247.魔物討伐~ビスモーク山~(2)
冒険者パーティー応募者との面会の日が来た。朝食を食べた後、自室にこもった私は入念に身だしなみを整えた。身だしなみのせいで印象が悪く見えて、応募を止めますって言われたら悲しいから。
「髪よし、服よし、笑顔よし。これで大丈夫」
そう自分に言い聞かせるが、緊張してきた。上手に喋れるかな、不安だな。しっかりしろリル、自分ならちゃんと喋れる。いつものように丁寧にお話して、自分の気持ちを伝えるんだ。
「よし、ちょっと早いけど行こう」
必要なものを持つと、私は部屋を出た。
◇
冒険者ギルドに到着したのは十時過ぎだ、かなり早い時間に来てしまったようだ。受付の人に冒険者パーティーの面会のことを伝えると、待合席で待っていて欲しいと言われて、今座って待っている。
宿屋で待っているのも暇だったから早く来たけど、やっぱり早かったか。ボーッとしながら時間が過ぎるのを待つ。行き交う人たちを見ながら、何を話そうか考えておく。
そんな風に時間を過ごしていくと、誰かが近づいてきた。顔を上げて見てみると、三十代の男性がそこにいた。あごひげを蓄え、黒髪の短髪をしている長身の男性だ。
「聞いてもいいか? お前がリルという冒険者か?」
「はい、そうですが。あなたは?」
「冒険者パーティーの募集を見て応募してきた者だ。一緒に座らせてもらってもいいか?」
「もちろん、どうぞ」
その男性は私と同じ席に座った。
「俺の名はハリス、今日はよろしく頼む」
「私はリルと言います。よろしくお願いします。後一人来るはずなので、それまで待っていてください」
「あぁ、分かった」
どうしよう、何か話したほうがいいのかな? でも、もう一人の人が来るはずだし、勝手に話すのは良くないと思う。ここは黙って待っていた方がいいよね。
その後、何も喋らずに待っていると、またこちらに近づいてきた人がいた。鎧を着こんだ女性で、亜麻色の髪をポニーテールにしている。
「そこの君、もしかして名前をリルという人じゃないか?」
「はい、私がリルです」
「私はサラ、今回の冒険者パーティーの募集に応募したものだ」
「そうでしたか、それでしたら席に座ってください」
「では、失礼する」
サラさんはそう言って席に座った。
「これで全員が揃ったのでお話を始めたいと思います。まず、冒険者パーティー募集に応募してくださってありがとうございます、代表者のリルです」
「ハリスだ」
「サラだ」
話し始めると、それぞれが短く名前を言った。えーっと、次は。
「冒険者パーティーのメンバーを募集した理由はビスモーク山へ一緒に魔物討伐をしてくれる人を探していたからです」
「それについて質問がある」
「はい、サラさんなんですか?」
「君は私と同じCランクだが、Bランクの魔物を倒したことがあるのか?」
「はい、あります。森に住むズールベアなら、一人でも問題なく倒せます」
「そうなのか」
サラさんは腕組をして難しい顔をした。何か引っかかることがあるのだろうか? すると、ハリスさんが会話に入ってくる。
「サラ、お前は知らないのか? このリルはAランクのゴーレムを倒すほどの実力者だと」
「何、Aランクだと!?」
「その話、知っていたんですね」
まさかハリスさんがゴーレムの話を出してくるとは思ってもみなかった。あからさまに驚いた顔をしたサラさんは身を乗り出して話の続きをせがんだ。
「最近の冒険者ギルド内では有名な話だぞ。以前の領主クエストで名を残していたリルが、今度はAランクの魔物を倒した、と」
「そうだったのか。私は知らなかったな、そういう情報には疎くて」
まさか、私の功績が冒険者ギルドで噂になっていたとは知らなかった。いつのまにそんな話が出回ったんだろう……なんだか恥ずかしいな。
でも、私の実力が認められたっていうことだよね。それは素直に嬉しいな。
「そうしたら、なんでお前はこの募集に応募したんだ? 俺は有名になりかけている冒険者の応募だと知ったから、応募したんだが」
「いや、小さな子が強い魔物と戦うと知り、私が守ってやらねばと思ったんだ」
「なんだそれ、応募の理由が可笑しいな」
くくっ、とハリスさんは笑った。
「話した通り、俺はお前が実力者だと知った上で応募した」
「実力を認めてくださって嬉しいです。まだ子供なので、侮られると思っていました」
「領主クエストを二つもこなして、両方ともに名を残した冒険者が子供だからと侮る奴は節穴な奴だけだ。俺は力があるなら、子供でも女でも気にしない」
今までの功績のお陰でハリスさんは応募してくれたみたいだ。今までの成果が認められたみたいで、とても嬉しいな。
「なら、ここにいるみんなはCランクなのか?」
「いいや、俺はBランクだ」
「Bランクの冒険者か。珍しいなCランクの冒険者のパーティーに入りたいだなんて」
「それだけ、今回の代表者が気になったんだよ。お前は大丈夫なのか? Cランクなのに、Bランクの魔物と戦うことになるぞ」
そう、今回はBランクの魔物討伐をメインにしている。それなのにCランクの冒険者であるサラさんが応募してきた。サラさんを見てみると、全く気にしていないようだ。
「私は魔物討伐をメインにしている冒険者だ。ズールベアなら私も倒したことがある。だから、ビスモーク山のBランクの魔物とも戦えると思う」
「実力はあるってことか。力試し的な意味もありそうだな」
「そういう側面もある」
どうやらサラさんもランク上の魔物と戦う力を持つ冒険者みたいだ。同じランクでも実力差がついている人もいるから、慎重に見極めないといけないね。
「じゃあ、お二人ともBランクの魔物と戦う実力は兼ね備えているということになりますね」
「私はそうだ」
「俺もだ」
「では、どうして私の冒険者パーティーに応募してくださったんですか? 理由を聞いてもいいですか?」
そんな実力派な二人が応募してくれたことが嬉しい。でも、だからその理由を聞きたくなった。すると、先に手を上げたのはハリスさんだった。
「Bランクの魔物を沢山討伐できるパーティを探していた。今までいくつかのパーティーを組んで討伐してきたが、上手い具合に稼げるパーティーと当たれなかった」
「ハリスさんは上手に討伐できるパーティーを探しているんですね」
「あぁ、そうだ。俺の武器は弓矢とちょっとした魔法が使える。だから、前衛に強い奴がいて欲しい」
なるほど、ハリスさんは良いパーティーを求めて転々としているという訳か。武器は弓矢と魔法、後衛タイプだ。私は剣と魔法だから前衛から後衛タイプってところかな?
「次は私だな。今回は小さな子が魔物討伐をすると知り、危険だと思い応募してきたがその憂いは無くなった。本当は自分の実力が発揮できるパーティーを探していたところだ」
「というと、今までは実力を発揮できていなかったんですか?」
「良いパーティーメンバーに恵まれなかったのか、自分の実力は発揮できなかった。私は大剣を使う前衛タイプだ、よろしく頼む」
小さい子を守るために応募してきたなんて、優しい心の持ち主なのかな。サラさんは完全に前衛タイプの冒険者だね。
「私はこのメンバーでビスモーク山に行きたいと思っています。一度戦ってみてお互いの力量を知り、合いそうならパーティーを続けていく形がいいと思います」
「俺は賛成だ。一度戦ってみないことには分からない」
「私も賛成」
「では、このメンバーで行きましょう。出発は明日、待ち合わせは朝九時に乗合所に集合でいいですか?」
二人は私の話に頷いてくれた。あと、決めることは……
「ビスモーク山には三日間滞在しましょう。それでお互いの実力を見極めることでいいですか?」
「もちろんだ」
「いいぞ」
詳しいことは決まった。後はパーティーメンバー登録を冒険者ギルドに出すだけだ。新しいパーティーメンバーとの魔物討伐、どうなるのか今からとても気になる。
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