256.魔物討伐~ビスモーク山~(11)
翌朝、朝日と共に活動を開始し、早めに朝食をとった私たちは山へと向かった。今日は中腹よりも上、木の生えていない岩肌がむき出しの場所まで行く。そこがワイバーンの住処らしい。
歩きながら、私たちはワイバーン対策を考える。
「ワイバーンって空を飛ぶ竜ですよね」
「手と翼が一体化しているタイプだな。攻撃手段は牙の生えた口、尻尾で叩く、体と翼を使っての体当たりだ」
「それを空を飛びながらやってくるから、そこが厄介だな」
ワイバーンは空を飛び、攻撃する時に降下してくるらしい。その時の攻撃方法は口、尻尾、体と翼だ。なんとなく、イメージはついてきた。
「私の攻撃はワイバーンが降下してこないと当たらないな。空中にいる時は、完全にリルとハリス任せになってしまう」
「なら、どうやって降下させるか考えましょうか」
「降下させるなら、それなりのダメージを与えるのが有効だろう」
「ハリスさんの弓、私の魔法で効果的な攻撃方法はありますかね」
ワイバーンにはサラさんの攻撃が届かない。でも、ワイバーンを倒すにはサラさんの大剣が必要だ。ということは、主な戦略として考えられるのは、ワイバーンを地上に落とすこと。
「そうだな、ワイバーンを地面につかせたいのなら、翼を狙うのが一番だろう」
「では、翼に有効な攻撃方法を考えましょうか」
「俺の付与魔法は風と火、爆発だ。矢で翼の膜に穴を空けることができる、爆発で体勢を崩すことができる」
「なら、私も同じことができます。氷の刃、風の玉で翼の膜に穴を空けることができますし、爆発を起こして体勢を崩すことも出来ます」
狙うのは翼の皮膜だ。そこを狙って穴を空けると、ワイバーンもまともに飛べなくなって、地上に落ちてくるだろう。そこをサラさんが攻撃を加える。うん、そんな感じでいいと思う。
「なら、決まりだな。俺の弓とリルの魔法でワイバーンの翼を攻撃、地上に落ちてきたところをサラが攻撃を加える」
「あぁ、分かった」
「それで大丈夫です」
「見えてきたぞ、あそこがワイバーンのいる岩肌だ」
ハリスさんが指をさした方向を見ると、そこは岩肌がむき出しになっていて、断崖絶壁がそびえたつ場所だった。良く見ると岩肌にはワイバーンらしき姿がいて、壁で休んだり空中を飛んだりしている。
今からあそこに行くんだ、ちょっと怖くなったけど気をしっかりと持つ。私たちは岩肌に近づき、戦えるワイバーンがいないか探し出す。
すると、近くの岩肌で休んでいるワイバーンを見つけた。
「あのワイバーンに攻撃をする。準備はいいか?」
「大丈夫です」
「いつでもやってくれ」
「それじゃあ、行くぞ」
ハリスさんは弓を構えて弓矢をワイバーンに向ける。キリリ、と弦を引っ張ると矢を離した。勢いよく飛んでいく矢は真っすぐワイバーンに向かい、矢はワイバーンに刺さる。
「ギャゥッ!」
短く悲鳴をあげたワイバーンはすぐに岩肌を飛び立ち、辺りを見渡した。そして、私たちの姿を見つけると距離を詰めていく。すると、前にサラさんが出てきた。
「私が前にいて、ワイバーンの突進や攻撃を食い止める。二人は翼への攻撃に集中してくれ」
「分かった」
「分かりました」
どうやら、サラさんが盾役を買って出てくれたみたいだ、頼もしい。すると、ワイバーンはこちらに向かって降下してきた。
「来るぞ!」
サラさんが大剣を構えて、ワイバーンと対峙する。降下してきたワイバーンは真っすぐにサラさんに向かって飛んでいく。私とハリスさんはサラさんから離れて、攻撃するチャンスをうかがった。
ワイバーンは口を大きく開けてサラさんに襲い掛かる。
「なんのっ!」
その攻撃を大剣で受け流す。すると、ワイバーンは通り過ぎて高く飛んで旋回してくる。
「ここだ!」
そこへハリスさんの矢が飛ぶ。風の魔法が付与された矢は真っすぐに飛んでいき、ワイバーンの皮膜を貫いた。
「私も続きます!」
両手を前に構えて、氷魔法を発動させる。無数の氷の刃を作り出すと、それを勢いよくワイバーンに向かって射出した。真っすぐ飛んでいった氷の刃、ワイバーンはそれを器用に避けながらサラさんに向かっていく。
矢よりも遅くて目に見える攻撃だと避けられてしまう。今度は風の玉で攻撃してみよう。
ワイバーンが勢いよく降下してサラさんに体当たりを仕掛けた。それをサラさんが何とかかわす。ワイバーンはもう一度上がり、旋回してサラさんを狙う。
「食らえ!」
ハリスさんが矢を射る、今度は三本連射をした。風魔法を付与された矢は驚くほどに早いスピードでワイバーンに向かい、皮膜を突き破る。私も負けていられない。
両手に大きな凝縮された風の玉を作ると、タイミングを見計らってワイバーンに向かって放った。真っすぐ飛んでいった風の玉はワイバーンの目にとまらず、翼の皮膜を大きく破った。
すると、飛んでいるワイバーンの体がぐらついた。私たちの攻撃が効いている! そのままワイバーンはサラさんに攻撃をして、再び上へと舞い上がる。だけど、体がやっぱりぐらついているように見える。
「次は俺が皮膜を破る。リルは特大の爆発を起こして、ワイバーンを地面に叩きつけろ」
「分かりました」
次でワイバーンを地上に叩きつける。空中で旋回してくるワイバーンに向かって、ハリスさんはまた三連射をした。その矢は片方の皮膜を大きく破り、ワイバーンの体が傾いた。今だ!
私は高めた魔力を解放し、ワイバーンの上に特大の爆発を起こした。
ドーン!
「ギャアッ!」
巨大な爆発は傾いていたワイバーンの飛行能力を奪い、地面に叩きつけることに成功した。地面の上で転がるワイバーン、それが止まるとよろよろと立ち上がる。
「ここだ!」
そこへサラさんが追撃した。大剣を大きく振りかぶり、ワイバーンに飛び掛かる。大剣は豪快に振り下ろされたが、惜しくもワイバーンの頭を掠り、一撃で倒せなかった。
「グギャァッ!」
そこへワイバーンは尻尾をサラさんに叩きつける。
「くっ」
咄嗟に大剣で自分の体をかばったが、威力までは殺せず体を飛ばされてしまった。
「空に飛び立たれる前に、やるぞ!」
「はい!」
ようやく地面にワイバーンを下ろせたんだ、簡単には飛び上がらせない。地上に下りたワイバーンの動きは、空中にいる時よりも鈍い、今なら魔法が当てられる。
両手を前に出して、氷魔法を発動させる。狙うのは翼、翼を氷漬けにする! ワイバーンの翼を冷気で包み込み、一気に魔力を解放して翼を氷漬けにした。
「ギャァッ!」
突然翼が氷漬けになって驚いたワイバーンはその場で後を向きながらグルグルと回った。これで、ワイバーンは空には飛び立てない。あとは倒すだけだ。
「目くらましをする!」
ハリスさんが煙幕付きの矢を射る。すると、矢はワイバーンの顔の前で小さな爆発をして、煙幕が張られた。
「今の内にトドメを刺すんだ!」
ハリスさんが声を上げた。サラさんを確認してみると、すでに起き上がってワイバーンに向かっている。ワイバーンは見えなくなった視界で混乱中だ、倒すなら今しかない。
「これで、終わりだ!」
サラさんは構えた大剣をワイバーンに向かって突き出した。突き出した大剣はワイバーンの胸に深く突き刺さる。
「ギャァァッ!!」
ワイバーンは雄たけびを上げ、体を震わせると地面の上に倒れた。しばらく様子を見ていたが、起き上がることはなかった。ということは、ワイバーンを倒すことができたんだ!
三人で集まると、無意識に手を上げた。そして、みんなで良い笑顔になってハイタッチをする。ワイバーンの討伐、完了!




