248.魔物討伐~ビスモーク山~(3)
「ビスモーク行きの馬車、あと三十分で出発だよー」
乗合所まで行くとそんな声が聞こえてきた。どうやら次の馬車に乗れるみたいだ、私は係員に近づいた。
「ビスモーク行き、お願いします」
「じゃあ、この金額を支払ってね」
立て看板に書いてあった金額を見て私はお金を払う。木札を受け取ると、周囲にハリスとサラがいないか確かめた。きょろきょろと見渡すと、ハリスさんが馬車の近くに立っているのが見える。
「ハリスさん、おはようございます」
「ん、おう。おはよう」
「早いですね」
「暇だったんでな、早く来た」
暇だから早く来たって、大人の余裕かな? 私はハリスさんの隣で立って、サラさんが来るのを待った。しばらく二人でお喋りをしていると、向こうからサラさんがやってくるのが見える。
「サラさーん、こっちです」
「あぁ、そっちか。今、馬車の券を買うから待っててくれ」
手を振ってアピールをするとサラさんが気づいてくれた。サラさんは係員とやり取りをしてから、こちらへとやってくる。
「二人とも、待たせてすまなかった」
「私も今来たところなんです」
「俺もそんなに待ってないから大丈夫だ」
「そうか、ありがとう。それでは、馬車に乗るか?」
「そうしましょう。空いている馬車に乗りましょうか」
ビスモーク行きの馬車は全部で三つある。その内の一つに近づき、係員に木札を渡して中へと乗り込む。
「馬車が空いていて良かったですね」
「そうだな。時々、馬車が混んでいる時があるから気を付けないといけないんだ」
「ハリスはビスモーク山に行き慣れているから分かるんだな」
「そういうことだ」
ハリスさん、頼りになるなぁ。
「サラさんはビスモーク山には行ったことはあるんですか?」
「私もある。だが、数えるくらいしか行ったことはないな。その時は上手く討伐ができなくて散々な目にあった」
なるほど、サラさんは数えるだけか。あまり良い話を聞かなかったから、大変な目にあったんだろうな。
「そういう、リルはどうなんだ?」
「私は初めてです。だからお二人が経験者で助かります。色々と教えてくださいね」
「俺に任せておけ」
「私も微力ながら教える」
二人とも頼もしいなぁ。この際だから色んなことを教えてもらおう。
「馬車での移動中、話し合いをしましょう。お互いに知っていることを話して、情報を共有しておきましょう」
「それはいい考えだ。まずは戦う前にそういうことをするべきだ」
「私もそう思う。戦う前に少しイメージトレーニングをしておきたい」
「なら、決まりですね」
「まもなく、馬車が出発します。乗り遅れのないようにしてください」
話していると係員の声が聞こえてきた。そろそろ、馬車が動く。
◇
ビスモーク山まで馬車で二日。着くのは二日目の夕方だ、大分時間がかかる。その間、馬車の中で揺られないといけないのだが、私には水クッションがある。水クッションを作り、それを敷いて快適に座っていた。
その水クッションを二人は不思議そうに見ている。
「面白い魔法もあるんだな」
「快適ですよ。使ってみますか?」
「俺はいい、馬車の揺れにも慣れているしな」
「私もいい。特に不便なこともないし」
そうか、残念だ。この気持ちよさを分かれば、快適に過ごせるのに。まぁ、押し付けても仕方がないので話はそれで終わった。
馬車の中にいる人たちが会話を楽しんでいる中、私たちは討伐に必要な情報を共有していく。
「俺から言いたいのは、山に生息している魔物についてだ。Eランクのゴブリン、Dランクのニードルゴート、Cランクのオークとジャイアントスパイダー。そして、Bランクのオーガとワイバーンだな」
「山に行ったら、全てを相手にするのか?」
「いいや、Dランク以下は無視していいだろう。もし、相手が敵対してきた時は、交戦する形でいいと思う」
「では、相手をするならCランク以上から、ということですね」
冒険者ギルドで調べてきたから分かる。まだ相手をしていないニードルゴートは角の生えた羊の魔物で、角による突進攻撃と体当たりが主な攻撃方法だ。
オークは二足歩行の豚の魔物で、武器を片手に持って攻撃してくるらしい。オークは魔物解体の時に沢山見たことがあるから、造形が分かる。なんとなく、戦いのイメージもつきやすい。
ジャイアントスパイダーは大きな蜘蛛型の魔物。鋭い牙と爪を持ち、口から糸を吐いてくる。オークと一緒で集団行動をしてくる魔物だから注意が必要だ。
「まずはCランクの魔物と戦って、お互いの力量を計るのはどうだ?」
「私は賛成だ」
「私も賛成です。お互いの戦い方を見て、どんな風に組み合わせて戦うのか事前に考えたほうが良さそうですね」
「そういうことだ。まずはお互いを知ってから、Bランクの魔物に挑もう」
うん、いいと思う。まずはお互いどんなことができるのか知っておくのが重要だ。そうしたら、いざ戦闘になった時にどう動いていいか分かる。無駄な動きが減って、確実に魔物を倒せる動きができるからね。
「私はみんなの動きがどうなるのか知りたい。私は力に特化した戦い方をする。大剣を振り回したり、大剣で攻撃を防いだり、小さな魔物だったら弾き飛ばすこともできる。一撃必殺の攻撃が得意だ」
「俺は後方から弓矢で援護することになる。敵の注意を逸らしたり、引き付けたりする。魔法と弓矢を合わせた技を使えて、弓矢で魔物の体に穴を開けることもできる。それで魔物を倒したりもできるぞ」
「私は片手剣と魔法を使います。魔物討伐に使える魔法は火、雷、氷、風があります。剣では身体強化を使って敵を倒すこともできます。魔物によって剣で倒したり、魔法で倒したり、様々な戦い方ができます」
三人でどんな戦闘スタイルなのか話した。サラさんは大剣使いで力に特化した冒険者、ハリスさんは弓矢を扱って魔法の技も持っている冒険者、私は剣と魔法を使える冒険者、という訳だ。
こうして聞いてみると、三人の得意分野が微妙に違うことに気づく。サラさんと私は近接武器だけど、お互いの武器の大きさは違う。ハリスさんと私は魔法が扱えるけれど、使い方が違う。
この微妙な差をどうやったら戦闘に生かすことができるだろう?
「とりあえず戦闘になったら、先頭につくのはサラだな」
「リルはどうする?」
「私はサラさんの後ろにつくっていうのはどうですか? 魔物の動きを見て、後方に下がったり、前方に出たりすることができます」
「うん、それはいいな。なら、前の順番からサラ、リル、俺だな」
近接攻撃しかないサラさんを最先頭に置き、次に私がいて、後方にハリスさんが控える。この形が上手くいきそうな気がする。
「とりあえず、この形で戦闘してみましょうか」
「先制攻撃はどうする?」
「とりあえず、それぞれが先制攻撃をしてみよう。その中から一番いい形ができたものを採用すればいい」
先制攻撃も大切だよね、誰がどんな先制攻撃をするのか重要になってくる。初めの攻撃が良いと次に続く攻撃も上手く続いてくれるはずだから。
「うーん、まだ一緒に戦っていないから想像がつきにくいな。なんとなくでは想像はできるが、実際に動いてみると違った、ということもありえるし」
「まぁ、一回戦ってみないことには分からないだろうな。俺だって想像はしても、実際にはどんな風に動くのか違っていたりもするし」
「ここで考えられることは以上になりますかね」
どれだけ沢山話したとしても、実際の動きが想像と違う場合もある。あとは、実際の戦闘になるのを待つばかりだ。だったら、その前に少しの交流をするのがいいだろう。
「今までどんな敵と戦ったか知りたいです」
「俺もそうだ。特にリルのゴーレム戦の話は気になるな」
「私も気になっていた。どんな風にゴーレムと戦ったんだ」
うっ、私に話が集中した。私はみんなの話を聞きたかったんだけどな、まぁ仕方がないよね。私はゴーレム戦について二人に話し始めた。




