252.魔物討伐~ビスモーク山~(7)
ジャイアントスパイダーとの戦闘が終わり、私たちは話し合いを始めた。
「この戦闘はどうでしたか?」
今回の戦闘は連携らしい連携を取れたと思う。だからこそ、このパーティーが魔物討伐に適しているのか、二人の意見が聞きたかった。
「私は上手く連携が取れたと思う。二人がジャイアントスパイダーを引き付けてくれたおかげで、自分の戦いに集中することができた。だから相手が二体だとしても、危なげなく戦えた」
「俺も同じ意見だ。数が多いと気づいた時は焦ったが、魔物の戦力を上手く分散することができたから危なげなく対処ができた。個々の能力を十分に発揮できたと思う」
二人の意見は好感触だった。私も二人の意見には同意できるところが沢山ある。数が多くても、各々の力を十分に発揮できたと思う。
「ハリスさんの先制攻撃やサラさんの大剣による広範囲の攻撃に助けられました」
「俺はリルが守ってくれると分かったから、落ち着くことができた。近くに前衛がいることは後衛にとっても安心材料なんだ」
「私は私の力を十分に発揮できる場を作ってくれたお陰で活躍できたと思う。リルが援護に回ってくれたから、私は安心して自分の戦いに集中することができた」
前衛のサラさん、後衛のハリスさん。二人の能力を生かすには、私が援護に回ったほうが上手くことが運ぶみたい。でも、ずっと援護ができる訳じゃないし、このメンバーで色々な戦いの経験を積んだほうが良さそうだ。
「どうする? もうBランクの魔物を討伐しにいくか?」
サラさんはワクワクとした表情で私たちを見た。うーん、それはちょっと早いかな。
「私はもう少しこの三人で戦った方がいいと思います。もうちょっと経験を積んでから、Bランクに挑みましょう」
「俺もそう思う。上手くいったのはまぐれだった、という可能性もある。もう少し経験を積んでから戦おう」
「……そうか」
サラさんはあからさまにがっかりとした様子だった。Bランクに挑みたい気持ちは分かるが、ここは我慢してもらおう。
「サラさん、確実にBランクを仕留めるための訓練だと思えばいいですよ。このメンバーで戦ってみて、お互いのことを知れば、楽にBランクと戦えるかもしれませんよ」
「そうか、そうだよな。気落ちしてしまってすまない。まだ、やり始めたばかりなんだ。私たちはこれからだよな」
「その意気だ。ここでしっかりと戦う経験を積めば、Bランクの魔物ともやり合えるはずだ」
サラさんを励ますと、元気になったみたいだ。表情も明るいし、声も高い。これで次も憂いなく戦えるはずだ。
「そうと決まったら、どんどん戦っていきましょう。今日はCランクの魔物との戦いです」
「明日、Bランクと戦うために今は経験を積もう」
「私は明日のために全力で挑むぞ。二人とも、よろしく頼む」
三人で顔を見合わせて強く頷いた。今日はBランクの魔物と戦うのは我慢して、Cランクの魔物相手にチームプレイの確認だ。
◇
それから私たちはCランクの魔物、オークとジャイアントスパイダーと戦った。
オーク戦では、サラさんが前衛を務めてオークを引き付ける。その隙にハリスさんが付与魔法つきの弓矢で攻撃をしたり、私が隙をついて剣で攻撃したり魔法で攻撃したりした。
色んなパターンで戦ってみたが、そのやり方が一番上手くいった。オークの体は大きいから、前衛に大きいサラさんがいると安心感が違う。これは私が先頭になったら、逆にパーティーが威圧されてしまいそうだった。
だから、このやり方をジャイアントスパイダーとも試した。サラさんが前衛でジャイアントスパイダーの気を引き付け、隙を狙って私とハリスさんが攻撃を仕掛ける。
このやり方は成功した。十分すぎるくらいの戦果を上げたと言ってもいい。強い前衛がいると戦闘はこんなにも楽になるんだ、ということが分かるような戦闘だった。
でも、前衛が良くてもダメだ、それ以外の役目をしっかりと補える人もいなくてはならない。私たちの場合、それがハリスさんだった。
ハリスさんの付与魔法つきの弓矢はとても役に立った。サラさんが魔物を足止めしている時に、遠距離からの攻撃は効果抜群だ。相手が何もできることなく倒れていくのだから、遠距離攻撃がこんなに効果があったなんて想像できなかった。
おかげで、サラさんが足止めをしている間にハリスさんが遠距離から攻撃を仕掛ける形が定番となった。もちろん、私も剣や魔法で攻撃をしている。
私の場合はサラさんを抜けて来た魔物と対峙することが多かった。サラさん一人では対応できない時が多々あったので、その都度私が前に出て抜けてきた魔物と戦う構図になる。
他はハリスさんと同じで、遠距離から魔法で攻撃して魔物を仕留めたりをしていた。パーティーで戦うとこんなにも余裕を持って戦えることが、一番の驚きだ。
とにかく一戦の負担が少ない。一人で戦う時はあれもこれも、と考えることは多いけれど、パーティーだと違う。仲間に任せてしまうので、その分考える時間がないし、敵対しなくてもいい。
余裕な時間があると考えちゃうのは、昔の戦い方の名残りだね。ヒルデさんには治したほうがいいと言われているのだが、中々治らない。これでも考える時間は減ったんだけどなぁ。
負担が少ないということは、それだけ多く戦えるということだ。報酬額はみんなで均等にするから減るかもしれないけれど、それでも戦闘が楽なのが良かった。これを知ってしまえばパーティー討伐はうま味のあるやり方だ。
一日中戦っても、まだ余分の体力が残っているし全然疲れていない。これは明日へのアドバンテージになる。戦闘が終わった時、そう思った。
そして、今日の戦闘が終了して休憩所まで戻ってきた。その時、またあの人たちが現れる。
「よう、サラ。今日は何をしていたんだ?」
サラさんの元パーティーメンバーがつっかかってきた。サラさんは表情を変えずに口を開く。
「魔物と戦っていた」
「へー、ランクは?」
「……Cだ」
サラさんの言葉に元パーティーメンバーは大笑いした。
「あはは! パーティー抜けても、結局はCランクの魔物と戦っているなんてな」
「やっていること、変わんねぇじゃねぇか! だっせー!」
腹を抱えて笑いだす。サラさんは悔しそうに顔を歪めたが、一瞬だけだ。すぐに表情は凛々しくなり、元パーティーメンバーに言い返す。
「今日はCランクの魔物で小手調べだ。明日から、Bランクの魔物に挑戦する」
「そんなこと言って、本当は尻込みしていたんじゃねぇのか?」
「やっぱり怖くて戦えません、てお願いしたんじゃないのかよ」
サラさんがそんなことを言っても、元パーティーメンバーは信じない。それどころか、どんどん煽ってくる。
「やっぱり、お前にはBランクなんて早かったんだよ。実力不足だって早く気づけよ」
「ってか、上のランクを倒せるっていきってるんじゃねぇよ。お前にはCランクがお似合いなんだよ」
「俺たちは親切心から言ってあげてるんだぜ。無茶な戦いをしないで、無難な戦いをしろってな。そのほうが死ぬ確率だって低いぞ」
「俺たちの親切心なんて、サラには通じないぜ。こんなちびっ子を連れて戦いに出てるような奴だぜ」
なぜか今度は私を見ながら話をしてきた。
「どうして、こんな子供を連れているんだ? ……分かった、こいつを囮にして魔物と戦っているんだろ?」
「うわ、だっせー。本人は安全に魔物を倒しているってことか」
「なっ、そんなことはない!」
「おーおー、図星をつかれたか?」
「うわ、最低だな」
元パーティーメンバーがサラさんをからかいだした。この話にはサラさんも強く抗議しようとしたけど、二人には全くきかない。サラさんが何度も声を上げて否定するが、二人は全く聞かない。
だから、私はムッとした。
「違います。逆にサラさんが魔物の気を引いて危ない役目を引き受けています」
私の言葉に二人は驚いた顔をした。突然、外野が喋り出したから驚いているんだろう。
「魔物を引き付けるサラさんはとても頼りがいがあります。沢山の魔物をひきつけて、私たちに攻撃するチャンスを作ってくれます。そのお陰で討伐は順調でしたよ。サラさんは最高のパーティーメンバーです」
強めの口調で訴えかけた。すると、二人は居づらいに顔を歪ませて、何も言わずに立ち去って行った。どうだ、サラさんの凄さを思い知ったか!
「リル、迷惑かけてすまない」
「もっと言ってやりたいくらいでしたよ。気にしないでください」
「あぁ、ありがとう」
サラさんは嬉しそうな顔をしてお礼を言ってきた。
「今度来た時はBランクの魔物を見せつけてやりましょう」
「それはいいな。俺も賛成だ」
「ふふ、それはいいな」
あの二人にBランクの魔物を見せつけて、ギャフンと言わせるんだ!




