251.魔物討伐~ビスモーク山~(6)
三人で森の中を歩いていく。時々、立ち止まって聴力強化をして音を探ってみた。
「音は大分近くなっているみたいです」
「私の目には魔物の姿は見えないな。ハリスはどうだ?」
「俺も見えない。音も聞こえないし、リル頼りになってしまうな」
「うーん、こっち側でしょうか」
耳を傾けて音が聞こえている方向へと歩いていく。だけど、歩けど魔物の姿は見えない。音は聞こえているのに不思議だ、もしかしたらこの音は魔物じゃない可能性もある。
「もう少し歩いてみて、何もなかったら違う魔物を探しましょうか」
三人で少し離れながら森の中を進んでいく。確実に音は大きくなっているのに、魔物の気配はない。やっぱりおかしい。もう少し歩いてみて、聴力強化をしてみると音が良く聞こえてきた。この近くにいる。
「ここの場所が良く音が聞こえます。この周辺にいるはずなんですが」
「この周辺か……何も見えないぞ」
「敵が見えない……まさか! みんな木の上を見てみろ!」
ハリスさんが声をあげ、私たちは木の上を見た。すると、木の枝にジャイアントスパイダーが何体もいたのが見える。上からこちらを見て、攻撃する隙を狙っていた。
私たちは咄嗟にその場から離れる。その瞬間、ジャイアントスパイダーたちのお尻から糸が吐き出された。間一髪、その糸から逃げ出すことができる。
「なるほど、固い音というのはこいつらの顎が鳴る音だったんだ」
「うかつだった。こいつらがそんな音を出していたなんて、気づかなかった」
そういうことか、だから音だけはして声は聞こえなかったんだ。このジャイアントスパイダーたちはここで冒険者がくるのを待ち伏せしていたんだろう。
私たちは武器を構えて、ジャイアントスパイダーと対峙した。
「全部で何体だ?」
「……五体です」
「どうする、やるか?」
「このくらいの数を相手にできないと、Bランクの魔物と戦うのは夢のまた夢になってしまう」
「では、やりましょう」
ジャイアントスパイダーが木から下りてくる光景を見ながら、みんなの意思確認をした。数は多いが、こちらだって数がいる。逃げるのは弱者のすることだ、と言わんばかりに好戦的な態度をとった。
ジリジリとにじり寄り、顎を鳴らすジャイアントスパイダー。そのジャイアントスパイダーに始めの一撃を与えたのは、ハリスさんだった。
シュッ
バァン!
弓矢が飛んできたと思ったら、その弓矢はジャイアントスパイダーの体に刺さり爆発した。その瞬間、ジャイアントスパイダーが一斉に飛び掛かってくる。こんなに一度に飛び掛かられると、対処が!
「私に任せろ!」
前に出てきたサラさんが大剣を構え、タイミングよく剣を振るった。すると、飛び掛かってきたジャイアントスパイダーは剣圧に負けて弾き飛ばされる。
「ナイスです、サラさん!」
「一体ずつ、確実に仕留めていくぞ!」
吹き飛ばされたジャイアントスパイダーは地面に転がった。その隙に陣形を整える。最前衛はサラさん、その後ろに私、後方にハリスさんだ。さて、この陣形で私がするべきことは……
「サラさん、大剣でジャイアントスパイダーに向かっていってください。私はハリスさんへの護衛に回ります」
「私は大暴れしてもいいということだな」
「なるほど。では、俺がジャイアントスパイダーにトドメを刺していく」
二人の攻撃力は高い、それを生かして私は援護に回る予定だ。話しが終わると、ジャイアントスパイダーが起き上がり、広がってこちらに向かってきた。
「ここから先へは行かせないぞ!」
サラさんが大立ち回りで大剣を振るう。ジャイアントスパイダーは大剣に当たってまた吹き飛ばされたり、大剣からジャンプして逃げたりしていた。
大剣にぶつかったジャイアントスパイダーは地面に転がる。その隙にハリスさんが弓矢を射る。真っすぐに飛んだ弓矢は仰向けのジャイアントスパイダーの腹に刺さり、爆発した。
「まずは一体!」
「さぁ、どんどん来い!」
サラさんは大剣を構え、ハリスさんは弓を番える。散らばったジャイアントスパイダーは様子を見ていた。
しばらく睨み合いが続くと、ジャイアントスパイダーはお尻をこちらに向けた。お尻から糸を吐き出す。
「なんのっ!」
飛んできた糸を大剣で切り裂く。だが、粘着性があった糸の二本が大剣に絡んでしまった。
「くっ!」
サラさんは大剣を引くが、ジャイアントスパイダーの引きも強く思うように大剣を動かせない。その隙に残りの二体のジャイアントスパイダーがこちらに向かってきた。
「俺は左を、リルは右を頼む!」
「分かりました!」
ジャイアントスパイダーに向かって手をかざし、魔力を高める。使う魔法は氷、氷の刃を作るとそれをジャイアントスパイダーに向かって放った。
氷の刃はジャイアントスパイダーに向かって飛んでいった。だけど、分かりやすい軌道だったからか、ジャイアントスパイダーは後ろに飛びのけてそれを避ける。
もう一方の手を向けると、同じように氷の刃を放つ。その氷の刃は逃げるジャイアントスパイダーに掠り、一本の足を砕くことができた。
「リル、仕留めたか!?」
「いえ、まだです!」
「こっちも弓矢を避けられた」
お互いにまだジャイアントスパイダーを倒せていないらしい。サラさんはまだジャイアントスパイダーの糸と格闘しているようだ、どうにかしてあの糸を断ち切らないと。
「サラさん、大剣をこちらに向けてください!」
「分かった!」
サラさんの体が動くと、大剣が良く見える。その大剣に手をかざすと、火球を作って大剣に向かって放った。火球は飛んでいき、大剣を燃やす。すると、糸に火が燃え移り、糸は切れて大剣から外せることができた。
「ありがとう、リル。これで大剣を振り回せる!」
これで、サラさんは大丈夫だ。私はさっきのジャイアントスパイダーと対峙する。距離を取ってこちらを観察しているように見える。一気に攻撃を仕掛けないところが賢いところだろう。
「ハリスさん、そっちは大丈夫ですか?」
「一対一なら援護は必要ない。どうにかできる」
「じゃあ、私はこっちのジャイアントスパイダーに集中しますね」
流石Bランクの冒険者だ、弓使いであってもこういう状況は大丈夫らしい。頼りになる冒険者が近くにいると、こんなにも心強いんだね。
改めてジャイアントスパイダーと対峙する。相手は闇雲に襲い掛かってくるタイプじゃないから、ちょっと面倒だ。そっちがその気なら、こっちが攻め立ててあげる。
片手をジャイアントスパイダーに向けると、火球を作る。そして、それを放つ。だが、それで終わりじゃない、またすぐに火球を作って放つ。当たるまで連続攻撃だ。
ジャイアントスパイダーは襲い掛かってくる火球をジャンプして避ける。何度も避けるのだが、少しずつ避けるのが間に合わなくなってきている。そして、火球がジャイアントスパイダーの足に当たり、燃え上がった。
「キシャァァ!」
ジャイアントスパイダーが奇声を上げて、地面にひっくり返った。今がチャンスだ。身体強化をすると、一気に距離を詰める。剣を上段に構えると、地面でジタバタ動くジャイアントスパイダーの頭を切り落とした。
頭を切り落とされたジャイアントスパイダーは絶命して動かなくなる。これでこっちのジャイアントスパイダーは仕留めた、あとの二人はどうなっているんだろう。
ハリスさんに顔を向けると、相手をしていたジャイアントスパイダーは風穴ができていて絶命している様子だった。どうやら無事に倒せたみたいだ。
サラさんに顔を向けると、大剣を振り回してジャイアントスパイダーを追い詰めていた。一体は仕留めたらしく、最後の一体を相手にしている様子だ。
「そこだ!」
タイミングよく大剣を振るうとジャイアントスパイダーに当たり、真っ二つに切られた。最後のジャイアントスパイダーも倒せたみたい、周りに敵がいないか聴力強化をする。うん、いないみたいだ。
「周りに敵はいないようです」
「そうか、ありがとう」
「よし、討伐証明を刈り取ろう」
周りに敵がいないことを告げると、二人は緊張を解いた。それから、ジャイアントスパイダーの討伐証明を刈り取り始める。私も刈り取らないと。ナイフを持って、倒したジャイアントスパイダーに近寄った。




