254.魔物討伐~ビスモーク山~(9)
木の間から現れたオーガが目の前まで迫ってきた。その頃になると、遠くにいたハリスさんは私たちの傍に到着した。
「他のオーガがいたのか。どうする、やれるか?」
「やります。サラさんはどうですか?」
オーガを見つめて真剣な表情をしていたサラさんに問いかける。少しの間の後、視線を逸らさずに頷く。
「もちろん、やる」
「なら、私とサラさんそれぞれ一体ずつ対峙しましょう」
「俺は援護に回る。好きなように戦ってくれれば、隙を見て援護射撃をする」
話は決まった。私とサラさんが一体ずつ対峙して戦う、ハリスさんは援護に回る。先ほどの不意打ちとは違う、今度は真向からオーガと戦うことになる。
「では、行きましょう!」
「あぁ!」
私とサラさんが駆け出した。すると、それを見たオーガが手を前に突き出してくる。あの構えは、きっと魔法だ。
「最初の攻撃は私が防ぎます。サラさんは待機してください」
「分かった」
私たちは立ち止まり、私は手を前に出した。魔力を高めると、目の前に魔法の壁を作る。その瞬間、オーガは火魔法を放った。巨大な炎が襲い掛かってきたが、魔法の壁が守ってくれる。
「炎が止んだら、飛び掛かりましょう」
「あぁ、全力で行く」
サラさんの言葉から気合が感じられる。ようやくBランクの魔物とまともに戦う機会だから、やる気も漲っているんだろう。私も遅れを取らないように頑張らないと。
しばらく魔法の壁で守っていると、オーガの放った火魔法が消えた。今だ!
「サラさん!」
「あぁ!」
私は魔法の壁を消し、二人で再び駆け出した。私は身体強化をして剣を持ったオーガに向かっていく。
「ガアァッ!」
オーガは私の姿を見ると雄たけびを上げ、剣を構えた。そして、タイミングよく剣を振るってくる。その剣に合わせて私も剣を振るった。
ガキン!
剣がぶつかり合うと、それからオーガは剣を連続で振るってきた。
ガキン! ガキン! ガキン!
素早くて重い一撃が私に襲い掛かる。身体強化中の私と互角のスピードと力、流石はBランクの魔物は強い。何度も剣で切り合った後、つばぜり合いになる。お互いに剣を押し込み、隙を窺う。
「リル! 離れろ!」
その時、ハリスさんの声が聞こえた。咄嗟に私は後ろに飛んだ。その次の瞬間、弓矢がオーガの顔のところに飛び、爆発をした。
「グアァッ!」
ナイス援護! 切りかかろうとすると、オーガは剣を振り回してきた。これじゃ、近づけない。なら、魔法を使うっきゃない。
まずは、動きを封じる。足元に向かって手をかざすと、魔力を高めて氷魔法を発動させた。無数の氷がオーガの足元を凍らせる。膝下まで凍らせた時、オーガの視力が回復した。
「グガ!? ガァァッ!」
気づいた時には足元が凍らされていて、身動きが取れなくなったオーガは焦っている。その隙に違う魔法を試す。手を前にして今度は風魔法を発動させる。凝縮した風の玉を作り、オーガの頭狙って放つ!
真っすぐ飛んだ風の玉。だが、それに気づいたオーガは剣を前に構えた。すると、風の玉が剣に当たり軌道が逸れてしまう。ダメだ、生半可な魔法だと通用しない。
火魔法を使って火あぶりにしてもいいけれど、それだとオーガからとれる素材の質が劣ってしまう。できるだけオーガの皮は傷つけないように、一撃で倒しておきたい。やっぱり、剣でトドメを刺そう。
手を前に出して、今度は雷魔法を発動させる。オーガに向かって雷をほとばしらせた。
「グガガガッ!」
感電したオーガはビクビクと震え出す。雷魔法を解き、今度は身体強化をしてオーガに向かって駆け出した。感電して動きが明らかに鈍くなったところを剣でトドメを刺す、そう思ってオーガの頭を狙うために飛んだ。
そして、剣を振り下ろす。
ガキン!
オーガが渾身の力を振り絞り、剣で防いでみせた。流石はBランクの魔物、真っ向勝負ではそう簡単にやらしてくれないみたいだ。でも、動きが鈍い今ならオーガの能力を超えれるはず。
着地した私は、すぐに攻撃をした。武器を持っている腕に向かって、渾身の一振りを食らわせる。
「はぁっ!」
足の動きを止められて、体の動きも雷で鈍くなったオーガ。その一撃をかわせず、オーガの腕が飛んだ。
「グアアァッ!」
これで、邪魔な武器は使えなくなった。私は再度、上に向かってジャンプをする。そして、雄たけびを上げるオーガの首を刎ねた。すっぱりと切られた頭は地面に転がり、巨体も地面の上にゆっくりと倒れていく。
ドスン、と音を立ててオーガは倒れた。強かったけど、なんとか倒すことができて良かったな。一呼吸をして心を落ち着かせる。そうだ、サラさんはどうなったんだろう。
すぐにサラさんのほうを向くと、サラさんはオーガと剣を交えていた。大振りのサラさんの攻撃をオーガが受け止めている、そんな様子だ。援護しなくちゃ!
「サラさん、援護します!」
声をかけて、両手をオーガに向ける。こっちに気を引こう、氷魔法を発動させると無数のつららを作った。その無数のつららをオーガ向かって放つ!
真っすぐ飛んでいったつららはオーガの体に何本も突き刺さる。
「グガァァッ!」
突然の攻撃を食らったオーガは怯んだ。
「そこだぁぁっ!!」
サラさんの雄たけびが響くと、大剣が大きく振り切られる。そして、大剣はオーガの手に持つ剣に当たり、剣を弾き飛ばした。
「トドメだ!」
横に振った大剣を持ち直し、今度は縦に大剣を構えて振り下ろす。無防備になったオーガは抵抗することができない。振り下ろされた大剣はオーガの頭を割った。
「グッ、ガッ」
頭を割られたオーガは力なくその場で崩れ落ちた。しばらく倒れたオーガを見たが、全く起き上がる気配がない。ということは、オーガを倒したことになる。
「やった、私がやったんだ」
倒れたオーガを見て、サラさんが呟いた。オーガを倒したことに感激しているみたいで、勢いよく拳を突き上げる。
「オーガを倒したぞ!」
嬉しそうに声を上げるサラさん、突き上げた拳を何度も突き上げて喜んでいる。オーガを倒したことが、本当に嬉しいんだね。私はハリスさんを見ると、ハリスさんは親指を立てて笑った。
「二人とも、よくやったな」
「ハリスさんの絶妙な援護があったお陰です」
ハリスさんと私はサラさんに近づいていく。すると、私たちの存在に気づいたのかサラさんが明るい表情をしてこちらに駆け寄ってきた。それからハリスさんと私を両手で抱きしめる。
「二人の援護のお陰だ、私でもオーガが倒せたぞ!」
「俺の弓矢が役に立ったようで嬉しいよ」
「私の魔法も役に立ったみたいですね」
「あぁ! 本当にありがとう!」
そんなに喜ばれると、こっちまで嬉しくなってきた。ハリスさんと顔を見合わせて笑い合う。
「オーガ戦、どうだった?」
「手ごわい相手でした。武器も使うし、魔法も使ってくる。気を抜いたらやられていたのはこちらでしょう」
「全くもってその通りだ。中々攻撃は入らないし、弱い攻撃を当ててもすぐに回復されてしまう」
「やっぱり回復されるとなると、弱らせてから倒すことができなくなるので、決め手が限られてくるのが大変でした」
「そうか、やはりオーガは強かったか」
オーガは普通に戦えば強かった。でも、三人いれば勝てない相手じゃない。そう、戦えるんだ。
「俺は今の戦いで手ごたえを感じた。もっと戦い慣れれば、もっと上手く討伐できると思っている」
「私も思いました。個々がやるべきことをやっていれば、オーガ戦は今のように苦戦しません。もっと、戦いましょう」
私が言葉を口にするとハリスさんは頷いてくれた。サラさんはというと、決意のある目をしている。
「私も今までにない手ごたえを感じた。この三人が協力し合っているからだと思う。この三人でもっと戦ってみよう」
「決まりだな。次のオーガを探しに行くぞ」
「はい」
私たちは同じ気持ちだった、この三人でいればオーガ戦は怖くない。今はまだ経験が少なくて確かなことは言えないけれど、きっとオーガ戦はやり方次第で上手くさばけるはずだ。
希望が私たちにはあった。




