232.領主クエスト、魔物駆逐作戦(7)
走ってこちらに向かってくる火食い鳥。橙や赤の羽毛を纏っていて、強靭な足で走ってくる。空を飛ばない鳥型の魔物だ。名前の通り、火を使ってくる魔物だと思う。
火に強い魔物だと思うから、火以外を使わないといけない。水、氷、この辺りを使ってどうにか撃退したい。どんな風に攻撃するのがいいかな?
「よーし、行くよー!」
タクト君の声が聞こえ振り向いてみると、巨大な水球が宙に浮かんでいた。
「それー!」
その水球は凄い勢いで射出され、火食い鳥に向かっていき、空中で爆散した。なんていう豪快な魔法なんだ、私は呆気に取られてしまった。
水を思いっきりかぶった火食い鳥、すると動きに変化があった。あからさまに動きが鈍くなっていたのだ。火系の魔物だから、水には弱かったのだろう。倒すには至らなかったが、動きを鈍くする効果はあったみたいだ。
「もう一発!」
タクト君はもう一度巨大な水球を作ると射出した。その水球はまだ水をかぶっていなかった集団に向かっていき、空中で爆散して火食い鳥をずぶぬれにする。
「やっぱり、もう一発!」
まだ、やるの!? 驚いた私がまた振り向くと、すぐに巨大な水球を作ってそれを射出した。火食い鳥の頭上まで水球が飛ぶと、爆散して火食い鳥たちはずぶぬれになる。
私たちのところへ向かっている火食い鳥の集団は明らかに動きが鈍くなっている。戦いやすくはなるだろうけれど、先制攻撃が成功しすぎてちょっと怖い。これはタクト君が見る目があるってことなのかもしれないけれど。
「これで少しはやりやすくなったでしょ。あ、まだ僕の攻撃は続くから前に出ないでよね」
「はい。凄い魔法でしたね」
「こんなの凄い魔法には入らないよ。ただ水を魔力で出しただけの魔法だからね。こんなの寝ててもできるよ」
流石に寝ててもできないとは思うけど、ここはお口にチャックだ。
「次はどんな魔法を使うんですか?」
「もちろん、氷魔法さ。火食い鳥っていうんだから、冷気には弱いはずだし。さっきの水魔法も氷魔法が良く通じるように先手を打っただけの魔法だしね」
「氷魔法を効果的に使うための水魔法だったんですか」
なるほど、そういう魔法の使い方もあるんだな。二つの魔法を使ってより効果的に相手にダメージを負わせるのは立派な戦術だ。私も見習わなければ。
そうこうしている間に、周囲にいた冒険者たちは火食い鳥との戦闘が始まった。ラミードさんたちが戦っているところを見ると、火食い鳥は口から火を吐いている。なるほど、あんな風に攻撃を仕掛けてくるんだ、気を付けないと。
タクト君の水魔法で得た時間差のお陰で、どんな風に火食い鳥が攻撃を仕掛けてくるか事前に分かってよかった。くちばしと足の爪にも注意だね、よしこれで優位に戦えそうだ。
火食い鳥たちがあと五十メートルに迫った時、すごい魔力を感じた。振り向くと、タクト君が杖を前にかざして魔力を高めているところだ。
「よし、みんな凍れー!」
杖の先から白い冷気のようなものが飛び出していった。その冷気はこちらに迫ってくる火食い鳥たちに当たると、その動きが明らかに変化した。早歩き程度だった火食い鳥の足がゆっくりになり、しまいには止まってしまう。
止まってしまった火食い鳥をよく観察してみると、全身が凍り付いてしまっていた。あの冷気でここまで凍らせることができるなんて、すごい。
だけど、凍り付いてしまった火食い鳥の後ろからまだ沢山の火食い鳥が現れる。凍り付いた仲間を素通りして、火食い鳥は波となって襲い掛かってきた。
「来たね。まだまだ、僕の力はこんなもんじゃないよ!」
杖から放出される冷気の量が格段に増えた。巨大な霧になって冷気が火食い鳥たちを襲う、ずぶ濡れの火食い鳥たちはその冷気に当てられてあっという間に凍り付いてしまった。
どんどん現れてくる火食い鳥が、現れた瞬間に氷漬けにされていく。私の前には氷漬けにされて絶命した火食い鳥の像が沢山できあがっていった。
その像は十体を超え、二十体を超え、三十体を超えた。これをタクト君一人でやったなんて、すごい。
「そろそろ疲れてきたから、後お願いね。僕は魔力を回復させているよ」
「えっ? わ、分かりました。後は任せてください」
ここにきて突然攻撃の手を緩めるのっていいの? でも、タクト君だけに仕事をさせる訳にはいかないし、自分の番が回ってきたことだと思うことにしよう。
余裕そうな顔をして魔力回復ポーションを飲み始めるタクト君。そのタクト君を守るように前に出ると、火食い鳥たちが現れた。残りは十体くらいか……Bランクの魔物、私でも討伐ができるんだろうか?
そんなことは言ってられないよね、討伐するしかないんだ。まだ距離があるから、私も氷魔法を使って火食い鳥を氷漬けにしよう。手を前に掲げて魔力を高める。
そして、氷魔法を発動させる。すぐ傍まで迫ってきた火食い鳥は体に氷がついていき、その氷があっという間に全身に広がりすぐに氷漬けになった。事前にぶっかけた水魔法のお陰で、氷魔法の通りが良くなっていたみたいだ。
私の氷魔法でも火食い鳥を氷漬けにすることができた。私の魔法、Bランクにも通じるんだね、やった! 訓練した成果があったみたいで良かったよ、これからは自信を持って魔法が扱える。
火食い鳥を氷漬けにできたのは六体だけ、残りの四体はすぐそばまで接近してしまったので今度は近接武器だ。剣を構えると、すぐ傍まで迫った火食い鳥が襲い掛かってくる。
「クエェェッ!」
口をパカッと開けて、火を口から噴射してきた。羽毛がずぶ濡れでも、口からは火が吹けるらしい。魔法の壁を作り、その火を防御する。すると、他の火食い鳥も同じく火を噴射してきた。だけど、魔法の壁に阻まれて火は届かない。
その隙に身体強化をして、高くジャンプした。
「はぁっ!」
頭上から剣を振った。火食い鳥の細長い首を狙って剣を下ろすと、すっぱりと切れて首が落ちた。地面に着地すると、もう一度ジャンプして火食い鳥がこちらを向く前に首を狙う。
「やぁっ!」
もう一度剣を振ると、すっぱりと首を断ち切ることができた。動きが鈍い、水魔法のお陰で火食い鳥の動きが鈍くなっていて攻撃が当たりやすくなっているみたい。
二体の火食い鳥を倒すと、他の火食い鳥は火の噴射を止めて足の爪で攻撃してきた。
「クエェッ!!」
「クエッ!!」
鋭い爪が襲い掛かってくるが、動きの鈍いその攻撃は避けやすい。後ろにジャンプしてそれを避けると、片手を火食い鳥に向けて掲げた。魔力を高めて氷魔法を発動させると、氷の刃を作りそれを射出する。
勢いよく飛んでいった氷の刃は火食い鳥の体に突き刺さった。
「グエェッ!」
「グエッ!」
氷の刃の一撃で火食い鳥の動きは完全に止まった、好機だ。すぐにジャンプをして首に向かって切りかかった。細い首は容易く切り落とすことができ、その攻撃で二体は絶命する。
ドサリ、と火食い鳥の体が地面に倒れた。着地をしてすぐに周囲を見渡すが、周りに火食い鳥の姿は見当たらない。どうやら、自分たちに向かってきた火食い鳥は全部討伐できたみたいだ。
だけど、ラミードさんたちはまだ戦っている。手を貸したほうがいいだろう、すぐにタクト君のところへ行く。
「タクト君、ラミードさんたちの手伝いをしに行きましょう」
「えぇー、今休んでいたのに。向こうは向こうで勝手に倒してくれるから、平気だよ」
「それでもです。手が空いているなら、手伝うべきです。いつ何時不測の事態が起こるかもしれません。万全を期すべきです」
「僕の手なんていらないと思うけどなー。まーた、後で何か言ってくるよ」
「言った時は言い返してやりましょう」
「本当に? もう分かったよ、手伝うよ」
タクト君を引っ張って、ラミードさんの近くまで移動する。火食い鳥の掃討戦だ。




