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【書籍化、コミカライズ】転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!  作者: 鳥助
第五章 冒険者ランクC

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244.子供たちの先生(6)

 水のクッションを使って子供たちを席に座らせて、話をしている時は喋らずにいる。この練習をしばらく続けていった。


 始めは水クッションが楽しすぎて弾んで遊ぶ子や集中力が切れて喋り出す子がいた。だけど、根気強く教えていくと、段々減っていった。


 数が減り出すと、騒いでいた子供たちも雰囲気を察してか次第に静かになるようになる。段々とだが、授業をする環境が整ってきたように思えた。


 十日もすれば立って歩く子はいなくなり、喋っている時に喋り出す子はいなくなる。大分この環境に慣れてきたみたいだった。学ぶ姿勢ができあがったところで、授業をしてみることにした。


「今日は数字のお勉強をしようと思います。皆さんは数字を言えますか?」

「少しなら言えるー」

「全部言えるよー」

「うーん、どうだったかなぁ」

「分かる子も分からない子もいるみたいですね。今日はみんなで数字の数え方から学んでいきましょう」


 まずは数字の数え方を教えよう。みんなの顔を見ていると、普通にしている子、不安そうな顔をしている子、何が何だか分からない子。色んな子がいた。


「数字の数え方は一、二、三、四、五、六、七、八、九、十です。先生が言うので、後に続けて言ってみてください」


 数字の数え方の勉強が始まった。私が一つの数字を言うと子供たちはその後に続いて数字を言う、それを一から十まで続けていく。自信がある子もない子も等しく数字の数え方を始めから教えた。


 でも、何度も続けていくと飽きてしまう子が出てくる。なので、ある程度繰り返したら次は新しい数え方をする。


「次は水クッションで弾みながら数を数えてみましょう。いいですか、一つ弾むごとに数字を言ってくださいね」

「何それ、面白そう!」

「水クッションで数えるの?」

「尻で弾むなんて可笑しいー」

「みなさん、弾む準備はできましたか? それじゃあ、行きますよ」


 子供たちがジッとこちらを見て、タイミングを計る。私が数字を言うと、子供たちは数字を言って水クッションで弾む。また私が数字を言うと、子供たちは数字を言って水クッションで弾んだ。


 子供たちの声も楽しそうに弾んでいて、遊びながら数字を学べている。これで少しは数字を長く学べた、だけどずっと続けていくと飽きてしまうので、また新しいことをする。


「では、次に隣の人と交互に弾みながら数字を数えてみましょう。相手が数えたら、次は自分が。自分が数えたら、今度は相手が。そんな風に数を数えてみてください」

「よし、一緒にやろうぜ!」

「笑わせてやる」

「数えられるかなー」

「はーい、それじゃあ行きますよー」


 合図をして数字を数えると、片方の子供が数字を数える。もう一度数字を言うと、今度はもう片方の子供が数字を言う。その繰り返しで、数字を学んでいった。


 そんな風に遊びながら学んでいくと、時間が経つのが早い。数字を数えている時に終業の鐘が鳴った。


「はい、終わりですね。では、みんなで外に出て水クッションを割りましょう」

「よーし、俺いちばーん!」

「走っちゃ危ないんだよ!」

「次、俺ー!」

「待ってよー」


 水クッションを割る作業はみんなのお気に入りだ。それぞれが水クッションを持って、教室を出ると一目散に庭へと向かっていく。楽しいことがあると、学び舎に通うのも楽しくなるよね。


 子供たちと一緒に私も教室を出た。


 ◇


 十日で座ることと喋らないことを学び、十日で遊びを通して勉強することを学んだ。始めは立って歩いたり、お喋りが止まらなかったが、今ではそんなことはない。授業中に立つ子はいないし、喋っている時に喋る子はいなくなった。


 また勉強を学ぶことも覚えた。勉強を受け入れしやすくなるように遊びを通して勉強をすることを学んだ。誰もが楽しそうに学んでいて、分かる子も分からない子も一緒になって楽しそうだった。


 二十日もすれば子供たちは見違えた。以前の面影はなく、この学び舎が勉強をする場所なのだと認識を始めたのだ。勉強をする姿勢も整い、ようやくまともな授業を始めることができそうだった。


「今日から水クッションなしで授業をしたいと思います」

「えー、水クッションないのー?」

「あれ、気持ちよかったのに!」

「どうしてー?」

「まだ、使いたい!」


 水クッションを使わないと言うと子供たちから嫌だという声が上がった。あんな気持ちのいいものがなくなるんだから、そう言うのは仕方ないだろう。でも、そろそろ次の段階に進んでも良い頃合いだ。


「はい、静かにしてください。学び舎で勉強をすることは分かりましたよね。水クッションはそんな学び舎を知って貰うための、一時的な道具だったんです。みなさんは学び舎がどんな場所かもう知りました、だから水クッションから卒業したいと思います」


 話が通じたのか、子供たちはシンと静まり返った。表情は悲しげだが、話は理解しているので文句は出なかった。


「今日から他のクラスと同じような授業をしてみたいと思います。今までの授業を受けてきたみなさんなら、きっとできると信じています。学び舎で勉強をして、目標となる仕事をできる大人になりましょう」


 悲し気だった子供たちだったが、話を聞いて心を入れ替えた。もう、この子たちは大丈夫だ。この場所がどんなところか知ってしまったから、それに合わせてくれるはずだ。


「では、勉強を始めたいと思います。まず、やることは前の先生が教えていたところの復習です」

「はーい」

「どうぞ」

「どうして、同じところをやるんですか?」

「いい質問ですね。初めの頃はどんな授業だったか分かりません。だから、みなさんがどの程度の授業内容を知っているかも分かりません。なので、みなさんのことを知る意味でも同じところをやろうと思います」


 勉強内容を理解している子は復習のため、理解していない子はもう一度学び直すため。私は教科書の新しいところへ進むのではなく、今までの復習をすることを選んだ。


 私は先生が休んでいる時の繋ぎの先生だ。繋ぎの役割を果たすのであれば、新しいところを学ばせるよりは分からないところを無くす方がいいと考えた。


「では、文字の教科書の一ページを開いてください。一文字ずつ、学び直しましょう。小さな黒板は出しましたか? チョークはありますか? では、始めます」


 シンと静かになる教室で私の声だけが響く。私が黒板にチョークで文字を書くと、子供たちもそれを追って文字を書く。私が質問をすると、子供たちは手を上げて自分が当たるのを待つ。当たった子は元気よく答えて、当たると他の子がちょっとだけ茶化す。


 そんな穏やかな授業が進んでいった。始めは順調に進んでいたけれど、授業が長くなると集中力を切らす子が出始める。そういう時は「あと何分我慢しましょう」と声をかけて、気を引き締め直してもらう。


 三時間の授業の内、三つに区切り、その間に少しの休み時間を設けた。そうすることで、適度に息抜きをさせて授業への集中力を持たせる。そうやって初めての授業らしい授業を行った。


 そんな風に授業をしていると終業の鐘が鳴った。


「はい、授業の終了です。みなさん、よく頑張りましたね。もう話してもいいですよ」

「終わったー!」

「疲れたー!」

「俺、そんなに疲れてないもんね」

「嘘だー」

「お腹減って、やばかったー」


 授業が終わると、みんながだらけた姿勢になって思い思いの気持ちを口にした。うん、よく頑張ったね。初めての授業だったけど、なんとか終わらせることができた。これも頑張ってくれた子供たちのお陰だ。


「じゃあ、皆さん帰りましょう。さようなら」

「先生、さようなら!」

「よっしゃ、昼食だ!」

「一緒に帰ろうぜ」

「水クッションないと、尻が痛い」


 教室内は騒がしくなり、子供たちは元気よく教室から飛び出していった。それを見送りながら、頑張った子供たちに心の中から言葉を送る。


 本当によく頑張りました、後の数日間も頑張りましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言]  『水クッション』の魔法を含めた、『はじめてのじゅぎょう:入門編』をマニュアル化して残しておけば、後任や休職期間中の先生も助かるんじゃないかな。
[一言] リルは中々の先生っぷりですね。これは後釜の先生のハードルが高くなりますね。
[一言] 幼稚園、保育園、小学校一年生の先生みたいな苦労やね。
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