230.領主クエスト、魔物駆逐作戦(5)
私たちがいる範囲の飛びムカデは全て倒した。あとは、他のところにいった飛びムカデを討伐するだけだ。これは手伝ったほうがいいのかな?
「あの、ラミードさん。他のところの討伐を手伝ったほうがいいですか?」
「見たところ、飛びムカデは冒険者に引き付けられて領内には入っていない。領内に入っていないのであれば、その内討伐できるだろうから手伝わなくてもいいぞ。それにいつ魔物が現れるか分からないから、持ち場は動かないほうがいい」
「なるほど、そうですね。じゃあ、次の魔物が現れるまでここで待機ということですね」
「まぁ、そんなところだ。他の奴らも今の内に休んでおけよ」
ラミードさんの言葉でみんなが肩の力を抜いた。私も力を抜いて休もうとしたところ、タクト君が目に入ってきた。タクト君は鞄から何かを取り出し、それを飲む。あれは……そうだ、魔力回復ポーションだ。
「タクト君は偉いですね、もう魔力を回復させているんですか?」
「ん? まぁね、時間がある時に飲んでおかないといつ回復できるか分からないし。残りの魔力を管理するのは、魔法使いとしては当然だよ」
私も結構魔法使ったから、魔力回復ポーションを飲もうかな。まだまだ、魔法は使えるけれど、回復できる場面が今後出てくるかは分からない。マジックバッグから魔力回復ポーションを取り出すと、それを飲み干す。
すると、近くにいた冒険者がこそっと話し始める。
「あの野郎、もう魔力切れを起こしたのか? 子供だから魔力が少ないんじゃないか?」
「そんなんで大丈夫なのかよ。途中で魔力切れ起こしても助けてやれねぇぞ」
タクト君に聞こえるように話しているのが質が悪い。タクト君は大丈夫かな?
「ふっ、やっぱり凡人の冒険者には魔力管理の大切さが分からないようだね。まったく、先が思いやられるよ」
タクト君には嫌味が通じていないのか、いつも通り余裕そうな態度で語った。それには嫌味を言っていた冒険者は食って掛かろうとしている。
「はっ、何が魔力管理だ。本当は魔力が足りないだけじゃないのか?」
「僕は君たちと違って、一人で飛びムカデを倒したんだ。あんなに魔法を放ったんだから、魔力を消費したことは分かっているよね? その回復をして何が悪いのか、全く頭が悪くて困っちゃうよ」
「なんだとっ!? 本当はくそ弱いくせに!」
「だーかーらー、さっきの見てなかったの? 一人で飛びムカデを倒せる僕と、魔法使いに飛びムカデを落としてもらわないと討伐できない冒険者、どっちが強いかなんて分かり切ったことだよね」
「なんだと!」
「こら、何をもめている」
ラミードさんが仲裁に入ってくれた。
「まだまだ戦わないといけないんだぞ、こんなところで揉めている場合じゃないぞ」
「だって、そいつが!」
「僕は何もしてないよ。そっちが勝手に話しかけてきたんじゃないか」
「それはお前がっ!」
「おいおいおい、勘弁してくれよ。本番はこれからなんだぜ」
頭を抱えたラミードさんは食って掛かった冒険者を押してタクト君から離れさせた。その時、ラミードさんがこちらを見た。タクト君は任せたっていうことかな、なんて話そう。
「あの、タクト君。あの人たちの言い方が悪かったかもしれませんが、煽るのはあんまり良くないですよ」
「煽る? 僕は煽ってなんかいないよ、本当のことをいったまでさ」
「えーっと、言い方を柔らかくして言ってほしいのですが」
「柔らかいって何さ。言葉に固いも柔らかいもないよ、言葉は言葉さ」
うーん、話が通じない。どうやって言ったら伝わるんだろうか? 言葉使いを……いやいや、言葉の選び方を。
「それにしても、リルの魔法は面白いよ。魔法の練度はかなりのものだけど、精度はいまいちだね。どんなことをして魔法を鍛えていたのさ」
「えっ……えっと、とにかく魔法を使いまくりました」
「あー、なるほどね。考えもなしに魔法を使ってたからあんな風になったのか。実戦の経験値が足りない気がしたよ、もっと魔法の実戦経験を積んだほうがいいよ」
あー、確かにそれはあるかも。魔法を鍛えてきたけど、実戦ではまだまだ経験値不足だ。そしたら、もっと精度が上がるかな……って話が逸れてる!
「そうじゃなくて、えーっと……今度は優しい言い方をしてください」
「誰に優しくするのさ?」
「み、みんな?」
「やだよ、気持ち悪い。どうして僕が優しくしないといけないわけ? 僕の方が実力が上なんだから、優しくされるべきは僕の方だと思うんだけどな」
「う、うーん」
確かにタクト君は強いけど、強いからって優しくされるのは違うと思うし。じゃあ、その逆も一緒なんじゃないかな? なんだか話がこんがらがってきたような。
「そろそろ、周りも飛びムカデの討伐が終わる頃じゃない?」
「えっ?」
タクト君に言われて周りを見てみると、飛んでいる飛びムカデはほとんどいなくなった。数えきれないほどにいた飛びムカデが本当に討伐されたんだ、すごいな。
とりあえず、第一弾は無事に討伐が完了したってことだよね。
◇
しばらく待機していると、遠くから何かが近づいてきていた。それはどんどん近づいてきて、地平線がうごめているように見える。
遠くからでもわかる無数の魔物の存在。スタンピードの余波だとしても、数えきれないほどに多い。スタンピードの直撃を受けた場所はきっとあの数よりも多いのだろう、そう思うとゾッとした。
現れた魔物の存在に冒険者が気づき、戦う準備を始める。
「よーし、本隊が見えてきたぞ。みんな、覚悟はいいか?」
ラミードさんが声を上げると、他の冒険者たちが呼応する。あの無数の魔物と戦う覚悟か……心を強く持とう。
だんだんと魔物が近づいてくる。ようやく魔物の形が分かった時、タクト君が前に出た。
「まずは先制を頂くよ」
杖を魔物に向けて構えると、杖の先から火の玉が作られる。すると火の玉は勢いよく放出され、曲線を描きながら魔物のところに落ちていった。瞬間、爆発が起こった。
「いい感じで当たってるね。それ、どんどん行くよー」
すごい、この距離からも魔法が当たるんだ。タクト君は次々と火の玉を放出して、魔物を爆発でやっつけていく。みんなとの足並みは合わないが、先制攻撃は成功した。
だけど、それを気に食わないと思う冒険者たちがいる。
「一人で勝手に攻撃しやがって」
「子供のための戦場じゃねぇんだ、目立ちたかったら他でやれ」
足並みを揃えないことに苦言を呈しているみたいだ。それを横目で見つつ、タクト君が反論する。
「僕は攻撃範囲が広いからね、おじさんたちとは違って」
「あぁ?」
「なんだと」
「今は役立たずなんだから、黙ってみていることもできないの?」
「このっ」
「クソガキがっ」
今にもつかみかかりそうな冒険者たち。慌ててラミードさんが間に入った。
「そろそろ戦闘が始まる。そういうのは止めておけ」
「ちっ、後で絶対に後悔させてやる」
「覚えてやがれよ」
「全く……」
なんとか場は持ってくれたみたいだ。その間にもタクト君は魔法を連発して、次々と魔物の数を減らしていく。素直に遠距離から魔法を当てることがすごいと思った。
私の魔法はどちらかというと中距離魔法なので、もう少し近づかないと魔法を当てられない。タクト君だけ攻撃しているという歯がゆい状況だ、見ているだけはなんとも心地が悪い。
遠くにいた魔物が残り百メートルという距離まで近づいてきた。そこにいた魔物は多種多様だ。見慣れたゴブリンやワイルドウルフがいたと思ったら、ハイアントとは形の違う蟻型の魔物がいたり、背中に石を背負った四足歩行のトカゲがいる。
相手がどんな攻撃を仕掛けてくるか分からない。だから、魔法で先制攻撃をする。
「私も魔法を使います!」
この距離なら私も魔法を当てられる。両手を前に突き出し、全身から魔力を引き出していく。手に集まった魔力を風魔法に変換すると、竜巻を生み出した。
「いけぇっ!」
竜巻になった風魔法は凄い速さで魔物に向かっていき、直撃した。直撃された魔物が竜巻に巻き込まれて、切り刻まれていく。
「もう一つ!」
また同じように魔法を風魔法として放出すると、もう一本の竜巻が生まれた。竜巻は魔物に向かっていき、魔物を巻き込んでいく。これで、向かってくる魔物の数を減らすことができたかな?
でも、竜巻がないところから魔物がどんどん押し寄せてくる。魔力はまだまだある、両手を前に突き出したまま全身から魔力を引き出す。次は火魔法だ。
「くらえっ!」
右と左、両方に凝縮された火の玉を作るとそれを真っすぐに放った。真っすぐに飛んだ火の玉は魔物の中に吸い込まれ、着弾した。その瞬間大きな炎になって魔物たちを包み込んだ。
特大の火で焼かれた魔物はその場で倒れた。だけど、火に当たらなかった魔物もいる。それらが倒れた魔物を踏み越えて、こちらに近づいてきた。残り五十メートル。
「よし、攻撃開始だ!」
ラミードさんが声を上げると、近距離攻撃の冒険者が雄たけびを上げて魔物に向かっていく。前を行く冒険者がいる以上、広範囲の攻撃は放てない。
私は剣を抜き、みんなの後を追った。




