255.魔物討伐~ビスモーク山~(10)
オーガ討伐を本格的に始めた私たちは苦戦しながらもなんとかオーガを討伐していった。可能であれば不意打ちで打ち取ったり、バッタリと出くわしたら普通の戦闘をする、そんな感じだ。
はじめは苦戦らしい苦戦をしていたけど、戦っていくごとに苦戦をしなくなっていった。戦うコツみたいなものが段々と分かってくると、動きが洗練されていく。
だから、今日の最後の戦いは一番良く戦えたと思う。
「私が防ぎます!」
二体のオーガが風魔法を放ってくると、私が間に入り魔法の壁を作る。魔法の壁がオーガの魔法を防ぎきると、すぐに魔法の壁を解除する。そして、今度は私が魔法を放つ。
「くらえっ!」
両手を前に出して、火魔法を発動させる。巨大な炎を生み出して、それはオーガを包み込んだ。だけど、こんな攻撃じゃオーガは倒れないし、傷もすぐに回復してしまう。だけど、これは攻撃じゃなくて目くらましだ。
炎が弱くなる頃合いになると、サラさんがオーガに向かって飛び出していく。
「うおぉぉっ!」
炎が切れた瞬間にサラさんはオーガに向かって飛び掛かった。急に視界が開けたオーガは焦って、剣を構えて防ごうとする。
「もらった!」
だけど、サラさんはそれを待っていた。渾身の一振りをオーガの剣に叩きつけると、剣を弾き飛ばす。
「行くぞ!」
ハリスさんの合図だ、サラさんはその場から後ろに飛んで避ける。そこに風魔法を付与された矢が物凄い速さで真っすぐに飛んできた。その矢はオーガの頭を貫く、これで一体目。
「グオォッ!」
サラさん目掛けてもう一体のオーガが剣を振り上げて襲い掛かった。剣が振り下ろされるが、それをサラさんが受け止める。
「リル!」
分かってる、私の出番だ。身体強化をして、つばぜり合いをしているオーガの後ろに駆け寄る。オーガがサラさんに夢中になっている隙に、私はオーガに飛び掛かった。
「はぁっ!」
首を目掛けて剣を振った。後ろから襲われたオーガはなすすべなく、首を刎ねられる。飛んだ頭が地面に転がり、その巨体は地面の上に崩れ落ちた。戦闘終了だ。
離れていたハリスさんが近づいてきて、三人で集まった。
「今の連携は良かったな。早く確実にオーガを倒すことができた」
「ハリスの一矢の威力のお陰だな。あれがあったから、早くオーガを倒すことができたと思う」
「ハリスさんの付与魔法つきの弓矢、急所に当たっていたからこそ状況は好転しました」
遠距離から急所に当たれば一撃でオーガが倒せるハリスさんの弓矢が凄い。私たちの援護もしてオーガも倒す、このパーティーの要と言える存在だ。
「俺の弓矢が効果的になるのは、前衛の二人がしっかりと戦ってくれるからだ。俺の方こそ助かっている、俺の弓矢を使える物にしてくれて感謝しているくらいなんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、前のパーティーでは俺の弓は活躍しなかったからな」
「何でもできてあんなに強いのに、不思議な話だな」
どうやらハリスさんは前のパーティーだと弓を生かしきれてなかったみたい。そんな風に見えなかったけど、そういうこともあるんだね。
「私たちのパーティーにはハリスの弓が必要だ。そうだろ、リル」
「はい、ハリスさんの弓があるからオーガと戦うことができたと思います」
「お前ら……ありがとな」
ハリスさんの弓は凄い、それは胸を張って言えることだ。ハリスさんはちょっと照れ臭そうにしながら感謝を言った、ちょっと可愛いところもあるんだね。
「もう夕暮れになります、暗くなる前に山を下りましょう」
「賛成だ」
「私も賛成だ」
暗くなったら危ないから、その前に山を下りないといけない。二人は私の話に賛成をして、帰り支度を始めた。
◇
山を下りた頃には辺りは夕暮れに染まっていた。その頃に休憩所へ行くと、他の冒険者も魔物討伐は止めて山から下りてきている。私たちは自分たちのテントに戻ると食事の用意を始めた。
昨日とほぼ同じ食事をした後、井戸に寄って食器を洗っていく。その時、まるでそれを待っていたかのようにあの人たちが現れた。
「よう、サラ」
「今日は何を討伐してきたんだ?」
サラさんの元パーティーメンバーの人たちだ。昨日のあのやり取りで懲りずにまたやってきたらしい。サラさんは平常心を保ちつつ、正直に話し始めた。
「Bランクのオーガだ」
「Bランクのオーガだと? 嘘を言え、お前が戦えるわけがないだろう?」
「また、見栄を張りやがって。そんなことできるがねぇだろ」
正直に話したとしても、元パーティーメンバーの人たちは信じてはくれない。それどころか、さらに煽ってくる。
「分かった、戦って勝てなかったから逃げてきたんだろう?」
「そうか、それなら戦ったことになるな。考え方がせこいんだよ」
「……勝手に言ってろ」
「おーおー、いきって情けねぇな」
「ははっ、そんなにいうなら見せてくれよ。討伐したっていう証明をなぁ」
元パーティーメンバーはサラさんのことを笑った。すると、食器を手に持ったサラさんはこの場を離れるように歩いていく。私たちもそれに続いていくんだけど、なぜか元パーティーメンバーの人たちもついてきた。
「どうせ、倒したって言ってもオークとかジャイアントスパイダーだろ?」
「お前にはその程度の実力しかねぇんだよ」
この人たちはまだからかってくる。私が言い返そうとすると、サラさんに止められた。
「そんなにみたいなら見せてやる」
そういうとサラさんはマジックバッグを取り出し、中からオーガの死体を目の前に出した。
「うおっ、これって」
「……オーガ?」
「一体だけじゃないぞ」
その後も二体のオーガを出して、元パーティーメンバーに見せつける。すると、嫌な笑い方をしていた元パーティーメンバーの顔色が悪くなっていく。
「どうだ、私が倒したオーガだぞ」
「へ……へ! どうせ、他の奴らの協力があって倒せたんだろう? お前だけの力じゃねぇよ!」
「一人で勝てるほど、オーガは弱くねぇ!」
「そうだ、仲間の力があったから私はオーガを倒せた。でも、お前らと一緒にいた時は倒せなかった。その違いが分かるか?」
「な、なんだよ……俺たちが悪いっていうのか?」
「違うね、明らかにサラの力不足だったんだよ!」
オーガが倒せたのは仲間のお陰だ、それを強調すると元パーティーメンバーの人たちは声を荒げた。
「そんなに私の実力が不足しているというのか?」
「そうだ、俺たちの時に倒せなかったのはサラの実力不足のせいだ。俺たちが弱いんじゃない」
「まだBランクのワイバーンを倒せていないじゃないか。それを倒せないと実力は認められないね」
オーガを見てもまだ認めてくれないらしい。往生際が悪いというか、なんでそこまでサラさんを目の敵にするんだろう。
「お前たちの戯言には付き合っていられない」
「へっ! 戦うのが怖いんだろう?」
「無理だってサラも思っているんだろうが。倒せるものなら倒してみろよ」
「しつこいぞ!」
なおも食い下がってくる元パーティーメンバーにサラさんは怒った。私はハリスさんと顔を見合わせると、頷く。
「お話はそこまでです。サラさんには確かな実力があります」
「それを知りたいのなら、ワイバーンを倒してきてやるぞ」
私たちがサラさんと元パーティーメンバーの間に入り、ワイバーンと戦うことを明言した。ワイバーンとは戦う予定だったから、何も問題もない。
「口だけだったらなんとでも言えるぜ!」
「良かったな、優しい仲間でよ!」
私たちが間に入ると、元パーティーメンバーの人たちは捨て台詞を吐いて去って行った。ふー、これで静かになったね。サラさんは大丈夫かな?
「みんな、私のためにすまない」
すると、サラさんが謝ってきた。
「気にしないでください。黙っていられなかっただけです」
「俺もだ。あんなに言われたんじゃ、見過ごせなかった」
「二人ともありがとう」
サラさんの顔に笑顔が戻った、いつものサラさんに戻ってよかった。
「じゃあ、明日はワイバーンを討伐しにいきますか」
「いいのか? オーガ討伐が慣れてきた頃なのにワイバーン討伐に切り替えて」
「それくらい平気だ。ワイバーンもいつかは戦わないといけない相手だからな、早いに越したことはない」
そうだ、いつかは戦わないといけない敵、それが少し早くなっただけ。ワイバーンと戦うことに決めた二人の目に力がこもり、やる気が満ち溢れてきているみたいだ。
「よし、明日はワイバーン戦だ」
「あぁ!」
「頑張りましょう!」




