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【書籍化、コミカライズ】転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!  作者: 鳥助
第五章 冒険者ランクC

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216.商家の護衛(9)

 結局、その日は何もなかった。翌朝の朝食時にボブさんは問題がなかったことを教えられた。


「鍵がかかった部屋に押し入ろうという輩もいなかったよ」

「何事もなくて良かったです」


 一晩中、護衛をしようかと申し出たのだが、ボブさんはそこまでしなくてもいいと言ってくれた。外に置いてある馬車を見ても、何も盗まれてはいなかったし、細工もされていない。


 だったら、昨日の二人組は何を狙っていたんだろう。疑問は尽きなかった。一人で考え事をしていると、ウルマさんとロザリーさんが話しかけてくる。


「もし、何か仕掛けてくるのであれば、町を出る前の少しの時間か?」

「私たちは通りを進むのよ、そんな人目があるところで行動に移すかしら」

「そうなんですよね、人目があるところで行動するとは思えないんです。だったら、宿屋にいる時を狙ってって思ったんですけど、杞憂でした」


 二人は難しい顔をして怪しい二人組のことを考えてくれている。その一方、ニックさんたちは軽い調子のままだ。


「きっと、あれだよ。リルの緊迫した雰囲気を察知して、襲うのを諦めたんじゃねぇのか?」

「ズールベアを簡単に狩れるリルちゃんだもの、そんな雰囲気を醸し出しても可笑しくはないわ」

「だったら、馬車移動の時は先頭を行ってもらうか? そしたら、その雰囲気で魔物が寄ってこなくなるかも」


 この三人は私をなんだと思っているんだろう、私は普通の人なのに。大体、そんな雰囲気は出していませんよ。ちょっとムッとしているが、三人はお構いなしに会話を続ける。


「それに襲い掛かってきたら、リルが一人で対処しそうだけどな」

「ズールベアに勝つ少女だもん、勝てる人なんているの?」

「その内、ズールベアを従えたりしてな!」

「もう、三人とも酷いです!」


 可笑しなことばっかり言って、私を人外みたいな生き物みたいに。私は普通の少女です!


「まぁまぁ、リルちゃんは私の身を案じてくれているだけだからな。一応、町を出る時までは気を引き締めていこう」

「こんなに冒険者がいるんだ、簡単に返り討ちだぜ」

「できる限り慎重に動こう」


 本当に何事も起こらなければいいんだけど。


 ◇


 支度をすませると、受付のホールでみんなで待ち合わせをした。借りていた部屋の鍵を返し、いよいよ宿から出ることになる。


「じゃあ、なるべく周囲に気を配りつつ移動を開始するぞ」


 ウルマさんがこの場を取り仕切ってくれた。扉を開けて外に出ると、すぐに周囲を見渡す。今のところ怪しい動きをする人はいないみたいだけれど……


 ボブさんが馬車の準備を進めている時、私は周囲の警戒をした。その時だ、こちらを窺う視線を感じる。いる、絶対に昨日見てきた人たちと同じ視線だ。


 私は相手に気取られないように、周囲を見渡した。すると、足早に去って行く男の人の姿が気にかかる。昨日とは違う人だけれど、あの人が怪しい。


 私はみんなに知らせるために馬車に近寄った。


「先ほどこちらを窺う人がいました」

「それは本当か?」

「私たちが出たのを確認して、この場を立ち去ったように見えました」

「そうか……町を出るまで油断はできないな」


 ウルマさんが難しい顔をして考え込む。


「よし、馬車の前は私たち、馬車の後ろはニックたち。リルはボブさんの近くにいて警護だ」

「おう、後ろは任せろ」

「分かりました」


 陣形はいつもと同じ。突然変えて、対処できなかったら大変だもんね。


「それじゃあ、行くぞ」


 ウルマさんの合図でボブさんは馬に鞭を打ち、馬車は動き始めた。


 ◇


 通りを順調に進んでいく馬車。町を出るまで三十分程度だ、とにかくこの時間を守り切れればいい。近寄ってくる人がいれば、注意深く確認をして、危険がないかどうかを判断する。


 どうやら今は監視の目がないらしく、こちらを窺う視線を感じない。もしかしたら、どこかで待ち伏せしている可能性もある。より一層気を引き締めて通りを進んでいく。


 そして、私たちは町の門まで辿り着いた。通りでも、門のところでも何事もなく通過することができる。なんだか拍子抜けだ、何か起こると思ったのに。


 門を過ぎて街道に入ると、ウルマさんがみんなを一度呼び寄せた。


「ここまできて何もなかったな。警戒を緩めて、いつも通りの護衛に切り替えよう」

「さんせーい。気張ったから疲れたわ」

「何か起こると思ったんですが……まぁ、何事もなくて良かったです」


 今後の護衛のことを確認して、私たちは定位置についた。それから、いつも通りに街道を進んでいく。


 ともかく、何事もなくて本当に良かった。もしかしたら、狙っているのを諦めてくれたのかな? そうだとしたら、警戒した意味があったというものだ。


 歩き始めると、御者台に座っていたボブさんが話しかけてきた。


「何事もなくて本当に良かったね。本当に襲われたらどうしようかと思ったよ」

「襲われなくて本当に良かったです。相手は諦めてくれたんですかね」

「そうだろうね。だって、六人も冒険者がいるんだから、普通は物怖じすると思うよ」


 相手はこんなに護衛の冒険者がいるとは思わなかったから、手を引いてくれたのかな。ボブさんの手伝いをしていた時には子供の私が護衛には見えずに、全然警戒していなかったかもしれない。


 そうだよね、こんなに冒険者がいるって分かったから手を引いてくれたんだ。私一人じゃけん制にはならなかったけれど、みんながいてくれたお陰でけん制できたのかも。


 私はようやく警戒を解くことができた。後の任務はボブさんをコーバスの町まで護衛するだけ。帰り道も来た時同様に魔物に気を付けながら進んでいこう。


 ◇


 その日の昼頃、街道は森に囲まれた場所まで進んできた。森の中に入って十分後、ウルマさんが馬車を止める。


「街道が倒木によって塞がれているみたいだ」

「参ったな。どかせられるかい?」

「みんなで協力すればなんとか動かせそうだ」

「私も手伝います。身体強化が使えるので、お力になれると思います」

「あぁ、リルもよろしく頼む」


 後方組のニックさんも呼んで、全員で倒木を動かそうとした時だ、嫌な気配がした。立ち止まり周囲を確認してみると、森の中から何かが飛び込んでくる。


「気を付けてください、何かが来ます!」


 次々と森の中から現れたのは、武器を持った人間だった。その人たちは後方から馬車を取り囲むように現れる。馬車の後方はあっという間に武器を持った人間に埋め尽くされた。


「や、野盗集団だ!」


 その集団を見たボブさんは声を上げた。これが、野盗集団?


 みんなで後方に行くと、目の前を埋め尽くすほどの武器を持った人間がいた。どの人も口を布で覆い隠し、鋭い眼光でこちらを品定めしているようだ。


 無言で睨み合っていると、野盗集団から声が上がる。


「俺たちが噂の野盗集団だ!」

「てめぇら、金目の物を置いていかないと皆殺しにするぞ!」

「三十人いる俺らに勝てると思うなよ!」


 手に持っている武器をチラつかせながら脅かしてきた。野盗が三十人もいるなんて、そんな大人数を相手になんてできるの? しかも、ボブさんを守りながら戦うことができるの?


 取り囲まれて焦る私たち。顔を見合わせてどうしようか考えるが、簡単には答えは出ない。交戦か、降参か。みんなの視線を見ても、どっちにしようなんて分からなかった。


「早く決めないと、殺しちまうぞ!」


 えっ。その声を聞いた瞬間、強烈な違和感を感じた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 街ぐるみの実質強制接収か?噂を流すのもわざわざ人数を言うのも諦めて荷を渡すだろうという目論見が見える見える
[良い点] よほどの圧政なのですね。 [気になる点] 女子供まで討伐するのは、さすがに憚られる。町が無くなるとどうするかという問題もありますね。
[一言] パパ上参上かな
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