249.魔物討伐~ビスモーク山~(4)
二日の馬車の旅を終え、私たちは夕方にビスモーク山の麓までやってきた。馬車から次々と冒険者が下りていき、場は騒がしくなった。
「まずは宿泊所まで行くぞ」
ハリスさんが先頭になって宿泊所までの道を案内してくれた。他の冒険者たちも同じ方向に進んでいき、賑やかなままの移動となる。
しばらく歩いていくと、広場があった。そこには幾つものテントが並び、魔物討伐を終えた冒険者たちがくつろいでいるところだった。
「どの辺りにテントを張る?」
「んー、あそこの辺とかどうだ?」
「いいですね、あそこにしましょう」
広場を見渡してテントを張る場所を探すと、良い感じに空いている場所があった。そこへ近づくと、それぞれマジックバッグを取り出してテントの設営を始める。
暗くなる前にテントの設営を終わらせないと。手早くテントの骨組みを完成させると、布をかぶせて骨組みと組み合わせていく。あとはテントの中に敷物を敷けば完成だ。
なんとか、完全に暗くなる前にテントを設営することができた。二人の様子も見てみると、すでにテントの設営を終えて夕食の準備をしているところだ。
「お二人とも、流石ですね。テント設営が手早いです」
「俺は何度も来ていて慣れているからな」
「私もだ、メインの仕事が魔物討伐だから、こういう作業は慣れている」
「私は町の中と外の仕事を両立してやっているから、こういう機会はあまりないですね」
「珍しいよな、町の中の仕事もやる冒険者というのは」
「私なら町の中の仕事なんて無理だ。リルが器用で羨ましいよ」
雑談をしながら、夕食の準備をする。マジックバッグから大鍋を取り出し、中身のスープを小鍋に移し替える。発火コンロを取り出して、火を点けると小鍋をセットしてスープを温める。
その間に、マジックバッグからフライパンを取り出して地面に置く。続いて燻製肉、卵、チーズを取り出す。ナイフを片手に燻製肉を一口大の大きさに切り分けて、フライパンの上に乗せる。
その燻製肉の上に切り分けたチーズを乗せた。あとは隙間に卵を割り入れる。スープが煮立ってきたのを確認したら、今度はフライパンを発火コンロの上に乗せて、中身を焼いていく。
しばらくしたら、燻製肉の焼ける匂いと共にチーズの溶けたいい匂いが立ち込めてきた。その匂いがしてきたら完成だ。今日の夕食は野菜とお肉のスープ、燻製肉のチーズ焼き、目玉焼き、パンだ。
「リルの食事は豪勢だな」
「種類が沢山あるだけですよ。ハリスさんだって、大きな肉を焼いているじゃないですか」
「俺は面倒くさいから肉とパンだけだ。サラも似たようなものだろ」
「私も面倒だからな、パンと肉と果物くらいだ」
「キャンプに慣れてくるとそうなってきたんだ」
そうなんだ。キャンプに慣れると豪勢な食事をするようなイメージがあったんだけど、そうじゃなかったみたい。
「美味しいものは町の中で食べているし、俺は外ではこんなもんでいい」
「私も似たようなものだな。外にずっといる訳じゃないし、美味しいものは町中でっていう感じだ」
「そうなんですね。私は町の外に出ても美味しいものは食べたいなって思います」
色んな人がいるんだな。私も慣れてくるとそんな風になるのかな。まぁ、今考えても仕方ないよね、いただきますか。
燻製肉のチーズ焼きを一口で食べる。燻製肉の油がジュワッとしみ出してきて、それがチーズと絡んでとても美味しい。口の中にそのうま味が残っている間にパンを一口。
その後にあっさりとしたコクのあるスープを飲むと、口の中がさっぱりとする。燻製肉、パン、スープの永久機関で永遠に食べられるね。うん、今日の食事も美味しいな。
◇
食事を食べ終わると、三人で井戸の近くに行った。使い終わった食器を洗うためだ。井戸の周辺にはそこそこ冒険者が溜まっていて、混雑している。
「結構いるな。少し待ってから来た方が良かったな」
「ここで待っていたらいいですよ」
「待つのは苦手だな」
三人で棒立ちになって立ち、井戸の周辺に人がいなくなるのを待つ。その時、こちらに近づいている人影があった。
「サラ」
その人たちはサラさんの名前を呼んだ。私は気になって振り向いていると、男性の冒険者たちが近づいてきているのが見えた。ふいに気になってサラさんを見てみると、サラさんの表情が曇った。
「お前たち、いたのか」
「まさかパーティーを抜けたサラが新しいパーティーを組んで来るとは思わなかったよ。こんなに早くにね」
どうやら、それはサラさんの前のパーティーメンバーみたいだ。そのパーティーメンバーの人はニヤニヤと笑いながら、サラさんに話しかける。
「まだ、Bランクの魔物と戦うことを諦めてなかったのかよ。さっさと諦めて、Cランクの魔物を討伐してりゃいいのに」
「早々に諦めたお前たちはそれでいいだろうが、私は諦めきれない。実力ならあるはずなんだ」
「Bランクのズールベアを倒せたのも何かの間違いだったんだよ。お前にそんな実力はない」
何やら揉めているらしい。何か一言いった方がいいのか、話に割って入ったほうがいいのか。迷っていると、ハリスさんが肩を掴んできた。振り向いてみると、ハリスさんは顔を横に振った、どうやら中に入らないほうがいいみたい。
「ここでBランクの魔物を倒せなかったのは、個々の実力が発揮できなかったからだ」
「なんだよ、また俺たちのせいだって言いたいのかよ」
「俺たちのせいじゃなくて、サラの実力不足だと思うぜ」
「私はそうは思わない。Bランクと戦える力はあると思っている」
どうやらサラさんはBランクの魔物と戦うことに固執しているみたいだ。パーティー募集の時に私のことが心配だ、と言っていたけれど違う理由もしっかりとあったんだね。
「早く目を覚ましたほうがいいぜ。サラにはそんな実力はないってな」
「私が悪かったです、ごめんなさい。って言えばパーティーに戻してもいいぜ」
「お前はCランクの魔物を相手にしてたほうがお似合いだぜ、じゃあな」
前のパーティーメンバーはそれだけをいうと、その場から立ち去って行った。残されたサラさんはというと、悔しそうな顔をして俯いている。
「サラさん……」
「……あ、井戸の周りが空いたみたいだ。さぁ、洗いに行こう」
サラさんはパッと表情を明るくして、井戸の近くに寄った。何か言った方がいいのだろうか? 悩んでいるとハリスさんはサラさんの後を追って、食器を洗い始めた。私もハリスさんを追い、一緒に食器を洗う。
しばらく、無言の時間が過ぎた。このままでいいのだろうか? そう思っていると、サラさんが口を開く。
「気を悪くさせたみたいで、すまなかった」
なぜかサラさんが謝ってきた。サラさんは悪くないのに。
「私は自分の可能性というものを信じている。だから、ぬるま湯だったパーティーを抜けて来たんだ」
「自分の実力を計るためか」
「そうだ、私はまだCランクだがBランクの魔物と戦える力を持っていると信じている。諦めきれなくて、パーティーメンバーに応募したんだ。あ、でもリルのことが心配だったのは本当だぞ」
どうやら、サラさんは自分の実力を信じていて、それでBランクの魔物と戦いたかったみたいだ。
「自分の力を信じられるのって素敵だと思います。私だったら、サラさんみたいに行動できません」
「手ごたえを感じているんだな。そういう時は挑戦するのがいいだろう。そうすると、自分の殻から飛び出せるきっかけになると思う」
「リル、ハリス……ありがとう。私、魔物討伐頑張るから……見ていてくれ」
弱弱しかったサラさんの目に強い光が宿る。うん、サラさんが元気になって良かった。明日から魔物討伐が始まる。みんなで協力して頑張っていこう!




