253.魔物討伐~ビスモーク山~(8)
翌日の朝、朝日と共に起きて朝食を食べるとすぐに山へと入った。今日狙うのはBランクのオーガ。そのオーガがいるであろう、山の中腹を目指して歩いている。
「ハリスさん、オーガの特徴って教えてもらってもいいですか?」
山道をあるきながらハリスさんに問いかける。オーガの姿は魔物解体の時に見せてもらったから分かる。体長は二メートル五十センチくらい、二足歩行で赤黒い肌をしていて、頭に二本の角が生えていた。
それ以外の情報を実際に戦ったことがあるハリスさんに聞いておきたかった。
「そうだな、手に武器を持っている。こん棒、剣、斧とか様々だな。それを使って攻撃してくる時もある。それと魔法を使ってくる、使う魔法は火か風だ」
武器と魔法を使って攻撃をしてくるんだね。聞いた感じ、中々手ごわそうだ。
「最大の特徴と言えば、再生能力があるということだ。生半可な攻撃だと、すぐに回復されてしまう」
「どれくらいの傷がどれくらいの速さで治るんですか?」
「そうだな、深さ2センチくらいの切り傷なら数十秒で治ってしまうな」
「なるほど、軽い切り傷は全くものともしないということか」
沢山攻撃を仕掛けて、傷を増やしていくような戦闘は無意味だということだろう。
「オーガを仕留めたかったら、強い一撃を与えることだ。そうじゃないと、回復されてしまう」
「確実な一撃が欲しいところですね」
「強い一撃、それなら私は得意だ」
みんなそれぞれ強い一撃を持っている。だから、それぞれがトドメをさせる力がある。だから、このメンバーで問題なくオーガと戦えると思う。
「まず私がオーガと対峙しよう。オーガの攻撃を受け止めたり、進行を妨げたりする」
長身で体の大きなサラさんにピッタリな役目だ。オーガを引き付けるにはうってつけの人材だ。
「私はオーガの魔法攻撃に対処します。魔法を使ってきたら、魔法を使って相殺したり魔法の壁で防ごうと思います」
物理がサラさんの役目なら、魔法は私の役目だ。魔法を使ってくるオーガなら、私の魔法で防ぐ。
「なら、俺は遠距離からオーガを狙いうちだな。二人が防いでくれるなら、俺の攻撃も通りやすそうだ」
残ったハリスさんは自然とその立ち位置になる。後衛だからオーガの前に立ちふさがるのは下策だから、そのほうがいいだろう。
「そうだ、俺の爆発の矢だったらオーガの目くらましにも使える」
「どうやって、目くらましにするんだ?」
「顔面に爆発の矢を当ててやるのさ。そうしたら、しばらくは奴の視界を奪うことができる。その隙に二人のどちらかが攻撃してくれればいい」
「なら、攻撃は二パターンできるってことですね」
爆発の矢を目くらましに使うなんて、流石Bランクの冒険者だ。今までの経験からそういうことを考えつくなんて、頼りになる。
「その時になってみないと分からないが、それぞれの戦い方は分かっているだろう?」
「そうだな、誰がどんな動きをするのか分かっている。それに合わせて、自分が動けばいいと思っている」
「あとはみんなの動きに自分がどれだけ合わせられるか、ですね」
「実際に戦ってみよう。そしたら、合うか合わないか分かるはずだ」
ハリスさんの言葉に私たちは頷いた。とにかく、やってみるしかないのだ。Cランクとの魔物は順調に倒せた、あとは上のランクの魔物でどれだけのことができるのかを確かめる。
「リル、聴力強化してオーガの場所を探してくれないか?」
「この辺りが中腹なのか」
「分かりました」
山の中腹についた私たちはハリスさんの勧めで聴力強化をしてみることにした。手を耳に当て、魔力を高めて聴力強化をする。周囲の音を拾っていくと、息遣いのようなものが聞こえてきた。
「あっちから、息遣いが聞こえます」
「なら、そっちに行ってみよう」
「先頭は私が行く」
「なら、その後ろを私がついていきますね」
「なら、俺は最後尾だな」
隊列を変えると、先頭がサラさんになり進んでいく。慎重に進んでいくと、木の間から自然のものじゃないものが現れた。赤黒い肌、あれがオーガか。
「まだ、こちらには気づいていないみたいだ」
「最初の攻撃はどうします?」
「なら、俺の道具を使ってみないか?」
「道具ですか?」
ハリスさんは魔法だけじゃなくて、道具も使って戦うってこと? どんな風に使うのか気になる。
「弓矢の先に煙幕入りの袋を括り付けるんだ。それをオーガの顔の前で小さく爆発させる。そうすると、オーガの顔の周りだけ煙幕が張れるんだ」
「なるほど、視界を奪う作戦か」
「それ、いいですね。やりましょう」
煙幕か、相手の視界を奪うだけだから利便性はとてもいい。不意打ちでそれを食らったら、相手はすぐに行動できないはずだ。
私はサラさんと剣を構えて、走るタイミングを図る。ハリスさんが弓矢に煙幕入りの小さな袋を括り付けると、弓に番えた。
「走れ。タイミングを見て、これを射る」
「分かった」
「はい」
私とサラさんはオーガに向かって走った。身体強化をしながら、サラさんと並走する。
「サラさん、どうします」
「さらなる無力化をする。相手が持っている武器を叩き落とす」
「なら、私は動けないように膝をつかせます。その後、倒れた後にサラさんが頭を狙ってください」
「分かった」
煙幕を張ったからといって、相手が何もしてこない訳がない。だから、先に無力化をするのは妥当な作戦だろう、私も賛成だ。
オーガまであと五十メートルというところで、弓矢が走っていった。そして、オーガの顔周りで小さな爆発が起こり、煙幕が張られる。
「ガァッ!?」
突然のことで驚いたオーガは身構えた。顔辺りの煙幕を手で払おうとするが中々払えない。すると、今度は武器を振り回し始めた。見えてないとはいえ、武器を振り回されるのは厄介だ。
「先に行く」
サラさんが走るスピードを上げたので、私は少し走るのを緩めた。武器が脅威に感じたのはサラさんも同じだったみたいで、自ら率先して動いてくれる。
オーガの目の前にサラさんが飛び出すと、振り回している武器に向かって大剣を振り回した。
「はぁっ!」
渾身の一撃がオーガの持っている武器に当たり、オーガの武器は弾き飛ばされた。多分これでオーガは周りに敵がいることを認識したと思う。魔法攻撃に移る前に、早く膝をつかせよう。
私はオーガの後ろに回り込むと、膝の裏目掛けて剣を振った。深く切りつけられた膝の裏、オーガは力が抜けて膝を地面についた。咄嗟のことで受け身が取れなかったのか、そのまま地面の上に倒れる。
「サラさん!」
「任せろ!」
無防備になったオーガにサラさんの渾身の一振りが振り下ろされた。大剣はオーガの頭を捉え、真っ二つに叩き切る。その瞬間ビクンとオーガの体は跳ねたが、その後は沈黙した。
しばらく離れて様子を眺めていたが、オーガが起き上がる気配はない。どうやら、あっという間に倒せたみたいだ。
「オーガ、倒せましたね」
「あぁ、一瞬だった」
初めてのオーガ討伐はあっさりと終わった。あまり倒した実感がない、連携が上手くいきすぎたお陰だろう。こんなに上手く連携が取れて、すぐに倒せるとは思いもしなかった。
サラさんを見てみると、じっとオーガを見つめていた。サラさんはもしかしたらオーガ戦は初めてじゃなかったのかもしれない。過去のオーガ戦を思い出しているのかな?
それと、比べたら……
「ガァアッ!」
突然、声がした。勢いよく振り向くと、木の間から二体のオーガが姿を現した。しまった、離れたところにオーガが潜んでいたんだ。私は慌てて剣を構える。
「オーガ……倒す!」
サラさんも大剣を構えた。本当の戦いはこれからだ。




