔物をみたらどんな反応をするのか楽しみになってきた。
そして、私たちはマジックバッグの容量一杯に詰め込んだオーガとワイバーンを取り出した。
「なっ、なっ……それは」
「はぁ!?」
「な、何よ……」
大量に出てくるオーガとワイバーンを見て、元パーティーメンバーの人たちは驚愕した。元パーティーメンバーの人たちは一体しか倒せなかったBランクの魔物が、こっちは何十体もいるお陰だろう。
信じられないような表情を向けて、何を言ったらいいのか迷っている感じだ。そこでようやく、ハリスさんが口を開いた。
「あぁ、ありがとよ。お前らが追放してくれたお陰で、俺たちはこんなにBランクの魔物を討伐することができた」
ハリスさんはニッと笑って見せた。やり返された元パーティーメンバーの人たちはハッと我に返り、その表情は怒りに変わる。
「どうせ、お前は何もできなかったんだろう!」
「安全なところから見ていただけに決まっている!」
「そうよ、そうに決まっているわ!」
声をあげて元パーティーメンバーの人たちはハリスさんを否定した。目の前に証拠が積み上げられたとしても、信じてはくれないらしい。だから、言葉で伝えるんだ。
「ハリスさんはとても優秀な弓使いですよ。私たちは何度も助けられましたし、魔物だって討伐することができます。それ以上、ハリスさんを貶めることをいうのは止めてください」
「そうだ、ハリスはとても優秀だ。こんなにBランクの魔物を討伐できたのは、ハリスがいてくれたお陰だ」
私とサラさんが元パーティーメンバーの前に出ると、その人たちは悔しそうに顔を歪めた。それから「くそっ!」と言葉を吐き捨てると、足早にこの場を去って行った。
今更ハリスさんが優秀だと気付いても遅いからね。もう、ハリスさんは私たちの仲間なんだから。
「二人とも、ありがとう」
照れ臭そうにハリスさんが呟いた。これで邪魔者はいなくなったし、お楽しみの魔物の討伐料の精算といきましょうか。




