250.魔物討伐~ビスモーク山~(5)
魔物討伐、当日の朝。朝食を食べた私たちは山の中へと入っていった。山の中は木がまばらに生えており、かなりの空間ができていて戦いやすい地形になっている。
「まずはCランクの魔物を見つけましょう。そのCランクの魔物と戦って、お互いの実力や戦い方を知りましょう」
「賛成だ」
「私も賛成だ」
「今、周囲の気配を探ってみますね。ちょっと静かにして待っていてください」
私はその場で立ち止まると、耳に手を当てた。そして、魔力を高めて聴力強化をして周囲の気配を探る。山に登ってきた冒険者たちの足音や声が沢山聞こえる中、山の奥に意識を集中させた。
魔物の音は……いた、これかな?
「あっちの方向にブヒブヒとした声が聞こえました」
「その声はオークだろうな。数はどれくらいだ」
「二、三体くらいだと思います」
「うん、いつも通りの人数だな」
流石経験者だ、数体いても動じていない。二人とも落ち着いてる、頼りになるなぁ。私も見習って落ち着かないとね。
「オークがいる場所まで案内します。こっちです」
私が先頭になって二人を導いていく。しばらく歩くと、また聴力強化をしてオークの位置を確認する。うん、大丈夫、近づいているみたいだ。
そのまま真っすぐに進み、オークを目指した。すると、遠くからでもオークの姿が見えた。私たちは木の陰に隠れる。
「全部で三体だな」
「どんな風に倒します?」
「俺が不意打ちで一体倒す。場が混乱したところで、リルとサラが飛び込むっていうのはどうだ?」
「弓矢でオークが倒せるのか?」
サラから素朴な疑問が出た。確かに、あの細い弓矢でオークが倒せるとは思わない。どんな風に弓矢を扱ったら倒せるんだろう。
「俺は魔法も使うと言っただろ? 弓矢に付与魔法をかけるんだよ」
「付与魔法、ですか?」
「魔法の力を弓矢につけるんだ」
ハリスさんの使う魔法は私が使う魔法とはちょっと違うみたい。弓矢に魔法をつけるってどんな魔法なんだろう。その付与魔法を気にしてか、サラさんがさらに質問する。
「その付与魔法をかければ、オークを一撃で倒せるのか?」
「当たり所が良ければ一撃で仕留められる。弓矢に風魔法を付与して放つと、強烈な一矢になるんだ。その一矢で風穴を空けられる」
「なるほど、その一撃で仕留める訳ですか」
「お前たちはどんな風に倒すんだ?」
ハリスさんの説明を聞き、私たちは納得した。まだ見ていないけれど、その一矢はとても強力だと分かる。すると、ハリスさんが逆に質問をしてきた。
「私はオークと対峙して、まずは武器を持っている手を切り落とす。それから怯んだところを大剣で切り倒す」
「私は身体強化をして素早く距離を縮めます。オークが動き出す前に頭を刎ねようと思います」
「よし、分かった。それでいくぞ」
話はまとまった。今回はそれぞれが自由に動き、敵を倒すことから始める。
「俺が合図をしたら走れ。走った後に俺が弓矢を放つ」
オークまでの距離は百メートル、この距離から弓矢を当てるなんて凄い。私たちはハリスさんの言葉に頷くと、剣を構えて走り出す準備をする。
ハリスさんは弓矢を筒から取り出すと、弓矢をつがえる。
「走れ」
短い言葉の後、私たちは走り出した。走っている最中、身体強化をして速度を上げた。すると、私が先に走り、その後をサラさんが追う展開となった。
「サラさんっ」
「この場合は仕方がない。先にリルがオークの中に飛び込め」
「分かりました」
本当なら前衛のサラさんが一番に飛び込むはずが、足の速い私が一番に飛び込むことになった。事前の打ち合わせと違う展開になるのは、まだお互いの力量を推し量れていないからだ。
今回は私が一番に飛び込むことになった。オークまで五十メートルというところで、後ろから強烈な一矢が放たれた。一矢は風を纏って真っすぐに飛んでいき、たむろしていたオークの頭を的確に打ちぬいた。
頭を打ちぬかれたオークは悲鳴を上げられないまま、その場に崩れ落ちた。周りにいたオークはそれを見て不思議そうな顔をして、崩れ落ちたオークに近寄る。
そして、頭を打ちぬかれたことに気づいたのか、周囲を警戒し始めた。だが、その時にはすでに私たちはすぐ傍まで迫っていた。オークたちはまだ私たちに気づいていない、チャンスだ。
オークに飛び掛かったところで、オークは私の存在に気づいた、だがもう遅い。オークの首目掛けて剣を振ると、頭と体を両断することができた。これで一体目。
「ブモォッ!?」
仲間が一瞬でやられたことにオークは戸惑いを見せた。私に向かってこん棒を構え、攻撃するチャンスを窺っている。だけど、そのオークの背後からサラさんが迫ってきていた。
「こっちだ、オーク!」
「ブモッ!?」
サラさんが声を上げると、オークは振り向いた。対峙する二人だが、初動が早いのはサラさんだ。無防備に立っていたオークの手めがけて大剣を振る。すると、武器を持っていた手は切り離された。
「ブオォゥ!」
「とどめだ!」
攻撃する手段を無くしたオークは戸惑った。その隙にサラさんは大剣を振り上げて、オークの頭を大剣でかち割る。その一撃で絶命したオークの体はその場に倒れた。
戦闘が終了した。私はすぐに聴力強化をして周囲の気配を探る。どうやら近くには魔物はいないらしい、一息つけそうだ。
「周囲に魔物はいません、大丈夫です」
「ありがとう。その聴力強化というものは便利でいいな。そのお陰でオークとの戦いを不意打ちという形で襲うことができたんだから」
不意打ちは魔物討伐に置いて重要なアドバンテージだ。そのお陰で戦闘は早く終了するし、こちらが怪我をすることも少なくなる。今後も不意打ちができるのなら、やっておきたい。
その場に待っていると、ハリスさんが駆け足で近づいてきた。
「順調に魔物を倒したみたいだな。鮮やかな連携だったぞ」
「ハリスこそ、見事な一矢だった。あの距離からオークを一撃で仕留めるなんて、そう簡単にできるもんじゃないぞ」
「あの細い弓矢でオークに風穴を空けれるんですから、相当な威力ですよね」
「あの付与魔法は凝縮された魔法みたいなものだからな、威力はあるものなんだ」
遠距離からあの攻撃をされたら防ぐ手段はない。ハリスさんの先制攻撃があれば、戦闘はぐっと楽になるだろう。先に一体を仕留められるというのは大きなアドバンテージだ。
「今の戦闘はどうでしたか?」
「後ろから見ていたが、無駄な動きが一切なかった。だから、少ない手数で魔物を倒せたんだと思う」
「リルの行動がとても素早かったな。こういう場合は私ではなく、リルが率先して先に動いたほうがいいと思った」
初めての三人での戦闘は考えられることがいっぱいある。個々の戦闘は上手くいったが、もっと上手くいく可能性も見え隠れした。
「俺が思うに何が最善なのか考えていこう。きっと、今よりも上手いやり方があるはずだ」
「そうですね。今回のでなんとなく動きも分かりましたから、声をかけながら最善の動きをしていきましょう」
「今回分かったのは、Cランクは個々の力を十分に発揮すれば問題なく狩れるということだな。それもかなり上手い具合に」
冒険者が三人もいると、戦闘はかなり楽になる。一人で相手をするよりも、難易度がぐっと下がる感じだ。これでもっと上手く連携を取れたら、もっと戦闘は楽になるだろう。
「じゃあ、次の魔物を探すか。リル、頼む」
「はい」
ハリスさんに言われて聴力強化をする。周囲の音を探ると、小さな固い音が聞こえてきた。
「うーん、こっちから何かの音が聞こえますね。固い何かをぶつけるような音ですか」
「そっちに行ってみるか?」
「そうだな、ちょっと行ってみよう」
今度はその音が聞こえたほうに歩きだした。




