231.領主クエスト、魔物駆逐作戦(6)
魔物と冒険者たちがぶつかり合った。混戦模様となる戦場では様々な声が上がり、一気に騒々しくなる。
「ポイズンアントめっ!」
「うりゃぁ!」
「ロックリザード、くらえっ!」
一対一で戦う冒険者が多い中、Aランクのラミードさんは複数と戦っている。
「うりゃぁっ!」
ラミードさんが剣を一振りすると、数体の魔物が吹き飛んでいく。豪快な力技が得意なのか、広い場所に陣取って次々と魔物を討伐していった。
私はみんなの穴を埋めるように戦おう。ちょっと離れたところで見ていると、間をすり抜けてくるワイルドウルフがいた。すかさず身体強化をして駆け寄り、剣を振るった。
「ギャウンッ」
首に深い傷を負わせると、ワイルドウルフは地面の上に転がった。すぐに顔を上げると、三体のゴブリンがみんなの脇をすり抜けて駆けてくる。それ以上は行かせない、身体強化をしたまま駆け寄って、剣を振った。
「グギャッ」
「ギャッ」
「ギャーッ」
縦に一撃、横に一撃、突き刺して一撃。三体いても簡単に一撃で倒すことができる。数は沢山いるんだから、手早く倒していかないと。
そう思っていると、頭上に火の玉が飛んでいった。見覚えのあるそれは人がいない場所に飛んでいき、盛大に爆発した。
「くそ、小僧か!? 危ねぇだろうが!」
「もっと弱い魔法にしろってんだ!」
「爆発以外に魔法は使えねぇのかよ!」
比較的近くにいた冒険者たちが大声で野次を飛ばした。確かに、人が戦っている近くで爆発の魔法は危ない。私は持ち場を離れて、タクト君に近寄った。
「あの、爆発の魔法が危ないと思います。近くで戦っている冒険者もいますし、違う魔法は使えないんですか?」
「えー、爆発の魔法が一番多く魔物を倒せると思ったのに、違う魔法? あるっちゃ、あるけど」
「お願いします、違う魔法を使ってください」
「んー……分かったよ。僕が違う魔法もしっかりと使えることを知っておいて欲しいし」
良かった、違う魔法を使ってくれるみたいだ。するとタクト君は杖を魔物に向かって掲げで、魔力を高めていく。
「ほーら、行くよ!」
杖の先から無数の氷の刃が飛び出していき、冒険者の頭上を飛び越え、魔物がいるところへ突き刺さる。奥の方で魔物が倒されているみたいで、悲鳴が聞こえてきた。
「これで文句ないでしょ?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、このまま魔物をせん滅していくね」
これだったら爆発に冒険者たちは巻き込まれない。安心して持ち場に戻ると、すでに数体の魔物が冒険者の脇をすり抜けてやってきていた。
早く倒さなくちゃ、身体強化をして次々に切り伏せていく。すべてを切り伏せた後に顔を上げて前を見ると、続々と魔物たちが姿を現す。倒してもキリのない数、これがスタンピード。
ぐっ、と気を引き締めて漏れ出した魔物に立ち向かっていく。
◇
私たちと魔物の戦いは、少しずつではあるが魔物の数が減らされていった。冒険者たちはお互いを意識しあい、協力体制で魔物討伐に当たっている。
このまま順調に戦っていけば、せん滅が見えてくる。誰もがそう思った時、新たな魔物の影が奥からやってきた。
「火食い鳥だ、Bランクの魔物が現れたぞー!」
今まではCランク以下の魔物ばかりだったが、ここに来てBランクの魔物の群れが現れた。場は騒然となり、思わず攻撃の手を緩める冒険者もでるほどだ。
「くそっ、Bランクの魔物の群れか!」
「とにかく、周りの魔物を一掃するぞ!」
「火食い鳥はどうする!? もうすぐそこまで来ているんだぞ!」
現れたのなら戦うしかない、誰もがそう思っているのに簡単には頷けない。それだけ敵が強くて厄介だから、みんな尻込みし始めている。
「Bランクの魔物を討伐したことがあるヤツが火食い鳥と戦うんだ! 他は今までの魔物と戦えばいい!」
ラミードさんの声でざわめきが収まりつつあった。適材適所っていう奴だよね、だったら私は火食い鳥と戦おう。
「火食い鳥と戦える奴は、この魔物たちよりも奥に行け!」
その指示を受けて、私は魔物たちの間を進んで奥へ行った。よし、ここからは火食い鳥との戦いだ、気を引き締めてかからないと。
「あれ? リルもBランクの魔物と戦えるの?」
「え……タクト君もですか?」
「僕はCランクだけど、Bランクの魔物を倒した経験があるからね。リルこそ平気なの?」
「はい、Bランクのズールベアなら何度も倒したことがあるので大丈夫です?」
「ズールベアだけ? それって本当に大丈夫なのー? 足を引っ張らないでよね」
ズールベアだけだけど、大丈夫かな? そう言われるとちょっと不安になってきちゃった。
「ちっ、なんでここにお前がいるんだよ」
「ガキも一緒かよ」
他の冒険者の声が聞こえてきた。その人たちはタクト君を見て嫌そうな顔をして捨て台詞を吐く。もしかして、この人たちも一緒に戦うの? 雰囲気が悪い、大丈夫かな?
「お、リルもいるじゃねぇか。まぁ、お前なら大丈夫か」
「精一杯頑張ります」
「おう、期待してるぜ。じゃあ、ここにいる五人でBランクの魔物と戦うことになるか。頼んだぞ」
ラミードさんが現れて、場に役者が揃った。火食い鳥と戦うのは全部で五人、思ったよりも少ない人数だ。この五人でどうにかして協力しあわないといけない。
「俺らはこいつとなんか協力しないからな」
「間違って魔法をぶつけられたら、堪ったもんじゃねぇ」
「おいおい、こういう時こそそういう感情は捨てねぇと」
早速問題が起こってしまった。タクト君を嫌がっていた冒険者が協力しないと言ってきたのだ。ラミードさんがいうように、今はそういう時じゃないのに。
でも、ここは個々で戦うよりも誰かと協力して戦った方がいいよ。ラミードさんが説得をするが、その冒険者たちはまったくいうことを聞かない。一方のタクト君は知らん顔をしているし、これはどうしたらいいんだろう。
そうこうしている間にも火食い鳥は距離を詰めてきている。地面を走るタイプの鳥型の魔物で、走る速度は速い。早くしないと接敵になっちゃうよ。
ここは一肌脱ぎましょうか。
「あの、私がタクト君と協力して戦いますから、ラミードさんは他の冒険者と協力して戦ってください」
「……しょうがねぇ、それしかないか。タクトの事、頼んだぞ」
「分かりました」
戦力が分割されちゃうけど、緊急事態だからしょうがないよね。
「というわけで、一緒に戦いましょう」
「僕一人でも大丈夫なんだけど。一人で戦うのが怖いの?」
「いいえ、何かあった時のために二人で戦うんです。タクト君の身に危険があったら私が、私の身に危険があったらタクト君が。そうやって協力しあえれば不測の事態もなんとかなります」
渋い顔をするタクト君。しばらく考えていると、何かを思いついたようにハッとした。
「そうだ、だったら僕のやりやすいようにしてよ」
「例えば?」
「魔物の近くに居られたら、魔法の邪魔なんだよね。だからさ、先制攻撃は僕がして、その攻撃から漏れた魔物と戦ってよ」
先制攻撃はタクト君、その攻撃から漏れた魔物を私か。それなら、なんとか連携が取れそう。こっちに向かってくる魔物を倒せばいいんだよね。
「分かりました、それでいきましょう」
「よし、決まり! これで思う存分魔法を放てるぞ」
嬉しそうな顔をして杖をブンブンと振り回す。さっきまで制約された中で魔法を使っていたからかな、解放されて嬉しそうだ。
ここは私が譲って、連携をしっかり取れるようにしないとね。火食い鳥の接敵はもう少しだ、今度も後ろにはいかせない。




