257.魔物討伐~ビスモーク山~(12)
三人で集まって倒したワイバーンを確認する。一人では倒せない敵だったけど、三人で協力してなんとか倒した魔物だ。
「二人とも、良くやってくれた。手ごわいワイバーンをこんなに早く倒せるなんて思いもしなかった」
「ハリスさんの的確な援護がなかったら、ここまで早く倒すなんてできなかったと思います」
「私もだ。二人の援護がなかったら、私の大剣は届かなかっただろう」
三人とも考えることは一緒で、援護がなかったら倒せなかったという共通意識があった。空を飛ぶ魔物を相手にするのが大変なのは分かっていたが、よく理解していなかった。
「ワイバーンに飛びながら攻撃されている時が一番大変でしたね」
「あぁ、その時は私は手を出せなかった。もっと強ければ、タイミングを見計らって撃ち落とせただろう」
「飛ぶ魔物は総じて手ごわいからな、時間がかかることを覚悟はしていた」
空を飛ぶ魔物は多くはない。だから戦い慣れていない部分があったから、大変さが際立った。だけど、今後はそういう相手とも戦うことになる。少しずつでもいいから経験を積んで、楽に倒せるようになりたい。
「ワイバーンを早く倒せたのは、それぞれができることを的確にしていたからだと思う。初戦でこんなに早く倒せたのには驚いた」
「ハリスさんの時はどうだったんですか?」
「今の倍以上の時間がかかっていただろう。それどころか怪我もしていた始末だ、辛勝といったところだ。相手にできなくて逃げたこともあるくらいだからな」
「ハリスの時でもそんなに苦戦していたのか。そうか、それだけ強い魔物を私たちは倒したんだな」
サラさんは勝利の余韻に浸りながらワイバーンを見つめていた。一方、ハリスさんは以前のパーティーのことを思いだしているみたいだ。
「ハリスさんのパーティーは上手くいかなかったんですか?」
「あぁ、好き勝手に動くパーティーだったな。俺の弓も活躍しどころがなかった。だから、俺はパーティーを追放されたんだ」
「えっ、そうなんですか!?」
ハリスさんを追い出すなんて、信じられない。一緒に戦っていて分かったけど、ハリスさんの弓は攻撃だけじゃなくて利便性も高い。そんな弓の活躍しどころがなかったなんて、どんなパーティーだったんだろう。
「私はハリスの弓には何度も助けられた。だから、そいつらの気が知れない」
「そうですよ、ハリスさんの弓は強いだけじゃなくてとても便利です。なくてはならない仲間です」
「二人とも……ありがとな」
ちょっと暗い感じだったハリスさんが明るい表情を見せてくれた。前のパーティーでどんな扱いされていたか分からないけれど、今は私たちのパーティーにいるんだから気にしないで欲しい。
「このメンバーでまだまだ戦えると思うんです。きっと戦うごとに強くなっていきますよ」
「そうだな、私もそう思う」
「俺もだ」
「今日もどんどん戦いましょう」
良かった、二人とも同じように考えてくれている。ワイバーン一体だけじゃなくて、もっと倒せるはずだ。
「次のワイバーンを探して戦おう」
「よし、行こう」
ワイバーンをマジックバッグに収納すると、私たちは次のワイバーンと戦うためにその場を動き出した。私たちの戦いはこれからだ。
◇
その後もワイバーンを見つけては戦いに挑んだ。まだ戦い始めたばかりなので戦い慣れておらず、苦戦しながらもなんとか倒している。それでも、少しずつ手ごたえみたいなものは感じていた。
戦闘が終わるとみんなで相談しあい、どんな動きが良かったか確認しあった。そうやって、少しずつ戦い方を学んでいき、次のワイバーン戦に備えていく。そのお陰で、戦うごとに少しずつ苦戦をしなくなってきた。
夕方になるギリギリまで戦い、夕方前には山を下りる。厳しい戦いの連続だったからかなり疲れていたが、充実感はあった。今日のワイバーン戦を乗り越え、少しは自信がついた。
「最後のワイバーン戦は上手くいったと思います。あと、もう一戦したかったですね」
「あぁ、次のワイバーン戦が楽しみだ」
「この調子でどんどんワイバーンを討伐していこう」
二人とも自信に満ちた表情をしていて、とても頼もしかった。これだったら次のワイバーン戦はもっと上手くいく、そう思えるくらいの手ごたえを感じる。
三人でお喋りをしながら休憩所に向かっている時、私たちの前にサラさんの元パーティーメンバーが立ちはだかった。
「よう、サラ。今日は本当にワイバーンを倒したのか?」
「怖くなってCランクの魔物と戦っていたんじゃないだろうな?」
この間からしつこくサラさんに付きまとっている人たちだ。わざわざ確認にくるなんて、よほど暇をしているんだろうか?
「今日はワイバーンを討伐してきた」
「それは本当か? だったら証拠を見せてみろよ」
「そうだ、どうせないんだろうがな」
「Cランクの魔物が出てきても、俺たちは驚かないぜ」
「サラじゃワイバーンと戦うのは無理だからな」
そういって笑いだす元パーティーメンバー。私たちは顔を見合わせると、マジックバッグを取り出した。そして、中に入っているワイバーンを外に出す。
「な、にっ」
「うそだろ……」
出てきたワイバーンを見て元パーティーメンバーは驚愕した。信じられないものを見るような目でワイバーンとサラさんを見てきている。そこにサラさんが二人に声をかける。
「どうだ、本当にワイバーンを倒してきたぞ。この大きな傷が分かるか、見慣れた傷だろ? これは私の大剣で刺したものだ」
ワイバーンを大剣で刺した痕を見せると、元パーティーメンバーは絶句した。こんなことになるとは思ってもみなかったのか、しばらく絶句したまま動かなくなる。
しばらく静かだったが、元パーティーメンバーの一人が動いた。サラさんに近づき、片手を掴んだ。
「オーガもワイバーンも倒せるんなら、俺たちのところに戻って来いよ」
その言葉にサラさんも私も驚いた。まさか、誘ってくるなんて思ってもみない。呆然としていると、サラさんが正気に戻ったのか、その手を振り払った。
「今更何を言うんだ。私を使えない者扱いしてたくせに」
「そんな力を隠していたんなら、なんで俺たちの時に発揮しないんだ? それこそ、俺たちを騙していたことになるじゃないか」
「俺たちに力があることを隠して騙していたんだな。全く、ズルい女だぜ」
「許してやるから、戻ってこい。そしたら、好きなだけオーガとワイバーンを倒してもいいぞ」
なんて勝手な言い分なんだ、この人たちに怒りがこみ上げてくる。サラさんには十分に倒せる力があったのに、それを周りの人が生かし切れていないだけじゃないか。
「冗談もそこまでだ。私はお前たちのところには戻らない。今の仲間たちと討伐をしていくつもりだ」
「いいから、お前は俺たちとくるんだよ!」
またサラさんの手首を掴んで、強引に引っ張った。これ以上は見過ごせない!
「止めてください、サラさんは嫌がっています!」
「うるせぇ! 元々サラはこっちの仲間だったんだ!」
「今は私たちの仲間です!」
「うるせぇって言ってるんだよ!」
すると、もう一人の元パーティーメンバーが剣を抜いて、こちらに襲い掛かってきた。だけど、動きは遅い。私はすぐに剣を抜き、相手が剣を振り下ろした瞬間に強烈な一撃で剣を攻撃した。
ガッキーン!
元パーティーメンバーの剣を弾き飛ばしてやった。すぐに剣先を元パーティーメンバーに向けると、その人は驚いて地面に尻もちをつく。
「サラさんには元々Bランクの魔物と戦える実力はありました。だけど、それを生かしきれなかったのは周りのせいです。だから、サラさんが戻ったとしてもBランクの魔物が倒せるかどうかは分かりません」
サラさんの実力を生かしきれなかったところに戻すなんて嫌だ。毅然とした態度で話すと、元パーティーメンバーは思い当たる節があるのが気まずそうな表情をした。
すると、サラさんが前に出る。
「もうお前たちとはやっていけない。私は、私の力を必要としてくれる今の仲間といる」
「くそっ!」
「あとで後悔しても知らないからな!」
元パーティーメンバーはそう言い残すと、走って去って行ってしまった。残されたサラさんは去って行った方向を睨むと、こちらに向き直る。その表情は穏やかなものだった。
「二人とも、面倒かけてすまない。どうか、これからもよろしく頼む」
サラさんは頭を下げてお願いをしてきた。そんなことを言わなくても大丈夫なのに、私たちは仲間なんだから。




