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【書籍化、コミカライズ】転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!  作者: 鳥助
第五章 冒険者ランクC

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245.子供たちの先生(7)

 水クッションのない普通の授業になってから数日が経過した。始めは慣れなくて集中力が欠けていた様子だったが、それも日に日に良くなってきた。子供たちの表情が引き締まってきたようにも思える。


 子供たちの成長には本当に驚かされる。昨日できていなかったことが、今日になったらできている、ということがざらにあった。やっぱり、この子たちはやればできる子なんだ。今までは本当にやり方が分からなかっただけなんだ。


 子供たちを信じて、指導して本当に良かったと思った。子供には無限の可能性があって、それを生かしてあげるのが大人の役目なんだと思う。私のやってきたことが、少しでもこの子たちのためになったなら嬉しい。


 まともに授業ができるようになって日にちが経ち、最後の日をむかえた。いつものように教卓のところで立って待っていると、静かな廊下なのに教室の扉が開く。何かと思い見てみると、そこには責任者がいた。


「おはようございます」

「リルさん、おはようございます。今日はお願いしたいことがあって来たの」

「どうしたんですか?」

「今日はこの教室で子供たちの様子を見てもいいかしら?」

「はい、もちろん」


 責任者が最終日に見に来るなんて驚いた。やっぱり、どんな風にクラスが変わったのか知っておきたいのかな? まぁ、私は全然構わないし、頑張っている子供たちを見て欲しいから賛成だ。


「じゃあ、私は部屋の隅にいるわ。いつも通りに授業をしてね」

「分かりました。いつも通りに授業を行いますね」

「楽しみにしているわ。あ、子供たちが来たみたいね」


 廊下が急に騒がしくなった、子供たちが到着したみたいだ。責任者は教室の後ろの隅に立ち、教室の様子を眺めていた。そして、子供たちが教室に入ってくる。


「先生、おはようございます!」

「おはようございまーす!」

「おはようございます!」

「はい、おはようございます」


 教室に入ってくる子供たちみんなが挨拶をしてくれる。その挨拶に言葉を返していくと、子供たちは教室内で遊び始めた。その間にも子供たちは続々とやってきて、挨拶をしては自由に過ごしていく。


 そんな楽しい時間が過ぎ去ると、授業開始の鐘が鳴った。すると、子供たちはピタッと動きを止めて、ちょっと騒がしく席に着き始める。そして、鐘が鳴って五分もしない内に、子供たちはみんな席に着くことができた。


「はい、みなさん良くできましたね。鐘が鳴ってから、すぐに行動できて偉いですよ」


 すぐにそのことを褒めると、子供たちは照れ臭そうに笑った。


「今日は責任者の方がみんなの授業が見たいと言って、後ろに立っています。今日はみなさんがどんなことをできるのか知ってもらうために頑張りましょう」

「はーい」

「はい」


 色々な返事が返ってきた。うん、今日も子供たちは素直でいい子だな。この調子で、一か月の成果を責任者の人に見てもらおう。


「それでは、まずは計算の勉強から始めたいと思います。数字の教科書を出してください」


 子供たちは私語もせず教科書を出して、小さな黒板とチョークも用意する。そして、顔を上げて私に注目をした。うん、しっかりと話を聞く態勢が取れている、偉いぞ。


「では、教科書の五ページから始めたいと思います。五ページを開いてください」


 指示を出すと、子供たちはすぐに教科書に手を出してページを開く。そして、顔を私の方に向ける。うん、聞く姿勢がなっているね、偉いぞ。そして、私は授業を始めた。


 ◇


 終業の鐘が鳴り響いた。


「はい、授業は終わりですよ。お疲れさまでした」

「やったー、終わったー!」

「みなさん、よく頑張りましたね」

「えへへ、でしょー?」


 終わりの言葉を言うと、子供たちは一気に緩み始めた。ざわざわと騒がしくなる中、みんなの表情は明るい。授業は大変だったけど、充実感のある感じだ。


「みなさん、最後に聞いてください」


 私が声をかけると、騒がしかった教室が段々と静かになった。


「今日で先生が来るのはおしまいです。明日からはいつもの先生が来ますので、今日みたいに頑張って勉強をしてくださいね」

「えー、リル先生終わっちゃうのー?」

「まだ一緒にいたい!」

「水クッション、最後に触りたかった」


 今日で最後だと話すと、様々な反応を見せてくれた。たった一か月の先生だったけど、子供たちからは寂しいという声がとても多く上がった。それが何よりも嬉しい、私をちゃんと先生として見てくれたんだな。


「じゃあ、最後に大きな水クッションを作るので、みなさんちょっとだけ遊んでください」


 そう言って、大きな水球を作ると魔力の膜で覆い、水クッションを作った。それを床に置くと、子供たちは群がって水クッションに触ったり、叩いたり、弾んだりして遊ぶ。


「やっぱり、水クッション気持ちいい!」

「バイバイ、水クッション」

「最後にとりゃー!」

「次、僕も!」


 水クッションと戯れた子供たちから、廊下を出て家に帰っていく。その後姿を見ながら、子供たちが少なくなっていく教室を見てちょっとだけ寂しい気持ちになった。


 そして、とうとう最後の子供が水クッションと触れ合って家に帰っていく。


「さようなら」


 手を振って見ると、子供も手を振り返してくれた。すぐに前を見て駆け出して帰っていく。教室を見ると、シンと静まり返って寂しさがこみ上げてきた。


 そこへ、ずっと後ろで見ていた責任者が近寄ってくる。


「リルさん、授業お疲れ様。最後にお話をしたいと思っているので、終わったら部屋まで来てくださいね」

「分かりました。この水クッションを処分したら、部屋に伺います」


 にこやかな笑顔を浮かべた責任者がそれだけを伝えると、教室から出ていった。私もそれを追うように、水クッションを持ち上げると教室から出ていく。


 ◇


 水クッションを処分した私は責任者の部屋にやってきた。中へと通された私は、以前も座ったソファーにかけるように促されて座る。


「一か月間、先生役お疲れ様。この一か月間、どうだったかしら?」

「とても楽しい日々を過ごさせていただきました。子供たちに触れ合うととても気分が良くなります」

「そうなのね。そう言ってもらえて、とても嬉しいわ」


 責任者はにこやかな笑顔を崩さないまま、話を始める。


「今日、授業を見て驚いたわ。以前は立って歩いたり、お喋りを止めなかったりしていた子ばかりだったのに、黙って座って静かに話を聞く子ばかりだった。どんな風に子供たちに教えたの?」

「子供たちには一つずつ教えていきました。授業中は立って歩かない、人が喋っている時は喋らない。この二点を重点的に教えました。教える時もただ教えるのではなく、褒めながらやってました」

「そうだったのね。子供の気持ちに寄り添っていたからこそ、子供たちはリルさんの言うことが分かったのね」


 そうかもしれない。子供たちは賢いから、自分たちの味方なのか敵なのかは判別できると思う。そんな子供たちの懐に入れば、子供たちは心を開いて言うことを聞いてくれる。


 子供たちに寄り添ったからこそ、子供たちは応えてくれた。その事実を改めて言われて嬉しくなる。私のやったことは間違いじゃなかったんだと、自信にも繋がった。


「他のクラスで授業を受けている子供たちの顔はあまりいいものではないわ。でも、リルさんが受け持ったクラスのみんなの顔はイキイキとしていた。それがとても素晴らしいの」

「子供たちに勉強とは何か、勉強で何が身につくか、しっかりと教えたからかもしれません。みんな賢い子なので、それさえ分かってしまえば気持ちが楽になると思うんです」

「そうよね。ただ単に勉強をするのではなくて、勉強の先に何があるのか、それが重要だと思うわ。リルさんはそれを分かった上で、子供たちに教えて、しっかりと実行させた。とても素晴らしかったわ」


 責任者は立ち上がると、両手を差し出してきた。


「リルさんがここに来てくれて本当に助かったわ。改めてお礼を言うわ、子供たちに教えてくれてありがとう」


 私はその手を握った。


「私も子供たちと触れ合えてとてもいい経験になりました。こちらこそ、私を受け入れてくださってありがとうございます」


 がっちりと手を握ると、お互いに笑顔になる。この仕事ができて良かった、子供たちのためになれて良かった。嬉しいことがいっぱいで、胸の奥が温かくなる。


 どうか、あの子供たちの未来がいいものでありますように。そう願わずにはいられなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人生2週目の授業は説得力あるよな
[気になる点] 延長雇用の話かと思いましたら。 [一言] でも、このぐらいの区切りで、後ろ髪惹かれる展開にしないほうが、この話らしいかもです。
[一言] >子供たちを信じて、指導して本当に良かったと思った。子供には無限の可能性があって、それを生かしてあげるのが大人の役目なんだと思う。 ちょっと自分の年齢を思い出して見ましょうかw
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