229.領主クエスト、魔物駆逐作戦(4)
その日は見張りをギルド員に任せて、冒険者たちは寝た。翌朝、目覚めると調査をしに行ったギルド員が戻ってきた。
「魔物はもう少しで現れます。みなさん、戦闘の準備をお願いします」
ついにこの時が来た、冒険者たちは腹ごしらえをして、魔物が来る時を待った。眩しい朝日が照りつける中、空気が張りつめていく。
私たちはとりあえず集まって、その時が来るのを待った。隣領からくる魔物はどんな魔物か分からない、事前に知ることができなくてちょっと不安だ。
その時、ラミードさんから声がかかる。
「よう、調子はどうだ?」
「普通ですね。ラミードさんはどうですか?」
「まぁ、ぼちぼちだな。あとは本番を待つだけとなったが、上手く連携が獲れるかどうか分からないな」
「そこが不安ですよね」
昨日のことを考慮すると、完全な連携はとれないんじゃないかと思った。他の冒険者たちはタクト君を嫌っていて、タクト君は他の冒険者のことを下に見ている。この状況で連携をとるのは難しいだろう。
ラミードさんは腕を組んで一考しているみたいだ。何か思いついたのだろうか?
「もし、上手く連携できなかったら、タクトのフォローをお願いできるか?」
「私がタクト君のフォローをですか?」
「あぁ、他の奴らは連携はできる状態にはなっているが、タクトと連携を取ろうっていう奴らはいない。でも、一人にはしておけないから、何かあった時は駆けつけてやってくれないか?」
他の冒険者とタクト君が連携は取れないだろう。この時、一人になったタクト君が危ないのは目に見えている。でも、一人にはさせられないので、私だけでもフォローに回るということかな。
「分かりました。どれだけのことができるか分かりませんが、フォローに回りたいと思います」
「頼んだぞ。もしもの時は俺もフォローに回る。全員生きて帰ろうな」
「はい、みんなで生きて帰りましょうね」
何かあったらラミードさんがフォローに入ってくれる、これほど心強いことはない。ラミードさんが拳を向けてくると、私も拳を作ってコツンと当てた。なんだか冒険者っぽくていいな。
「見えてきたぞ! 上だ!」
誰かが叫んだ。地上ではなく、上からだと。視線を上に向けると、細長いものが無数に飛んでくるのが見えた。
「あれは、飛びムカデだ!」
空飛ぶムカデか、そのまんまの名前だな。始めの敵は空からか……どうしたらいいかな? すると、ラミードさんが声をあげる。
「魔法を使える奴が飛びムカデに攻撃しろ。落ちてきたところを、近接武器で倒していく」
魔法を使えるのは三人。私、タクト君、他の冒険者だ。とにかく、この三人で飛びムカデを落としていかないといけない。
待っていると、その姿がはっきりと見えてくる。細長い体に無数の足が付いた、虫型の魔物。大きな目に鋭い牙のような口がついている。見た目はかなり気持ち悪い。
「ふふん、僕の出番だね。遠距離は得意なんだ」
まだ、離れているのにタクト君は杖をかざした。こんな距離から魔法が当たるの?
「くらえっ!」
杖が怪しく光ると、杖から火の玉が猛スピードで発射された、それが三つも。その三つは真っすぐと飛びムカデに飛んでいき、見えなくなってしまった。こんなので本当に大丈夫なの?
まだ遠くにいる飛びムカデを見ていると、突然三つの爆炎が立ち上った。もしかして、さっきの火の玉が当たったの? 結構小さな火の玉だったのに、着弾するとあんなに大きな爆発になったのは驚いた。
魔法を食らった飛びムカデは力尽きたように地面へと落ちていく。一撃で大きな飛びムカデを倒すなんて……タクト君って本当に強いの?
「ほらほら、僕の力はこんなものじゃないよ!」
杖をかざして、次々と火の玉を発射していく。すると火の玉は飛びムカデに吸い寄せられるように飛んでいき、見えなくなった十数秒後に大きな爆炎となって姿を現した。
それを見ていた冒険者たちは呆気に取られた。こんな遠距離から百発百中の魔法を放つことができるタクト君を見て、未だに信じられないって顔をしている。
「今の魔法は照準機能をつけた特別性の魔法さ。これで当てたいところに魔法を当てることができる。あんな巨体でも頭さえ吹っ飛ばせば、簡単に死んじゃうんだから楽な仕事だよね」
照準機能、そんなことを魔法につけることができるんだ。タクト君って本当に凄い魔法使いだったんだね。平気な顔をしてどんどん魔法を放っている姿を見ると、心の底からそう思う。
だけど、そんな飛びムカデもだんだんとこちらに近づいてきた。広範囲に広がって押し寄せてくる光景は圧巻で、心の持ちようが弱いと怖気づいてしまいそうになる。
そして、飛びムカデはすぐ十メートルまで近づいてきた。攻撃のチャンスだ。
「どんどん魔法を放って、地面に落とせ!」
ラミードさんの掛け声と共に手をかざした。魔力を風に変換して、手の前で風を凝縮する。そして、それを飛びムカデに向かって放った。凝縮された風弾は真っすぐに飛びムカデに飛んでいき、それは命中した。
ドンッ、という音と共に飛びムカデの体に穴が空く。すると、その攻撃を受けた飛びムカデは堪らずに地面に落ちた。
「落ちたらどんどん倒しに行け!」
落ちた飛びムカデに冒険者が群がっていく。私はそれを横目で見ながら、次の風弾の準備をした。風の魔力を集めて凝縮して、狙いを定めたら放つ!
真っすぐ飛んでいった風弾はまた飛びムカデの体に当たり、大きな穴を作った。体が突然欠けた飛びムカデは地上に落ち、他の冒険者たちに頭をかち割られる。
「へー、中々の威力だね。それなりに修練を積んでいるみたいだね」
「ありがとうございます。タクト君は凄い威力でしたね」
「僕の魔法はこんなものじゃないよ。もっと凄い魔法を沢山放つことができるんだからね」
余裕そうな姿を見ていると、本当にそうじゃないかと思えてくる。照準機能のある魔法以上に凄い魔法か……か、見てみたいかも。タクト君ってどこかで魔法を教えてもらったりしたのかな?
「その魔法は誰かから教えてもらったんですか?」
「まさか、全部独学だよ。他人は凡人だらけだったからね、学べることは全くなかったよ」
「一人でそこまでの魔法を? すごいですね」
「何、ようやく僕の凄さが分かったの? 全く、これだから凡人は何もかもが遅いんだから」
二人で話しながら、次々と飛びムカデを落としていく。私よりもタクト君のほうが魔法発動が早く、どんどん飛びムカデを一撃で倒していった。私はというと、真っすぐしか飛ばない風弾で飛びムカデの体に当てるのがやっとだ。
「ほらほら、僕の方が多く倒しているよ。負けないように頑張らないと」
タクト君が余裕の表情で煽ってくる。だけど、私はそんなことでは慌てない。だって、私には私にしかできないことがあるから。それを実直に続けていくのがみんなのためになる。
集中して風弾を作り、一発ずつしっかりと当てていく。こちらも百発百中なのだが、一発ずつに時間がかかるのがネックだ。それでも確実に数を減らしているから効果はある。
落ちていった飛びムカデは他の冒険者たちが処理してくれている。なんとか連携を取れている形になっている、この調子が続けばいいな。
逆にタクト君は連携を取らずとも一人の力でなんとかしている。それは魔法使いとしての力量があるからできることで、普通ならば難しいだろう。それがいいことなのか悪いことなのか、今の時点でははっきりと言えない。
「これで終了っと」
火の玉を一つ出すと、それが飛びムカデの頭に飛んでいき爆発した。その飛びムカデが落ちると、私たちの頭上には飛びムカデはいなくなっている。他のところを見ると、まだ戦闘が続いているようだった。
「あれー? 他のところはまだ戦っているの? 遅いなー。ま、ここには僕がいるんだし、僕のお陰だよね」
ふふん、と胸を張るタクト君。確かに、タクト君の攻撃があったから他に比べて早く魔物を討伐することができた。この言葉に反論する人はおらず、他の冒険者たちは歯がゆい思いをしたみたいだった。




